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第3話

「君はたぶん今まで恋を経験したこともないだろう。知らないだろうが、啓司が私と一緒にいたとき、料理をしてくれたの。私が病気になった時、すぐにそばに駆けつけた。彼がかつて言った最も温もりの言葉は、葵、ずっと幸せにいてね…

「紗枝、啓司に好きって言われたことがあるの?彼によく言われたの。大人気ないと思ったのだが…」

紗枝は黙って耳を傾け、過去3年間啓司と一緒にいた日々を思い出した。

彼は一度も台所に入らなかった…

病気になった時、一度もケアされなかった。

愛するなど一度も言われてなかった。

紗枝は彼女を冷静に見つめた。「話は終わったの?」

葵は唖然とした。

紗枝があまりに冷静だったせいか、それとも目が澄みすぎて、まるで人の心を見透かせたようだ。

彼女が離れても葵は正気に戻らなかった。

なぜか分からないが、この瞬間、葵は昔に夏目家の援助をもらう貧しい孤児の姿に戻ったように思った。

夏目家のお嬢様の目前では、彼女は永遠にただの笑われ者だった…

紗枝は葵の言葉に無関心でいられるのでしょうか?

彼女は12年間好きだった男が子供のように他の人を好きになったことが分かった。

耳の中は再び痛み始め、補聴器を外した時、血が付いたことに気づいた。

いつも通り表面から血を拭き取り、補聴器を置いた。

眠れなかった…

スマホを手に取り、ラインをクリックした。

彼女宛のメッセージは沢山あった。

開いてみたら、葵が投稿した写真などだった。

最初のメッセージは、大学時代に啓司との写真で、二人は立ち並べて、啓司の目は優しかった。

2枚目は2人がチャットした記録だった。啓司の言葉「葵誕生日おめでとう!世界一幸せな人になってもらうぞ!」

3枚目は啓司と二人で手を繋いで砂浜での後姿の写真…

4枚目、5枚目、6枚目、沢山の写真に紗枝が追い詰められて苦しくなった…

彼女はそれ以上見る勇気がなく、すぐに電話を切った。

この瞬間、彼女は突然、諦める時が来たと感じた。

この日、紗枝は日記にこんな言葉を書いた。

――暗闇に耐えることができるが、それは光が見えなかった場合に限られる。

翌日、彼女はいつものように朝食を準備した。

しかし、六時過ぎても彼が戻らなかった。その時、紗枝が思い出した。彼は朝食をたべにこないと言ったのだ。

啓司が戻らないと思って、一人でソファー座り、軽く寝込んだ。

「朝食を用意しなくていいって言ったじゃないか?」

苛立った声が聞こえた。

脅かされて目を覚まして見ると、啓司が目の前を通り過ぎた。

彼女は無意識のうちに「ごめんなさい、忘れていました」と謝った。

また忘れた。またごめん…

啓司は彼女を振り向いて、視線が非常に冷たかった。

今日、彼女の服は、いつもと同じライトグレーで、素朴だった。

黒木家が貧しくて彼女を虐待したような気がした。

「どうして戻ってくるのを忘れなかったの? どうして結婚したことを忘れなかったの?どうして自分のことを忘れなかったの?

「気が済まなかっただろう?黒木家のお金を惜しいと思っただろう!僕のような金儲けの機械を忘れなれないだろう!」

彼の言葉はナイフのように紗枝の心を突き刺した。

彼女は静かに言い出した。「啓司、貴方のお金を使おうと思ったこと一度もありませんでした」

彼女は好きだったのが啓司だ。

啓司は笑った。でも嘲笑いだった。

「じゃあ、今朝、お母さんが会社に来て、子供を作れってどういうことなの?」

紗枝は唖然とした。

啓司の黒くて冷たい瞳を見て、昨夜のことで怒ったじゃないことに気づいた。

啓司は彼女に余計なことをしなかった。

「紗枝、黒木家に居たいなら、黒木家が潰されないと思うなら、お母さんに大人しくしてもらってよ」

慌てて話し終えて、彼は何かを取りに書斎に行き、服を着替えて出かけた。

お母さんを尋ねに行かなかった。

お母さんが自ら訪ねてきた。いつもの冷たさと違って、紗枝の手を取り、優しく話しかけた。

「紗枝、啓司に頼んで、子供を作ってくれよ。医学的手段を使ってもいい」

医学的な手段!

紗枝はぼんやりと彼女を見つめ、続けて聞いた。

「葵から聞いた。この3年間、啓司に触れたことがなかったと」

この言葉が、彼女を諦めさせた最後の一撃だった。

この世には共感はなく、あるのは個人の利益だけだった。

どうして啓司がこのことを葵に伝えるのか彼女は理解できなかった。

もしかして、彼は本当に葵のことが好きだったかもしれなかった…

そう考えると、彼女は何となく落ち着いた。

「お母さん、諦めよう!」

お母さんは一瞬唖然とした。眉をひそめて叫んだ。「何と言ったの?」

「私は疲れた。啓司と離婚したい…」

ぱち

紗枝の話が終わらなかったが、母からのパンチを食わされた。

母親としての優しいイメージは消え去り、紗枝を指さしながらゆっくり話した。

「離婚を申し込む資格はあるのか?黒木家を離れたら、バツイチで耳が不自由で、誰と結婚できると思うのか?!

「どうして君のような意気地なしを産んだのか!私とちっとも似てない。君を連れ戻したのは失策だった」

紗枝は麻痺したようになった。

子供の頃から、お母さんに好まれなかった。

お母さんは有名なダンサーだった。

しかし、紗枝は生まれてから耳の障害があった。これはお母さん一生の悩み事だった。

そのため、紗枝は乳母に育ててもらった。学校始まってから連れ戻した。

以前、子どもを嫌う母親はいないと先生から聞いた。

だから彼女は努力をしてできるだけ優秀になり、お母さんの機嫌を取ろうとした。

聴覚が弱いだけで、ダンス、音楽、書道、絵画、言語など、その他の分野で全てトップクラスだった。

しかし、今になってようやくわかった。どんなに良いことをしても、お母さんにとっては、彼女は良い娘にはなれなかった。

お母さんに言われたように、彼女は身体障害者だった。

身体が不健全だけでなく、彼女は家族からの愛、彼からの愛情なども得られなかった…

お母さんが離れた。

ファンデーションで薄化粧してお母さんにやられた顔の真っ赤なところを被せて、紗枝は車を拾って法律事務所に行った。

オフィスの中。

紗枝が父生前の顧問弁護士の岩崎彰に委任状を渡した。それを読んだ後、彼は理解できなかった。

「お父さんがわざと君に残した全遺産を本当に啓司君に譲渡するの?分かってると思うが、彼はこんな小さな額のお金に気にしないと思う」

紗枝はうなずいた。

「分かってる。でも、私が彼に借りがあったのだ。返さなきゃ」

3年前、お父さんが突然亡くなった。

お父さん生前にすでに3つの遺言書を作成しており、紗枝がお母さんに嫌われたと思ってわざと遺言書を一部用意した。

遺言書には、結婚して3年後、紗枝が不幸と感じた場合、または自分のビジネスを持ちたいと思った場合、この遺言のお金を使えた。

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