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第5話

私は冷淡に彼を一瞥し、部屋に戻った。

バルコニーのドアが閉まると同時に、外の激しい雨音も遮られ、まるで嵐が終わったかのように感じられた。

ベッドの上に置いた携帯が振動し、ディスプレイには隼人の名前が表示されていた。

長年付き合ってきて、喧嘩のあと彼が自分から電話をかけてきたのはこれが初めてだった。

かつて私は、もし隼人がいつか頭を下げて謝ってくれるのなら、どんなことでも許せるだろうと思っていた。

しかし今は、喜びよりもむしろ心の中に黒い影が広がるだけだった。

苦い薬を飲んだような、胸の奥まで染みわたる苦さが満ちてきた。

なぜか過去のことがふと脳裏に浮かんだ。

……

十数年前、隼人の母親である紅乃が私たちの小さな村に観光で訪れていた。

そのとき増水期で、わずか数十秒で小川が幅広い激流となり、彼女は逃げ切れずに洪水に巻き込まれた。

父がちょうど山にいて、危険を顧みずに彼女を助け出したが、そのために片足を失ってしまった。

彼女はそのことを気にかけ、成績が良かった私に市内の学校に転校するよう勧め、学費を支援してくれると言った。当時私は高校1年生で、村の学校にいれば大学に進学するのは難しい状況だった。

両親はその提案を受け入れた。

私は村を出たことがなく、何も知らなかった。

地下鉄のチケットの買い方もわからず、コーヒーの種類も理解できず、ケンタッキーとマクドナルドすら混同してしまうほどだった。

都会の人々にとって当たり前のものすべてが、私には初めて見るものばかりで、どう振る舞えばよいかもわからず…標準語さえ満足に話せなかった。

紅乃が用意してくれた服を身にまとい、手にはスマホを持っていても、私はこの場所にそぐわない存在だった。

クラスメイトは皆私を笑っていたが、隼人が助け舟を出してくれた。

村の学校ではトップだった成績も、ここではビリに近かった。

プレッシャーでひっそりと階段の隅で泣いている私を彼が見つけ、「泣かないで、僕が勉強を教えるから」と手を差し伸べてくれた。

そんな年頃に、私はどうしようもなく彼を好きになった。

ただ、彼は成績優秀で容姿端麗、家柄も良く、学校中に彼を追いかける女子がいるほどだった。

そして私は運よく村から抜け出しただけの、ただの田舎者であり、ここで学べているのも彼の母親の支援のおかげに過ぎなかった。

雲泥
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