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第6話

竜一が去った後、彼が私に言った言葉がまだ頭から離れなかった。

彼が一夜にして別人のような態度になったのも無理はない。

全て私が原因だったからだ。

その時、竜一にはすでに好きな女性がいた。

彼と同じクラスの一人だった。

その人は真希だった。

竜一が起業した後、真希は当然のように彼の会社に入り、社長となった。

しかし、竜一が真希に正式に告白しようとした直前のことだ。

私の両親が桜井のおじいさんを訪ねた。

「あの娘はお前に向いていない。お前の会社なんぞは桜井家にとっては大したことない」

「もしお前の会社がなくなったら、おだと思う真希はお前の側に残ると思うか?」

これは桜井のおじいさんが彼に言った言葉だと、竜一は私に教えてくれた。

桜井のおじいさんが望めば、竜一の会社は一夜にして元の状態に戻される。

未発表の気持ちがそこで封じ込められてしまった。

そして私は、当然のように、竜一が失敗した恋を晴らすための道具となった。

竜一が言った言葉を聞いて、私は笑いが出てきた。そして同時に哀しくなった。

私が彼の提案に応じる前に、竜一はテーブルの上の離婚協議書を取って行った。

それから彼は病院に来るどころか、一度も顔を出さなかった。

退院して家に帰り着いたとき、キッチンで見慣れた後ろ姿を見つけた。

空気中に焦げ臭さが漂っていた。

ドアを閉める音が聞こえたのか、竜一はキッチンから慌てて出てきた。

手に持っていたフライパンのヘラも忘れていた。

「おかえり、お前の一番好きな角煮を作ったよ」

そう言いながら、竜一は私のバッグを受け取ろうとした。

しかし、私は体を傾けてそれを避けた。

「食べたくないから、自分で食べるといい」

階段を上るとき、視界の隅で竜一が拒絶された後、ぽかんと立ち尽くしている姿が見えた。

唇を強く噛み締め、落胆の表情を浮かべている。

だが、私の心の中では皮肉な思いが湧き上がった。

竜一、お前も悲しむのか?

ただの一度でそんな顔をするなんて、私はずっとこんなシーンを繰り返し見てきたんだよ。

寝る前に、竜一は私の部屋に来た。

「花穂、温めたミルクがあるから飲んでから寝なよ」

私は竜一が一歩一歩近づいてくるのを見つめ、ミルクの香りが鼻を刺激した。

それが気持ち悪くなってきた。

竜一はミルクを置くと、急いで私の背をさ
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