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第2話

ぼんやりとした意識の中で、竜一が一群の人々を引き連れて次のパーティーに急いでいくのを感じた。

そして、竜一が電話の向こうのアシスタントに向かって冷たく命令する声も聞こえた。

「彼女を家に送ってくれ」

過去の思い出が一瞬にして私の脳裏に甦った。

私は我に返り、竜一の返答を待たずに彼を避け、バーを出て行った。

おじいさんの伝言は伝えた。行くかどうかは彼の自由だ。

竜一の前で、私はこれまで一度も顔色を悪くしたことがなかった。

これが結婚してからの初めてのことだった。バーを出た後も、竜一是ドアのところで呆然としていた。

車に乗った途端、竜一から電話がかかってきた。

「ただ友達同士の冗談だよ。そんなに怒るなよ」

竜一の最初の一言は、私の行動に対する質問だった。

挨拶もなく去った私の行動が彼を恥ずかしがらせたようだった。

私の心は苦しくなった。

友達同士だからこそ、こんなにも親密になれるのか。

それなら、私たちも友達と呼べるのだろうか。

電話の向こうで、彼の友人たちのからかいが聞こえた。

「桜井さんが帰ったら、奥さんまた抱きついて泣くだろうな」

「恋人の頃は別れないでと泣いて、結婚したら離婚しないでと泣く。笑っちゃうよ」

「静かに、桜井さんが電話してるんだよ」

彼らは言う。誰かが本当にあなたを愛しているかを見るには、その人の友達があなたに対する態度を見るべきだ。

明らかに目の前にあることなのに、私はいつもそれを無視してきた。

「戻って、真希に謝れ。彼女を困らせたんだから」

「謝らないなら、僕は戻らない」

竜一の私に対するいつもの脅しの言葉を聞き、私は思わず笑ってしまった。

「どうでもいいわ」

以前はこれらの言葉が私を脅すことができたのは、私が彼を愛していたからだ。

でも今は、こんな状況を続けるのはもういやだ。

竜一の電話を切った後、私はスマホを取り出した。

真希も私が去った後新たな投稿をしていた。

写真は一人の男性がワイングラスを持つ手。

キャプションは、「誰かはいつもあなたの側にいる」

竜一と長い時間を過ごしてきた私は、すぐにその写真の主が誰なのか分かった。

ましてや、彼の右手には私たちが結婚した時の指輪をはめていた。

もう傷つかないと決めたのに、この投稿を見た瞬間には涙が滲んだ。

竜一のいいね!のアイコンが目に飛び込んできた。

私もそれに続くようにいいね!を押した。コメントは、「尊重し、祝福する」

手首のダイヤモンドリングが光を反射した。一瞬ためらった後、それを取り外した。

長い間つけ続けて、まるで呪縛のようになっていた。

三年ぶりに新たな投稿をした。

「自分自身を永遠に愛し、誰に対しても自由を与える」

前の投稿を見返すと、それは私と竜一の結婚式の写真だった。

写真の中の私はとても幸せそうに笑っていた。

目にはすべてが竜一でいっぱいだったが、彼の目には全く興味がないのが見て取れた。

夜、私は早めに洗濯を済ませ、ベッドに入った。

今回は、竜一に電話をかけず、ライトもつけなかった。

新婚当初、竜一是ぎっしりと会社の仕事をしていて遅くまで帰ってこなかった。

私は毎回、彼のためにご飯を作ってテーブルの上に置いて待っていた。

ドアが開くとすぐに駆け寄り、彼が普通の夫婦のように私の額を撫でて料理を褒めてくれることを待っていた。

しかし、竜一是黒い顔をして私を避け、テーブルの上の料理を見て眉をひそめた。

「どういうわけ?クライアントに向き合うのに疲れてから、家に帰ってまでお前のために食卓に座らなければならないのか?」

私は竜一の一言に言葉を失った。

私たちの関係を「向き合う」と表現するなんて思わなかった。

心は落ち込んでいたが、顔には笑顔を保っていた。

「ただ一緒に食事をしたいだけ。あなたが仕事で疲れてると思って」

「勝手なことはするな」

これが結婚してからの初めての待ち時間だった。

私はただ彼が疲れきっていると思っていたが、今思うと、単に好きじゃないだけなのだ。

だから、たとえ私がリビングで竜一のために一灯ともしているとしても、

彼にとってはそれが迷惑なことなのだろう。

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