周りを見回すと、とても不思議な感じがした。 彼女はまた戻る道を忘れた。 スマホを取り出してナビゲーションしようと思ったが、住む場所を忘れた。やっとのことで思い出した。辰夫はずっと彼女を尾行していた。啓司が離れた間もなく、紗枝が一人で立ち止まった。心配してたまらなかった。「紗枝」 啓司が戻ったと思った。少しは期待したが、振り返った瞬間、彼女はがっかりした。辰夫は彼女に駆けついた。「僕の事を本当に覚えてないの?」彼を見て、やはり思い出せなかった。 「辰夫、忘れたの?」 辰夫が提示してあった。やっと思い出した。子供の頃、出雲おばさんと一緒に田舎に住んだ時の知り合いだった。当時、辰夫は非常に太っていて、自分ほど背が高くなかった。今では190センチの背の高い男になり、顔も大人気になった。 「思い出した。すごく変わったよね。見て分からないよ」久しぶりに親友と会えて嬉しかった。無理に笑いを作った彼女の顔を見て、彼は悲しくなった。 「行こう、家まで送る」 送ったら、彼女がボロボロのホテルに住んでいることに気づいた。 黒木家のような裕福な家族は、たとえ離婚したとしても、彼女にこんなところまでさせないだろう。 紗枝は少し窮屈と思った。「まずいところを見せてごめん!「ここに住むこと、おばさんに内緒でね。彼女が心配するから」 辰夫はうなずいたが、どうやって彼女を慰めるか分からなかった。遅かった。 彼はここに長くいてはまずいと思った。明日に会いに来ると伝えて帰った。ホテルを出て、駐車所に黒い車が止まっていたことに気づかなかった。紗枝にとっては、どこに住んでも同じだと思った。辰夫が離れた。お酒のせいで胃が痛み始めた。眩暈もした。頭の中に啓司の言葉が浮かんできた。「鬼みたいだ!「この格好、どんな男に好かれると思うのか?」彼女は力込めて顔の化粧と口紅を拭き始めた。荒い動作で青白い顔は赤く腫れた。 うつ病のことを知った後。 彼女は病気についての情報をググった。うつ病の患者は脳に損傷を与える可能性があり、記憶喪失を引き起こすだけでなく、認知機能障害につながる可能性もあり、これにより人々は常に不幸なことについて考え、不幸なことを拡大してみる可能性がある…「バン! バ
しかし、紗枝は、難聴にも拘らず、ピアノを弾いたり、踊ったり、歌ったりして、彼女は普通の人々よりも悪くないとを証明した。 これらのニュースは光のようなもので、支えとなり辰夫が這い上がった。辰夫から彼女の輝かしい過去を語られた。彼女が忘れるところだった。 辰夫に送られ、新しい居場所に辿り着いた。紗枝は微笑んで彼に言った。「ありがとう。元の自分を忘れるところだ」辰夫は彼女と一緒に食事をした。 紗枝が結婚した後に何が起こったのかについて、結局聞けなかった。 ここに泊まった後。 紗枝はスケジュールを確認して、市役所に行く5月15日まであと十数日だった。 お母さんに約束したことを思い出した。 朝、墓地に行った。 お父さんの墓石の前で、優しいお父さんの写真を見て、紗枝は声が少しかすれた。「お父さん、会いたかった」そよ風が紗枝の頬を優しく撫でた。 彼女は涙でそうとなった。「お父さん、私が会いに行ったら、きっと怒るでしょうか?」手を伸ばして、墓石から落ち葉を一枚一枚取り出した。 「強くなければいけないと思ったが、でも…ごめんなさい…」長く墓石の前に立ってから紗枝は離れた。帰る前に彼女は骨壺を買ってきた。その後、写真屋に行って、不思議と思われた店員さんに白黒写真を撮ってもらった。すべてを終えて家に戻ることにした。 彼女は車の窓の外を見て、気が失った。 そんな時、一本の電話がかかってきた。 出雲おばさんだった。 「紗枝、調子はどう?」