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第10話

車が急いで走り去るのを見ていると、心の中にずっと詰まっていたモヤモヤ感が一気に消えたような気がした。

多分、私はこの人たちからようやく縁が切れると察したからだろう。

これは神様が私に贈ってくれた最高の誕生日プレゼントだった。

やはり雨宮優香は早産し、男の子を出産した。

幸いに子供はとても健康で、大きな影響は受けていなかった。

そして、絢斗はようやく離婚届にサインをしてくれた。

役所を出る際に、彼は私を呼び止め、満面の不満を浮かべていた。

「晴子、お前はとっくに斎藤と出来てたんじゃないのか?だから俺に離婚を迫ったんだろ?」

隣に新しい隣人が引っ越して来たのは知っていたが、流産の兆候が出て病院に行った日が、彼と正式に話をした日だったと絢斗に告げた。

私は誠実に人生に向き合ってきた。だから誰が何を聞こうとも、この回答に嘘はない。

「絢斗、あなたはどうなの?雨宮さんに対しては本当にただの憧れで、この数年間、一線を越えた関係はなかったの?」

彼は口を開こうとしたが、私が遮った。

「答える必要はないわ。私は中ですでに答えは出てるし、これ以上自分を欺くのもやめて」

雨宮優香の手口は巧妙だった。

昔は絢斗という取り巻きを眼中に入れず、彼の事業が成功した途端に、そばに戻って来た。

そして、彼女は絢斗と直接寝ることはなく、自分は永遠に特別で高潔であると思わせていた。

その手段はまさに見事だった。

だけど、絵画の盗作が発覚して、アトリエを没収されてから、彼女は焦り始めた。

彼女が絢斗を必死に求めるほど、絢斗は彼女を大切にしなくなった。

それは、彼がかつて私に対してしたことと同じだった。

「絢斗、あなたには何の借りもないけど、あなたは私に罪の意識があることを忘れないで」

そう言い放った私は、手を振りながら健に車を停めるよう合図した。

絢斗は暫くその場に立ち尽くしていたが、やがて車のバックミラーの中で完全に消えて、私の人生からも消え去って行った。

一年後、私は再び妊娠した。

病院で妊娠検査を受けていた私は、絢斗に再会するとは夢にも思わなかった。

彼の顔色は青白く、顎には髭が生え、シワだらけのシャツには血の汚れがいくつも付いていて、運搬用のベッドのそばに付き添っていた。

私は彼のそばを通り過ぎる際に、ちらっと目を向けた。ベッドに横たわる雨宮優
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