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第228話

紗枝は遠くにある庭をじっと見つめた、夢美の言葉を思い出し、無意識に庭の方へ足を運んだ。

庭は手入れが行き届いており、金木犀の甘い香りが漂っていた。この感覚はどこか懐かしい。紗枝はここに来たことがあると直感したが、あまりに久しぶりでその記憶は薄れていた。

幼い頃、父親と一緒に黒木家を訪れたことがあるのだ。

金木犀の木の下に立ち、少し離れた朱塗りの木造の建物に目を向けると、紗枝は一歩一歩そちらへ進み、手を伸ばして扉を押し開けた。

「ギギギ――!」

扉がゆっくりと開き、中の様子が露わになった。

部屋の中の家具や物はすべて白い布で覆われており、何かを隠しているかのようだった。

夢美が自分に何を見せたかったのか?

一枚の白布をめくる。

「ガタン!」何かが床に落ちる音がした。

紗枝が前に進むと、床には額縁が落ちていた。

彼女はかがんで額縁を拾い上げ、表面を確認すると、その瞬間、全身が固まった。

額縁の中には一枚の写真があった。

並んで立つ二人の子供、顔は瓜二つだが、片方は冷淡な表情で、もう片方は笑顔を浮かべている。

写真の端には小さな文字が記されていた。「兄、黒木啓司。弟、黒木拓司」

黒木啓司......

黒木拓司......

紗枝の胸中に、言いようのない不安が押し寄せる。彼女はすぐに他の白布も次々とめくり、さらに何枚かの写真を見つけた。

それらの写真は、子供の頃ではなく青年時代のものだった。

写真の右側に立つ男性は、冷たい表情を浮かべたスーツ姿で、左側の男性はカジュアルな服装に優しげな目をしていた。

二人はそっくりだが、並んでいると明らかに異なる人物であることがわかる。

同様に、写真の下には「兄、黒木啓司。弟、黒木拓司」と書かれていた。

右側の冷たい表情の人物は啓司で、優しい表情の人物は弟の拓司だった。

その瞬間、紗枝の頭の中で何かが砕けた音がした。

彼女は、長い間何かを勘違いしていたのかもしれないと思った。

しかし、彼女がずっと好きだったのは啓司なのに、どうして間違ってしまったのだろうか?

震える手で写真を握りしめながら、さらなる手掛かりを求めて部屋を探していると、突然外から話し声が聞こえてきた。

紗枝はやむを得ずその場を離れ。

裏口から庭を抜け出す、写真を手にしたまま、顔色が青ざめていた。

彼女は啓司に問いただすつ
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