出雲おばさんの優しい声を聞いて、無理に微笑んだ。「よかったよ」出雲おばさんはほっとした。それから彼女を責めた。「またこっそりとお金を置いたのか?使えないよ。預かっておく。もし君が商売でもしたい…」ここ数年、紗枝はしばしば彼女に密かにお金を上げた。 田舎で、お金はあんまり使えないから、貯金しておいた。 電話の向こうで出雲おばさんの心配事を聞いて、いつの間にか涙が顔に流れっぱなしだった。 「おばさん、子供の頃みたいに家に連れ帰ってくれる?」出雲おばさんは戸惑った。 紗枝は言い続けた。「15日に、私を迎えてほしい」どうして15日まで待たなければならないのか出雲おばさんはわからなかった。 「いいよ、15日、迎えに行く」 最近、病
インタビューが終わって葵は紗枝のお母さんに会いに行った。紗枝のお母さんと弟が、紗枝を年寄りに結婚させるつもりだった。300億円と引き換えに。啓司から長い間返事を聞こえなかったため、葵は火に油を注いだ。「紗枝のお母さんの話では、結納金を300億円を要求したそうだ。紗枝はこんな人だと思わなかった。「また、冷静期間だと、結婚するのが不便だから、まずは結婚式を挙げるって」…お母さんと弟がすでに結婚の準備を始めた。紗枝の言葉を真剣に受け止めなかった。お母さんは彼女が死ぬ勇気がないし、死のうとしないと思った。 彼女は子供の頃から沢山苦労して、それでも死を選んでなかった。今回も間違いなく同じだと思った。 弟は結納金の300億円をとっくに貰った。すでに新しい会社の立ち上げを始めた。彼には罪悪感など全くを感じなかったし、紗枝に悔いがあるとも思わなかった。この日、お母さんからショートメールが送られてきた。「小林社長がすでに結婚式の日を選んでいた。丁度今月の15日だった。「あと4日だ。君はちゃんと準備をして、今度こそ、男の心を掴んでね。分かったか?」2通のショートメールを見て、紗枝は悲しみ始めた。15…一家団欒の縁起のいい日だった…それはまた、彼女と啓司が約束した離婚の手続きの日だった…それとも、彼女が結婚を強いられた日だった…また、それは彼女がこの世を去る日だった…再び忘れてしまうと心配して、全てノートに記録した。 記入完了。彼女は遺言書を書き始めた。ペンを手に取ったが、何を書けばいいのかわからず、ついに出雲おばさんに言葉を残して、辰夫にも言葉を残した。書き終わって、彼女は遺言書を枕の下に置いた。 3日後。 14日、大雨が降った。 テーブルに置いたスマホの着信音が鳴り続けた。全てお母さんからだった。彼女がどこにいるのかと尋ねた。明日は結婚式の日。家に帰って、結婚の準備をすべきだった。紗枝は返事をしなかった。彼女は今日真新しいベゴニア色のドレスに着替え、繊細な化粧をした。 元々素質は悪くなかった。ただ痩せすぎで、顔色が青白すぎた。 鏡を見て、彼女は精緻で艶やかで、啓司と結婚する前の自分に戻ったみたいだった。タクシーで墓地まで行った。車から降りて傘をさしてゆっくり
スマホが紗枝の手から落ちた。雨にびしょ濡れになり、だんだんと画面が暗くなった。 お父さんの墓石にもたれかかり、人形を抱きしめ、冷たい雨に降られる中、お父さんが優しい笑顔で向かって来るのを見たようだった。 ――愛情深い人は理想主義で、情けない人はリアリズムだ。どちらにしても、最後に悔いが残った。…牡丹別荘。電話が切られて、啓司はイライラした。彼が折り返し電話をかけたが、冷たい声が聞こえてきた。「申し訳ありませんが、おかけの電話は電波の届かないところにいるか…」啓司は起きて、コートを着て、出かけようとした。 ドアに着いたとき、立ち止まった。 紗枝は離婚したくないため、わざとそうやったのか。