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第021話

「彼は明徳大学の第一株主、遠藤西也さんです」

その紹介と共に、観客席から再び大きな拍手が沸き起こった。

スーツ姿の若い男性が優雅にステージに上がり、皆に軽く会釈をした後、松本若子の隣に立った。

彼を見て、松本若子は少し驚いた。

彼は、数日前にレストランで相席したあの男性ではないか?

遠藤西也も、ステージ下で彼女を見たときに少し驚いたが、特に表情には出さず、学長から学位証書を受け取った。

松本若子は前に進み、学位証書を受け取り、軽くお辞儀をし、頭を下げたままでいた。

角帽の右前方に垂れたタッセルが、顔の前に垂れ下がっていた。

遠藤西也は、慣例に従って手を伸ばし、彼女の右前方のタッセルを前方中央に移した。

儀式が完了した。

松本若子は頭を上げ、感謝の言葉を伝えようとしたが、突然めまいに襲われ、体がふらつき、隣へと倒れ込んだ。

遠藤西也はすぐに手を伸ばして彼女を支え、彼女をしっかりと抱き寄せた。二人の姿勢は非常に親密なものだった。「どうしました?具合が悪いのですか?」と遠藤西也が心配そうに尋ねた。

松本若子は目の前がぼんやりとしていて、ステージ下の人々がほとんど見えなかった。

ステージ下の観客たちは何が起こったのか分からず、ざわざわと話し始めた。

その時、ステージの遠くから一つの鋭い視線が、松本若子と遠藤西也に鋭く向けられていた。とても陰鬱な表情だった。

数秒後、松本若子は急いで男の腕から抜け出した。

「すみません、朝ごはんを食べていなかったので、少し低血糖になったみたいです」と謝罪した。

学長は「具合が悪いなら少し休んでください」と言った。

松本若子は「はい」と答え、姿勢を正して観客に一礼し、学位証書を手に持ってステージを降りようとした。

しかし、めまいが再び襲いかかり、足元がふらついた。階段が見えなくなり、足がどこに着地すべきか分からなかったが、ただ進むしかなかった。

学長が「それでは次に遠藤さんのご挨拶を…」と言いかけた。

その瞬間、遠藤西也が矢のような速さで学長の目の前を駆け抜けた。

次の瞬間、ステージ下からは驚きの叫び声が上がった。

松本若子は足を踏み外し、ステージ下に転げ落ちたのだ。

「キャー!」

彼女はとっさにお腹をかばった。

しかし、彼女は温かい胸に落ち、痛みを感じることはなかった。代わりに、男性の苦しそうなうめき声が聞こえた。

松本若子が目を覚ますと、彼女は遠藤西也の上に倒れ込んでいた。

慌てて彼から起き上がろうとしたが、足がガクガクして立てなかった。

「大丈夫ですか?」と遠藤西也が痛みに耐えながらも彼女を気遣った。

会場は騒然となった。

人々は立ち上がって二人を取り囲んだ。

松本若子は歯を食いしばり、なんとか彼の上から起き上がろうとしたが、その瞬間、人混みをかき分けるようにして一人の男性が大股で近づき、彼女を引き上げて抱きしめた。

「きゃっ!」松本若子は驚きの声を上げ、彼の力強い胸にしっかりと抱きしめられた。

顔を上げて彼の顔を見た瞬間、彼女は驚愕した。「どうしてあなたがここに?」

彼女は藤沢修がもう帰ったと思っていたのに、なぜ彼が戻ってきたのだろうか?

藤沢修の顔色は非常に険しく、鋭い視線を遠藤西也に向けた。

遠藤西也は、他の人の手を借りて立ち上がった。

会場は再び騒然となり、誰もが松本若子とこのイケメンがこんなに親密な様子を見て、二人の関係を疑い始めた。

そして、誰かが彼を認識した。彼はなんと、SKグループの総裁、藤沢修だったのだ!

もしかして、松本若子は彼の愛人なのか?それで二人はこんなに親密なのだろうか?

コメント (1)
goodnovel comment avatar
越智和代
次の話が凄く読みたいです
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