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第230話

「いいでしょう?」松本若子はもう一度問いかけた。

しばらくして、藤沢修がようやく口を開いた。「わかった。彼らのことは俺が手配する。出て行きたければ、そうすればいい」

修は彼女に関わるのが面倒くさそうだった。その言葉を残すと、すぐに電話を切った。

松本若子は小さくため息をつき、執事に向かって言った。「修とは話がついたから、彼が新しい住まいに移ったら、ちゃんとあなたたちのことも手配してくれるわ。だからその時には新しい若奥様がいるはず。ここについては、みんなが出る前に掃除して、しっかり戸締まりをお願いね」

もしかしたらいつか戻ってくることもあるかもしれないし、もう二度と戻らないかもしれない。

どんなに豪華な家でも、誰も住まなければ意味を持たない。

階段を降りようとすると、執事が彼女の手からキャリーバッグを受け取ってくれた。「若奥様、お持ちしましょう」

若子はお腹の中の子どものことも気にかけていたので、無理をしないようにと頷いた。「うん、ありがとう」

執事はバッグを持ちながら若子と一緒に階段を降りていく途中、話しかけた。「若奥様と若様、本当に残念です。私はお二人が世界で一番幸せなカップルだと思っていたのに、まさかこんなことになるなんて」

若子はかすかに口元を引きつらせた。「もう過去のことよ。この世に永遠の宴なんてない」

「でも、お二人にはこんな風にはなってほしくなかった」一階に着いたところで、執事がふと足を止めた。「若奥様、失礼を承知で申し上げますが、私はお二人の間に何か誤解があるのではないかと思っています。もしそれを解けば、こんな風にはならなかったかもしれません」

若子が普段から優しくて人当たりが良かったので、執事は思わず本音を漏らしてしまった。別の人なら、きっとこんなことは言えなかっただろう。

松本若子は彼の手からキャリーバッグを受け取り、「私たちの間には、もう誤解でどうにかなるようなことはないの。執事さん、これまでお世話になりました。さようなら」と静かに言った。

そして、若子は背中を向けて歩き出した。その背中には、どこか寂しさが漂っていた。

執事は一つため息をついた。若様があれほど若奥様を大切にしていたように見えたのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

......

藤沢修は、桜井雅子の病室の前に立っていた。つい先ほどの通
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