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第2話

「小円?」

夫が私を呼ぶ声で、私ははっと我に返った。

「どうした?なぜ黙ってるの?食べさせてくれない?本当に食べてみたいんだ」

夫はそう頼み込んできた。

私はその果実を一瞥し、微笑みを浮かべた。

「いいわよ。他にもいくつか摘んできたから、きっとおいしいわ」

そう言って、私はバッグから赤く熟した果実を取り出した。それらが見るからに美味しそうだった。

夫はごくりと唾を飲み、果実を受け取った。

私の合図で、果実を口に運び、その瞬間、目を輝かせた。

「うまい!」

「気に入ったなら、もっと食べて」

私はさらに果実を夫に手渡した。夫はそれらを全部食べてしまった。

そんな夫を見た私は満足げに笑った。

すると、すぐに夫は前世と同じように「毒が回り」、死にかけの様子を見せ始めた。

「おい、これ毒があるんじゃないか?もうダメかもしれない......」

夫の顔には冷や汗が滲み、腹を押さえながら苦しそうにしていた。

「大丈夫?今すぐ応急処置しようか?」

私は心配そうに尋ねた。

夫は弱々しく手を振りながら、こう言った。

「いや、それより死ぬ前に、一つ告白しなきゃいけないことがある。俺は、一組の母子に多額の借金をしているんだ。俺が死んだら、必ず返してくれ。そうしないと、俺の名声が台無しになってしまう」

私は表向きは賛成したが、内心では冷たく笑っていた。

私が頷いた後、夫はまもなく「息を引き取った」。

そして、私は自分の太ももを強くつねり、すぐに大粒の涙を流しながら叫び始めた。

「あなた、なんで死んじゃったの?私、どうしたらいいの......」

その大声に周囲の人々が集まってきた。

そして、前世と同じようにあの「善い人」が現れた。

「おいおい、旦那さんを毒殺しちゃったんだな。とりあえず、君は先に下山して、俺、旦那さんを見ていてあげるよ」

そう言って夫を脇に引き寄せようとしたその男を、私はすぐに引き止め、夫を引き戻した。

「何の関係もないあなたに、そんなことを言われる筋合いはないわ!旦那が死んだだけでも十分悲しいのに、どうして私が旦那を殺したなんて言うの?こんなにひどいことを言わないで!」

「善い人」は一瞬戸惑ったようだった。まさかこんな展開になるとは思っていなかったのだろう。

彼は地面に横たわる夫を指しながら言った。

「でもさ、彼が君の摘んだ果実を食べて死んだんじゃない?犯人は君でなければ、誰だろう?」

私は涙を拭い、さらに悲痛な表情を浮かべた。

「そんなことないわ。その果実には毒なんてないの。どうしてそんなことになるの?それに、さっきあなたが渡したあの怪しい飲料を飲んでから、旦那は死んだのよ。もしかして、あなたが犯人なんじゃない?」

そして、私は地面にある果実を指した。人々がざわつき始めた。

その果実を食べたことがある人は、それが毒なんてないことを知っているはずだ。

でも、前世では、私は悲しみのあまり、その果実が毒ではないことをすっかり忘れていた。

実際、夫は「善い人」が渡したものを飲んでから、急に体調が悪化したのだった。

「善い人」は周囲の人々が自分に疑念を抱き、今にも犯人として捕まえようとしていることに気づき、逃げ出そうとした。

私は大声で叫んだ。

「彼が犯人よ!捕まえてください!」

すると、二人の男性が彼を取り押さえてくれた。私は勢いよく彼に平手打ちを見舞った。

「私たちには何の因縁もないのに、どうして旦那を殺したの?一体どういうつもりなの?」

私は取り乱したふりをしながら「善い人」と取っ組み合いになった。彼の体に赤い傷跡をいくつもつけた。

「俺じゃない、俺は何も......」と、彼は必死に弁明しようとしたが、「あの飲み物は......」と口をつぐんだ。

その飲み物に問題があったことを自覚していたのだろう。

そのため、人々はますます怒り、彼を警察に連れて行こうとした。

私は立ち上がってと言った。

「そうですね、旦那の無念を晴らすためにも、すぐに警察に行って報告しましょう」

誰かが夫の遺体について尋ねたが、私は辺りを見渡し、誰も遺体を運ぼうとしないことに気づいた。

「しょうがない......彼はここに置いておいてください。明日また来て遺体を運びましょう。皆さんにこれ以上負担をかけたくないので」

そう言って、私は登山道具や服をまとめ、人々と一緒に山を下りた。

しかし、心の中では大喜びしていた。深夜の山中に放置された夫が、死なないにしてもひどい目に遭うだから。

それに、あの怪しい飲料を飲んで体力を失った夫が、もうどうしようもない状態だった。

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