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第6話

絢斗が堂々と責め立てるのを前に、私はもう何も話す気が起きなかった。

彼は自分が間違っているとは全く思っていない。

「離婚届なんていくらでもプリントできるわ。逃げても無駄よ」

絢斗は怒りで立ち上がり、椅子が床にガシャンと音を立てて倒れ落ちた。

彼はまるで狂った獣のように、感情を抑えようとしながら部屋中を往復していた。

「晴子、もし君が本当に気にしているなら、誓約書を書くし、遺言書も作る!優香の子供を認知しないことも、財産を相続させないことも保証する。それなら安心できるだろ?」

私は深くため息をついた。

彼はなぜ、いつまでも分からないのだろう。

財産分配であれば遺言書に、白黒はっきりと分けられる。

でも、感情は?

感情は「与えない」と決めたら、そう簡単に与えずに済むものではない。

これから子供が大きくなり、ますます自分に似てきたら、血の繋がりが強まっていく。

それでどうやって心を動かさずにいられるだろうか?

それでも彼を信じれるなんて、それこそこの世で一番愚かなことだ。

「絢斗、あなたが今後誰を見守って、誰と子供を作って、誰にお金を使わせたいのか、私はもう何も気にしないわ」

「私は8年間もあなたを愛していたし、あなたと雨宮優香の関係がどれほど曖昧であっても、耐え抜いてきた。あなたと別れたら生きていけないとまで思っていた。でも今やっと目が覚めたの。あなたは私にとってそんなに大切な存在じゃない」

「離婚の唯一の理由は、私の心が死んでしまったことよ。もうあなたを愛していない。それだけのこと、分かった?」

全てを打ち明けた時の私は、終始冷静で理性的だった。

昔のように卑屈に懇願することも、感情が崩壊して泣き叫ぶことも、嫉妬で狂うこともなかった。

そのことを彼も察したようで、彼は完全に取り乱し、困惑していた。

最終的に、彼は会社での用事を口実にして、慌てて逃げ出していった。

本当に彼のことが理解できない。

以前は大事にしてくれなかったのに、今になってこの態度を取るなんて。

離婚して雨宮優香と一緒になった方が幸せではないの?

それとも、家には賢妻、外には初恋相手という生活が、より刺激的で満足感を与えてくれるのだろうか?

私は荷物をまとめ、テーブルに新しい離婚届を置いて、引っ越す旨を書いたメモを残した。

ただ、どこに行けばいいのか、
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