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第244話

「パッ」と音を立てて、藤沢修は若子の手首を掴んだ。「行くな」

どうしてか分からないが、心の中に突然不安が押し寄せてきた。どうしても彼女にいてほしいと強く思った。それまでどんなに強がっても、この瞬間だけは子供のように無力だった。

痛みは、人を狂わせるし、同時に弱くもする。

時に、身体の痛みよりも心の痛みのほうが深いのだ。

若子は視線を落とし、彼の手を見た。その手は彼女の手首を掴んでいるのに、震えていた。

きっととても痛いのだろう。それは誤魔化しようがないことで、彼の顔色は青白く、額には汗が浮かんでいた。

「今、病院に連れて行くわ」若子は優しく言った。「車で送っていくから、いい?」

その声はまるで彼をなだめるようだった。

「病院には行きたくない」藤沢修は目を上げ、黒い瞳の奥には深い影が見えた。「この薬は医者が出したものだから、あと少しで治る。病院には行かなくていい」

若子はベッドの端に座り、「じゃあ、まずはうつ伏せになって。動かないで。さもないと背中の傷が開くわよ」と言った。

「それで、お前はまだ出て行くのか?」修の瞳には焦りが滲んでいた。

若子はその瞳を見つめ、心が柔らかくなるのを感じた。彼の傷を見ていると、もう彼に対する怒りなどどうでもよくなり、首を横に振って言った。「出て行かないわ。ここにいる。だから、ちゃんと言うことを聞いて、もう意地悪なことを言わないで」

彼女がここに留まるのも、条件付きだった。これ以上、彼に振り回されるつもりはなかったのだ。

藤沢修は少し笑みを浮かべた。「俺、そんなに意地悪か?」

初めて誰かに「意地悪」だと言われた気がする。

「そうよ、ずっと遠藤西也とのことを言い続けてるじゃない」

「でも、お前らは親密だろう」彼はしつこく言った。

「何度も言ったでしょ。ただの友達だって。本当にお前が考えているような関係じゃないのに、なんで......」若子はそう言いかけて、ため息をついた。「もういいわ。この話をすると、また喧嘩になるから」

「わかった、もうその話はやめる」修は話題を打ち切った。これ以上話せば、彼女が出て行ってしまうかもしれないから。

「そうだ、包帯を巻くんじゃなかったか?」修は視線を向け、あの箱に包帯が入っていることを示した。

若子は箱から包帯を取り出し、彼の背中に向かって座った。「動かないで。これから
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