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第197話

「俺はそんなことしてない。君の見間違いだよ。ただ彼女が何を言ってるのか聞いてただけだ」

遠藤西也は慌てて弁解したが、心の中では動揺が収まらず、視線は不安げにさまよっていた。置くところはない。

「へぇ、それなら何をそんなに焦ってるの?薬を飲ませて、彼女を寝かせればそれで済むんじゃない?」

「彼女は薬を飲めないんだ。彼女は妊娠してるから」

「何ですって?」遠藤花は驚いて叫んだ。「彼女が妊娠してるの?まさか......」

遠藤花は彼を指差し、「お兄ちゃん、あなた、彼女を妊娠させたの?これは大変だ、すぐにパパとママに言わないと!」

「何を言ってるんだ。そんなことあるわけないだろう。若子は結婚してるんだよ。あれは彼女の旦那の子供だ」

彼は自分の責任を逃れるためではなく、松本若子の名誉が傷つかないように守るためだった。

遠藤花は目を大きく見開き、驚きながら若子の部屋のドアをちらっと見た。「彼女、結婚してるの?それでお兄ちゃんは何をしてるの?既婚者の女性を家に連れてきて、そんなに親密にして......もしかして、お兄ちゃん、既婚女性に興味があるの?彼女の旦那はそれで納得してるの?」

「もう君と話す気はないよ」

この件は複雑で、若子と藤沢修の間のプライベートな問題だったので、遠藤西也はそれを口外するつもりはなかった。

遠藤西也は冷たい顔で「部屋に戻って寝ろ。明日、余計なことは言うな。さもないと本当に怒るぞ」と言い放った。

彼の冷酷な視線は、ただの脅しではなく、本当に彼が真剣に警告していることを示していた。

自分の兄が見せた冷たい目つきに、まるで彼女を食べてしまいそうなほどの恐ろしさを感じ、遠藤花は思わず身震いした。兄がこんな表情を見せたのは初めてだったし、それが女性のためだなんて信じられなかった。

兄が口で言う「友達」なんて、彼女は到底信じられなかった。たとえ彼女が無情であっても、兄は彼女を愛しているのだ。

遠藤花は確信していた。遠藤西也は松本若子に何か特別な感情を抱いていると。だが、松本若子の方は、彼女が兄を見る目がどうにも友達としてしか見ていないように思えた。それが唯一の問題だった。

思いを巡らせている間に、遠藤西也は再び松本若子の部屋へと戻っていった。

その夜、遠藤西也はずっと松本若子の看病をして、タオルを交換したり、体温を測ったりしていた。
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