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別れた後、私は元カレの取引先になった
別れた後、私は元カレの取引先になった
著者: 小石

第1話

母の葬儀から帰るとき、雨が激しく降っていた。

雨水が私の体を打ちつけ、目を開けるのもやっとで、頭もぼんやりしていた。

携帯の着信音が鳴った。

無感情で画面を見ると、隼人の名前が表示されていて、その瞬間、胸がまた締めつけられるように痛んだ。

私と隼人は十年付き合ってきたが、彼はいつも冷淡な態度を崩さない。

彼のそばにいれば、どれだけ冷たい彼でも温まるだろうと信じていた。

でも私の熱い想いも、尽きてしまった。

七日前、母の訃報を受け取った。

母が亡くなる前、最後に気にしていたのは私の結婚のことだった。

彼女は私にこう言った。

「隼人とはこんなに長く付き合ってきたのに、まだ結婚の話は出ないの?こういうこと言いたくないけど」

「うちは向こうと比べたら、釣り合わないかもしれないけど、隼人がいい人なら何も言わない。だけど、朝夜の片思いだったらどうするのよ!夏川家に嫁いだらイジメられるよ」

私は貧しい村出身で、隼人の両親は大学教授をしている。両家の差は大きすぎる。

将来の姑は家柄のことを気にしないから、私のことも気に入ってるし。それに隼人がただ仕事が忙しいだけで、数年以内には結婚する予定だと伝えて、母さんに安心させた。

でも、「数年」って一体何年なんだろう?

私自身もその答えを知らない。

彼が仕事で忙しいというのは、ただの口実に過ぎない。

将来の姑は私の家庭環境に関心を持っていない。彼女はただ隼人の意向を尊重しただけだ。

一度、私はさりげなく彼に結婚について尋ねたことがあったが、ちょうど千早もその場にいた。

彼女はこう言った。

「朝夜さん、貧乏生活が怖くて早く夏川家に嫁ぎたいの?急がなくてもいいよ。お母さんの治療には数十万が必要なんでしょ?結婚しなくても、隼人兄さんが助けてくれるからさ」

私は家庭状況が良くないが、大学を卒業してからはゲーム会社で働き、給与も悪くない。

母の治療費も、自分でなんとか工面できた。

私は隼人と長年付き合ってきたが、彼にお金を無心したことはない。

彼は私の母の病気のことを知り、一緒にお見舞いに来てくれた。そして、400万円が入った銀行カードを差し出して、「足りなければ言って」と言ったが、結婚の話には一切触れなかった。

家族のことが私のコンプレックスで、あの日以来、自分から結婚の話をするのはやめたし、そのカードも受け取らなかった。

私は彼が結婚の話を持ち出すのを待ち続けた。

そうして数年が経ち、今に至る。

父はこう言った。

「お前の母さんは、痛みで意識がもうろうとしててもずっと朝夜の名前を呼んでいたよ。隼人がちゃんと朝夜のことを大事にしているか、ずっと不安だったんだ」

「朝夜、父さんも隼人が忙しいことはわかっている。でも、彼にどうにか一日だけ時間を作ってもらえないか?こんなにも長い間付き合っているんだし、母さんも一度しか彼に会ったことがなくて、どうしても不安で、彼女の願いを叶えてやると思ってさ」

私は慌てて隼人に電話をかけたが、「用事がある」と一言だけ返されて、電話が切られた。

それから何十回も電話したが、彼は出ることなく、最後には電源が切られていた。

彼は大学を卒業する前にゲームスタジオを設立し、近年はスタジオも順調に成長し、ますます忙しくなっている。

同じ街に住んでいるにもかかわらず、月に一度も会えないこともある。

付き合っているはずなのに、会いたいときはいつも私が彼に電話をして、会う約束を取り付ける。

彼が暇なら応じてくれるし、忙しいときは電話に出ないし、折り返しもしてこない。

それに慣れてしまっていて、彼が会議中で電話に出られないと思い、彼のアシスタントに電話をかけた。

おかしな話だけど、隼人とは恋人関係なのに、彼と電話する回数よりも、彼のアシスタントとの通話回数の方が多い。

アシスタントはこう言った。

「夏川さんは今忙しいので、暇ができたらもう一度お電話ください」

その言葉には哀れみが感じられた。

でも、そのときの私は気づかなかった。

気が動転していて、ぼんやりと帰路につきながら隼人に電話をかけ続けたが、返事はなかった。でもふと千早のSNSで彼の姿を見つけた。

千早は一枚の写真を投稿していた。

写真の中で、隼人は彼女を抱きしめ、穏やかに微笑んでいた。彼女の腕には大きなバラの花束が抱かれていた。

キャプション:「隼人兄さん、いっぱい仕事をキャンセルして私の修士号授与式に来てくれたの!マジ幸せ~~!(照れ)それに、このバラの花、めちゃくちゃ綺麗!」

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