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第204話

「ダブルスタンダード」という言葉は、修にとって耳にタコができるほど聞き慣れた言葉だったが、反論する理由が見つからなかった。

確かに、彼は一方で桜井雅子と一緒に過ごしながら、もう一方で松本若子が他の男のところにいることで気をもんでいた。自分のこの気持ちがどういうものか、自分でもよくわからなかったが、男の劣等感からくるものかもしれない。それに、修もそういう点では普通の男から外れなかった。

「若子を探してどうするつもりなんだ?彼女に電話を回そうか?」遠藤西也が問い詰めた。

「必要ない」修の声には苛立ちがこもっていた。「松本若子に伝えてくれ。明日の午前九時に役所の前で会おう。俺は戸籍謄本を持って行く、そして離婚する」

「......」

遠藤西也はしばらく絶句した。まるで信じられないような表情で何か言おうとしたが、修はすでに電話を切ってしまった。

彼らが離婚するという話は以前から出ていたが、これまでさまざまな問題で実現しなかった。

離婚の話は「オオカミ少年」のようなもので、実際にオオカミがいつ来るのか、誰もわからなかった。しかし、西也はむしろそのオオカミが本当にやってくることを望んでいた。

西也は身支度を整えて部屋を出た。

松本若子は花を生けており、花の香りに包まれて、心地よさそうにしていた。

足音を聞いて振り向いた若子は、西也を見て穏やかに微笑んだ。その笑顔は、まるで春のそよ風のように優しかった。「起きたのね」

西也は彼女の方に歩み寄り、その背の高さから彼女を見下ろすように近づいた。彼の存在感はまるで大きな山のようで、目の前に黒々と立ちはだかっていた。

だが、藤沢修と比べると、その圧迫感は少なく、むしろ温和な雰囲気が漂っていた。

「あの子はどこに行ったんだ?」西也が尋ねた。

若子は答えた。「花は遊びに出かけたのよ」

西也は不機嫌そうに眉をひそめ、冷たい表情を見せた。「まったく、勝手に遊びに行って、責任感がないんだから」

若子は静かに微笑んで、「そんなことはないわ。最初は私と一緒にいてくれたの。でも私が少し疲れたから部屋に戻っただけ。だから遊びに行くのは普通のことよ。あの子を責めないで」と優しく言った。

西也はふとため息をつき、少し真剣な顔つきになった。

若子は剪定ばさみを持つ手を止め、顔を上げて「どうしたの?何かあったの?」と聞いた。

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