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第205話

彼女は歯を食いしばり、握っていたはさみを持つ手が震えていた。笑っているはずなのに、目には涙が浮かんでいた。

若子は急いで花を生け終わると、美しさなど気にすることなく、さみを置いて言った。「じゃあ、明日彼と離婚するために家に帰って準備するわ」

「家には戻らなくていい」遠藤西也は彼女の悲しみを察し、彼女がそのまま帰ってしまうことを心配していた。帰ったところで、結局彼女は一人になってしまうのだろう。

たとえ修が家にいたとしても、どうせ彼女に優しくするはずもない。

「修は言っていた、明日彼が戸籍謄本を持って役所に行くと。だから帰らなくていい、明日俺が役所の前まで送るよ。ここからそんなに遠くない」

「でも、それはちょっと......」若子は無理に笑顔を作りながら言った。

けれど、本当のところ、笑顔になんてなれなかった。

「別に問題ないよ。本当は何日かここで過ごす予定だったんだから、こんなことで予定を乱さないように。あんな男にそれだけの価値はない」

遠藤西也は心の底から、藤沢修が若子のような人に愛される価値がないと感じていた。だが、人を愛するということは盲目であり、本人が価値を判断するものではない。もし愛がそれほど簡単に価値を測れるものなら、それは本当の愛ではない。

若子は深く息を吸い込んで、「そうね、その通り、価値がないわ。じゃあ…部屋に戻って休むね」と言った。

突然、彼女は吐き気を感じ、口を押さえて階段を駆け上がった。

西也は心配で後を追った。

若子は洗面所に駆け込むと、便器に顔を埋めるようにして激しく吐き始めた。胃の中にあるものをすべて吐き出すように。

西也が近づこうとしたが、若子が「来ないで!」と叫んだため、

彼は足を止め、浴室の前で立ち止まった。

若子は長い間、便器に顔を埋めて吐き続け、息も絶え絶えになり、咳き込みながら何も出なくなるまで吐き続けた。最後には、水を流して、ふらふらと立ち上がり、洗面台に手をついて落ち着こうとした。口をすすぎ、顔を洗い、自分を無理やり冷静に戻そうとした。

涙が彼女の頬を伝い、顔にかかった水と混ざり合って、どちらが涙なのか分からないほどだった。

彼女は鏡の中の自分のやつれた姿を見つめ、突然膝が崩れ、体が床に崩れ落ちた。

遠藤西也はすぐさま駆け寄り、後ろから彼女を抱きしめ、腕の中に引き寄せた。「若子、大丈夫
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