二人は間もなく離婚するだし、彼女が何をしても、自分と何の関係があるのか? 寝室に戻ると、なんだか眠れなくなった。紗枝の言葉、彼の頭に響き続けた。「もし…お母さんと弟がやったことを分かったら、私は…絶対…貴方と結婚しない…「もし貴方が…葵の事がずっと好きだと…分かったら…私もあなたと結婚しない…「もしお父さんが…結婚当日に…事故に遭うと分ったら…私は…あなたと結婚しない…」啓司は再び起き上がり、無意識のうちに紗枝の部屋の前に来た。 紗枝がここを離れてから1ヶ月以上経った。 ドアを開けて見ると、真っ暗で、とても重苦しかった。 明かりをつけてみて、空っぽで、紗枝の私物は残っていなかった。 啓司が座ってベッドサイドテーブルを開くと、中には小さなノートがあった。 ノートには一言あった。「本当に去ることを選んだ人が一番辛いと思う。なぜなら、彼女の心はすでに数え切れないほどの葛藤を経て、ついに決心したからだ」啓司は綺麗な字を見て、「辛い?」と嘲笑した。 「君と一緒にいるここ数年、僕はつらくなかったと思うのか?」彼はノートをゴミ箱に捨てた。 部屋を出るとき、ノートをベッドサイドテーブルに戻した。 部屋を出て、二度と眠れなかった。…一方。辰夫はよく眠れず、この2日間で紗枝がおかしいと思ったが、どこが可笑しいか分からなかった。 朝の4時頃、出雲おばさんから電話をもらった。 「辰夫、紗枝に会ってくれないか。先ほど変な夢を見たのだ」 辰夫は起き上がった。「どんな夢?」「紗
もう1通の遺言書は出雲おばさんへの物だった。開いて見ると、最後の一行に出雲おばさんにアドレスを書かれた。辰夫が駆け足で慌てて出て行った。 郊外の墓地まではそれほど遠くなく、車でわずか20分ぐらいだった。 しかし、辰夫は非常に遠いと思った。 彼は理解できなかった。かつてそんなに光みたいに輝いた人が、どうしてこの道を選んだのか。 これと同時に、彼のように郊外の墓地へ向かう人は、紗枝のお母さん、夏目美希だった。ただし、彼女は300億円のため、紗枝を結婚式に迎えに来たのだった。郊外墓地。大雨。紗枝は墓石の前に倒れ、激しい雨に降られて、長いドレスがすでにびしょ濡れで、痩せた体がさらに浮き彫りに見えて、水に漂った葉っぱのように、すぐにでもこの世から消え去って行くのだろう。辰夫は雨に降られて、大股で紗枝に向かって走った。「紗枝!!」 耳元に風と雨の音だけが響き渡り、辰夫は何の返事も得なかった。紗枝を抱えようとしたときに、彼女の傍らに倒れた空っぽの薬の瓶に気づいた。辰夫は震えた手で紗枝を抱き上げた。 軽い!どうして? 「紗枝、目覚めて!「眠るな!」言いながら、彼は麓へ走り出した。…「奥様、着きました」運転手が言った。美希は窓の外を見ると、見知らぬ男が目に入った。腕に抱え込んだのは…紗枝だった。「紗枝め!」彼女は眉をひそめ、傘を持って車から降りた。 今日、美希は赤いドレスを着ていて、雨に降られて、裾も濡れ始めた。美希は焦って駆け付けて、紗枝を責めようとした。 怒鳴ろうとしたとき、辰夫の腕に靠れ、力が抜いた紗枝の体、そして青白い顔、閉じった目…に初めて気づいた。彼女はその場で凍りついた。 「紗枝…」 美希は何が起こったかと尋ねようとしたとき、風に吹かれ来た薬瓶に目を向いた。 素早く駆けついて薬瓶を拾い上げ、薬瓶には「睡眠薬」の文字が目に焼き付いた。 この瞬間、美希は数日前、紗枝に言われたことを思い出した。「命を返せば、今後、貴方は私の母親でなくなり、そして私を産んでくれた御恩を返せるでしょう?」 美希の手にした傘が地面に落ちた。 薬瓶を握りしめ、信じられなくて紗枝を睨みつけ、美希の目が雨に降られたのか、水が顔に流れてきた。「クソ野郎!! どうして!
