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第238話

執事は再び首を振りながら言った。「石田夫人が言っておられました。『彼女には会いたくない』と。ですので、若奥様、このしばらくはお越しにならないほうがいいでしょう」

松本若子は拳をぎゅっと握りしめると、突然涙を流し始めた。

執事は彼女の涙を見て、一瞬言葉を失った。

「若奥様、どうか泣かないで。何か言いたいことがあれば、落ち着いて話しましょう」

「私は落ち着いて話してるのに......でも......でも、おばあちゃんが私に会いたくないなんて、心が痛いの......」若子はうつむきながら、ますます激しく泣き出した。

その涙は本当に悲しみからくるもので、彼女のその姿はとても痛ましく、見る者の心を揺さぶるものだった。

執事もどうしていいかわからず、困惑していた。

そのとき、電話が鳴った。

執事はポケットから携帯を取り出して、応答した。「もしもし、石田夫人」

「石田夫人」という言葉を聞いた瞬間、松本若子はそれが石田華からの電話だとわかり、泣く声をさらに大きくした。あたかも、電話の向こうの人に自分の気持ちを伝えようとしているかのように。

「かしこまりました」

執事は電話を切り、若子に向かって言った。「若奥様、石田夫人がお呼びです。お部屋でお待ちとのことです」

若子はその言葉に、喜びの涙を浮かべながらすぐに階段を駆け上がった。

石田華はベランダのリクライニングチェアに座っており、若子は慎重にその前まで歩み寄り、「おばあちゃん、これは私が作った手作りのお菓子です。どうぞ召し上がってください」と差し出した。

本当は料理が得意ではない若子だったが、何とか動画を見ながら一生懸命に作ったのだ。

「そこに置いておきなさい」と、石田華は淡々と言った。

その声は冷たくもなく、温かくもなく、以前のように若子を歓迎する雰囲気はなかった。

若子の心臓は速く鼓動し、小さな子供が親に叱られているように、顔を上げることができなかった。

彼女はお菓子をテーブルの上に置くと、おばあちゃんのそばに立ち、頭を垂れて黙り込んだ。

「お前、どうしてあれだけ入れてくれと騒いでいたのに、ここに来て黙り込んでるんだい?言いたいことがあるんじゃないのか?」と、石田華は辛辣に言った。

「おばあちゃん、昨日のことを説明したいんです、私は......」

若子は言葉を発しようとしたが、なぜか戸惑
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