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第304話

「友達」この言葉に、男はわざわざカッコをつけていた。桜井雅子はその意味をよく理解していた。この世界に、こんな形で友達になろうとする者など存在しない。

その裏にあるのは、純粋な好意などではなく、強大な利益に基づく思惑だけだった。

「ふふっ」桜井雅子は急に笑い出した。「修は私にとってもちろん大事な人よ。あなた、馬鹿げてるわね。どうしてあなたが心臓を手に入れられると思うの?修ですらまだできていないことを、口先だけでどうこう言うなんて」

男はポケットからスマホを取り出し、いくつかのボタンを操作した。

突然、病院内の警報器がけたたましく鳴り響いた。

その音は耳障りで、桜井雅子の顔は一瞬で青ざめた。「何をしたの?」

「別に、警報器で遊んでみただけさ。ほら、外の人たちは慌てふためいているだろう?」男はコートを直しながら立ち上がった。

「どうやら、桜井さんは本当に藤沢修を愛しているようだな。彼の心を少しも疑わないなんて。そういうことなら、俺たちは“友達”にはなれないようだ。しかし、桜井さんのように愛のために命まで捨てようとする姿勢には敬意を表すよ。もしかしたら、地獄に行った時に閻魔様も少しは情けをかけてくれるかもしれないな」

男はドアの方に向かい、扉を開けて出て行こうとした。

桜井雅子はベッドシーツを握り締め、咄嗟に叫んだ。「待って!あなたが誰なのかも分からないわ。どうやってあなたの話を信じろというの?もし本当に友達になりたいのなら、あなたが本物だと証明してもらわないと」

男はゆっくりと振り返り、「もし俺が証明したら、君は俺の提案を受け入れるのか?」と尋ねた。

桜井雅子は緊張しながら答えた。「それは、あなたがどうやって信じさせるかによるわ」

男は帽子のつばを下に引き、「また会いに来るさ。覚えておけ、俺と駆け引きはしない方がいい。君のすべて、海外での出来事も含めて知っているからな」

この言葉に桜井雅子は頭が雷に打たれたようにぼう然とした。

この男、どうしてそんなことを知っているのだ?

いや、そんなはずがない。彼はただ脅しているだけだ。

自分が海外にいたことなんて、調べれば簡単に分かるはずだ。

でも、海外で起きたことまで知っているなんて、あり得ない。

その時、医療スタッフが慌てて病室に入ってきて言った。「桜井さん、すぐに別の場所へ移します」

医療ス
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