「わかった」 太郎は辰夫に向かって歩き出し、紗枝を奪おうとした。 手が伸びた途端、辰夫に力強く蹴飛ばされた。バタンと音を立てて、太郎は数メートル先に倒れ、手でお腹を抱え込み、痛くて話すことができなくなった。 美希が慌てて息子を引き起こそうとした。それと同時に、辰夫を睨んで言い出した。「息子を蹴り飛ばすのか?」辰夫は紗枝を抱え上げ、冷たい目つきで親子を睨み返した。雨水が髪の毛からぽつりぽつりと落ちていた。 親子の前までに来て、一変して修羅みたいに、ゆっくりと言葉吐き出した。「しーねーえ!」親子は驚かされてしばらく何も言えなかった。 辰夫は紗枝を抱えながら、美希に忠告してやった。「紗枝の遺言書には、貴方との約束の録音があった。今後、一切関係ない事、お忘れないで」紗枝が死んでも、彼女の娘になりたくなかった…録音が法的効力を持たないこと、親子の関係を断ち切ることに影響しないこと、紗枝は知っていた。でも、彼女は美希がどんな人なのかをもっとよく知っていた。 美希は面子が一番大切と思っていた。もしこの録音が公開されたら、彼女は娘を殺した罪を背負うことになる。辰夫の脅しで、美希は怪我した息子と一緒に離れた。車に乗り、バックミラー越しに辰夫の腕にある活気のない娘を見て、美希は力込めて拳を握り締めた。「お母さんを責めないで、責めるなら自分を責めろう。啓司の心を掴めなかった。「この結果、君の自業自得だ」一瞬だけ心が痛かったが、すぐ冷酷な彼女に取り戻した。娘の死より、小林社長への対応が最も重要になった。 辰夫は紗枝を近くの病院に連れて行った。オペ室に運ばれた紗枝を見届けた。手術中の3文字を見て、彼が緊張して、うろうろ廊下を歩いた。手術が1時間続いたとき、お医者さんが出てきた。「患者の様子が危篤で、家族の方はどこにいますか?」辰夫ドキッとした。「彼女は…どうなったの?」 「家族の方ですか? 患者は危篤で、術式変更承認書にサインをお願いします。最大の努力するつもりですが…」とお医者さんが言った。 辰夫が喉を締められたようになり、元の優しさを一変し、襟元を掴んでお医者さんを持ち上げた。 「危篤なんかあり得ない。彼女を治せなかったら、皆に死んでもらうぞ!」お医者さんを押し
啓司は黙って聞いており、気分が重くなったが、反論しなかった。 彼の曖昧なやり方で、友人の和彦やら、お母さんの綾子やら、助手の牧野やら、それとも実家の使用人やら、皆が紗枝をまともに引き受けなかった。和彦が電話を受け、急いで出て行った。 彼が離れた後、啓司は無意識にスマホを取り出して、紗枝から電話とか来てないかと確認した。電話をかけて見たが、まだ冷たい声だった。「おかけになった電話は現在、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため…」苛立った彼は、スマホをテーブルに投げ捨てた。 立ち上がり、窓側に寄って、タバコに火をつけた。 今朝、紗枝の言葉はまだ彼の頭に響き、彼女は後悔した…喉が苦くて渋くなって、彼は激しく咳をした。突然後ろから女性の声が伝わってきた。「啓司君、タバコを減らしてよ、健康に良くないだから」啓司の心は引き締まった。紗枝が帰ってきたと思った。振り返ってみると、賢妻の恰好をした葵だった。多少がっかりした啓司は何げなく聞いた。「何をしに来たの?」「おばさんに頼まれてきたの。