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第229話

「私たちは友達だよ」松本若子が言った。「彼は私にこの物件を見せてくれただけ。これにする」

松本若子はもう他の部屋を見る気はなかった。大体似たようなものだし、何度も見る必要はない。どれも鉄筋コンクリートの建物で、周りが安全で、部屋がきれいなら十分だ。一人暮らしだから広さもそこまで必要ではない。

「若子、本当にこれでいいの?もう少し見てみたらどう?」遠藤西也が尋ねた。

「いいの」若子は即答した。「これで決めた」

「わかった」遠藤西也もそれ以上は反対しなかった。

この部屋は確かに安全そうだ。後で彼が若子のために鍵を変えて、セキュリティシステムも設置しておこう。いくら安全な場所でも、一人暮らしの女性にはいろいろと不安がある。

不動産業者はこんなに決断が早い客は珍しいと感じた。最初の一件を見てすぐに契約し、値引き交渉もなしに、その日のうちに契約を済ませ、敷金と家賃も支払った。

この賃貸契約は敷金1ヶ月分と3ヶ月分の家賃を前払いするというものだった。

松本若子の口座には十分なお金があった。藤沢修の妻であったため、専用の口座があったのだ。

その口座のお金を、若子は時々、投資信託や債券、株式に回していた。

普段、彼女は無駄遣いをしないので、口座の残高はどんどん増えていった。

家を借りた後、遠藤西也は車で松本若子を以前住んでいた家まで送った。

離婚してからこの家を見ると、心の中の感覚が以前とは全く違っていた。

長年住んでいたこの家も、今はもう彼女のものではない。名義は彼女のままだが、所詮はただの鉄筋コンクリートで、今の若子にとって「家」の意味を失っていた。

松本若子は遠藤西也に、車から降りずに待っているように伝えた。

彼女に迷惑をかけたくなかった遠藤西也は、それに同意した。

執事が松本若子が荷物をまとめているのを見て、急いで駆け寄った。「若奥様、どちらへ行かれるんですか?」

若子は苦笑いしながら答えた。「若奥様と呼ばないでください。もう私は若奥様じゃない。藤沢修と離婚しました。これから引っ越すんです」

「何ですって?引っ越すんですか?でも、ここは若奥様の家ですよ?」

「もう離婚したの。ここは私の家じゃないの」若子は心に痛みを覚えながら言った。

もしも選択肢があったなら、誰も「家」を離れたくなんてない。

執事は続けた。「若奥様がいなくなったら、
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