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第232話

松本若子は新しい部屋にようやく落ち着いた。

今はとりあえずここに住むことにしていて、先のことはその時に考えればいいと割り切っている。まずは住む場所を確保しなければならなかったのだ。

彼女の同意のもと、遠藤西也が安全な暗証番号式のロックを取り付けてくれた。さらに、防犯機能も追加されている。

もし家に入ってから一定時間内に掌紋認証が行われなかった場合、警報が鳴り、警察に自動で通報される仕組みになっている。警察署はすぐ近くにあるので、5分以内には駆けつけることができる。

「西也、本当にありがとう。どうお礼を言ったらいいか......」

遠藤西也は彼女のためにいろいろと動いてくれていた。面倒事にもあれこれ付き合ってくれていたのだ。

「気にしないで。そんなにかしこまらなくていい」

彼と松本若子の間には、すでに「友達」という関係が築かれている。

しかし、西也としては、若子が自分に対してまだどこか距離を置いているように感じることがあった。彼女が田中秀といるときのように、もっと自然に接してくれたら......そう思うこともある。

しかし、それも無理はない。若子と田中秀は長年の付き合いがあり、一方で自分と若子が知り合ってからまだ1ヶ月も経っていない。これだけの進展があっただけでも、十分なのかもしれない。

松本若子は、彼に感謝の意味を込めて食事に誘おうとしたが、その時、突然携帯の着信音が鳴り、言葉を遮られた。「ごめんね、ちょっと電話に出るね」

西也は頷き、「うん」と一言返した。

松本若子がポケットから携帯を取り出すと、表示されたのはおばあちゃんからの電話だった。彼女は急いで電話に出た。「もしもし、おばあちゃん」

しばらく会話を交わした後、電話を切り、若子は西也に向き直った。「さっきのはおばあちゃんからの電話で、今晩うちに来てご飯を食べてほしいって。それに、私も霆修との離婚のことをおばあちゃんに伝えなきゃならない」

離婚する前、若子も藤沢修も、おばあちゃんに事前に知らせていなかった。そのことを彼女はずっと心に引っかけていた。

「わかった」西也は腕時計に目をやりながら、「俺も会社で用事があるから、行かなきゃならない。君が今晩おばあちゃんの家に行くなら、その前に少し休んで。昨日はあまり眠れてなかったみたいだし、目がちょっと赤いよ」

松本若子は「うん」と頷いた。
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