紗枝が再婚相手を見つけたことを知ったので、気にしないでって伝えに来たの」 彼女が言ったおばさんは啓司のお母さんだった。4年前。綾子は和彦と同じ車に乗って事故に遭った。O型血液が不足だったので、たまたま紗枝が同じO型だった。彼女が和彦の安全を確認してから、綾子に輸血を行った。 でも、輸血後、彼女は疲れ切ったため、気を失った。 当時、夏目家に援助されて、葵はいつも工夫して紗枝の機嫌を取ろうとした。紗枝が病院にいたと知り、直ちに病院に行って世話をし始めた。その時、彼女は紗枝が人を救ったことを知った。 しかし、誰でもわからなかった。葵は紗枝が入院中に誑かして、綾子と和彦の命の恩人に成りすました。葵は当初、綾子の命を助けたことで、啓司に嫁さんとしてもらえると思った。しかし、綾子は息子の事業のため、権力のため、積極的に夏目家に縁談を申し出た。紗枝が聴覚障害があるにもかかわらず。そして今、啓司は紗枝と関係が上手く行かず、結婚して3年、子供がまだできていなかった。啓司のお母さんは条件を緩めた。葵と啓司のことを認め、子供ができたら、結婚を許してやると彼女に言った。「彼女の再婚相手は誰?」葵を
窓の外、荒い風が吹き、紗枝は痩せ細い手で腹に触り、目が鈍かった。妊娠したことを検査で分かって、辰夫から聞いた。この子は今時に来るべきじゃなかった。虚ろな目で生きる意志がない紗枝を見て、出雲おばさんが心を決めた。「紗枝」 しばらくたってから紗枝が正気に戻り、出雲おばさんに頭を向けた。「おばさん」目が赤くなった出雲おばさんは老けた手で彼女の髪の毛を優しく撫でた。「紗枝、おばさんには子供がいなくて、ずっと君を自分の娘と見ていたのだ。「おばさんは君に金持ちになれと期待せず、ただ健康で生きてほしい。「もし一人娘が死ぬなら、お母さんも生き残るわけにはいかない」出雲おばさんはフルーツナイフを手に取った。それを見て紗枝の体が引き締まった。 「10歳まで育て、それからずっとお供できなくて、すべて私が悪かった。今から旦那様に謝りに行く…」話し終わってから、彼女はナイフで手首を切りつけた。紗枝がびっくりした。力込めて止めようとしたが、立ち上がることすらできなくて、唖然として声も失った。「おばさん…やめて…」出雲おばさんが手を止めることがなかった。紗枝は彼女の手首の赤い血をみて、涙が流れて止まらなくなった。「愚かなことをしないから、しないから…おばさん、やめて…」 紗枝の約束の言葉を聞いて、出雲おばさんが手を止めた。目が赤くなった。「紗枝、生まれてくれた御恩をすでに返した。「今は彼女に借りがなかったし、啓司にも借りを返した。「これから、君は愛してくれる人のため、私のため、そしてお腹の子のため、ちゃんと生きて行かなけらばならないのよ!」 紗枝は出雲おばさんの話を聞くことにして、彼女と子供のために生きていくと決めた。これから、美希は母親でなくなり、弟もいなくなった。彼女の身内は出雲おばさんと腹の子だけだった。 出雲おばさんはこの方法で紗枝に決断させるつもりはなかった。 でも、紗枝に生きてほしかった。紗枝は自分の生まれを左右できなくて、それでもいわゆる生まれた御恩を背負わなければならなかったのか。 本当の母親は、娘に命で恩返しするなんてありえないだろう。入院中。 辰夫の話により、美希は海外に逃げ出した。悲しみを感じなかった。啓司と同じように、長い間、美希へ恩返しをしたく、今後一