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第211話

相川言成が病室を出た直後、急ぎ足で駆けつけてきた相川涼介と鉢合わせした。二人が視線を交わしたその瞬間、相川言成の目には怒涛のような憎しみが浮かび、さっき杏奈に対してほんの少し芽生えかけた好意も一気に抑え込まれた。

彼は冷ややかに相川涼介を睨みつけ、肩をぶつけるようにして彼を押しのけると、足早にその場を去った。

相川涼介はその背中を見つめながら、彼の目にも憎悪が宿っていた。長年が経った今でも、彼がまた杏奈に近づくとは思ってもみなかった。

相川言成が一体何を考えているのか、彼を憎んでいるのに、その憎しみを杏奈に向けて復讐を果たそうとするなんて、本当に矛盾している。

だが、相川言成が何を考えていようと、これからは決して彼が杏奈を以前のように虐げることは許さないと心に決めた。

相川涼介は視線を戻し、病室へと足を踏み入れた。杏奈の体に刻まれた傷を目にした瞬間、彼の心には哀しみが広がり、優しく声をかけた。

「杏奈、大丈夫か?」

「大丈夫よ」

杏奈は首を横に振り、相川涼介の顔にも傷があることに気づくと、心配そうに尋ねた。「従兄、あなたも怪我してるわね、大丈夫?」

相川涼介は少しばかり恥ずかしそうに、顔の傷を触れながら言葉を濁した。

あの夜、霜村冷司がついてくるなと命じたにもかかわらず、心配でこっそり後を追ったのだ。

彼が墓地に入っていくのを見て、和泉さんに話しかけに行くのだろうと思い、特に何もせず見守っていた。

ところが、しばらくすると、九条夜空の手下たちが霜村冷司を背負って出てきたのだ。

彼が意識を失っており、手首から血を流しているのを見て、彼女たちに傷つけられたのだと思い、彼を奪い返そうとしたが、相手に太刀打ちできず、そのまま九条夜空の手下に数日間閉じ込められてしまったのだった。

相川涼介はこの話をあまり語りたくなかったので、話を濁しながら言った。「長い話だ。後で話すよ」

杏奈もそれ以上問い詰めることはせず、彼に頼んだ。「従兄、これまでに稼いだお金を引き出して、白石さんに渡してもらえるかしら」

彼女は和泉さんを救うために奮闘していたとき、彼女が目を覚ましたら、白石さんのためにお金を残すと約束していた。

和泉さんは長く生きられなかったが、その約束だけは守りたかった。それが少しでも罪を償うことになるかもしれないから。

彼女は負傷していて動けなか
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