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第5話

斎藤健は絢斗が買ってきたテイクアウトに気づき、少し驚いた様子だった。

「病院の近くには患者向けの料理を出すお店がたくさんあるのに、あんたは一番不適切な店を選んでくるなんて、逆にすごいよ!」

絢斗が奥歯を噛みしめ、怒りを堪えている様子だった。

彼は陰鬱な顔で、「今後は自分で作ったものを用意するから、余計な世話をするな」と言った。

しかし斎藤健は一歩も引かず、「俺がお姉さんをちゃんと世話して退院させたのに、たったの1日で流産したんだ。あんたには信頼できる要素が全くない」とダイレクトに不満を露わにした。

絢斗は険しい顔で、「晴子は俺の妻だ。なんでお前が親切にしてる?人妻との距離感も分からないのか?」と非難した。

私はスプーンを置き、皮肉を込めて言った。

「他人に言う資格があるの?体外受精で他の女性に子供を作らせる方が、よっぽどどうかしてるわよ」

斎藤健は目を大きく見開き、信じられないという表情で絢斗を一瞥した。

絢斗の顔は一気に真っ赤になり、昔の彼ならきっと既にドアを叩きつけて出て行っただろう。

だけど今日の彼は耐え続け、静かに椅子に座り、斎藤健が出て行くまでじっと睨みつけていた。

翌日、案の定絢斗は家に帰って自ら調理をして、病室に戻って来た。

彼が戻ってきた際には、雨宮優香も病室にいた。

絢斗は少し慌てて、「何しに来たんだ?」と彼女に尋ねた。

雨宮優香は相変わらず優雅な振る舞いで言った。

「特別にあなたの好きな料理を作ってきたの。晴子さんはあなたと結婚して長いから、きっと喜ぶと思って」

私は料理を一瞥した。確かに彼の好物だった。

しかし、今回彼は喜ぶどころか、少し困惑した表情を浮かべた。

「これは脂っこいから、晴子には合わない。やっぱり俺が作ってきたのを食べて」

彼が補養スープを私の前に差し出すと、雨宮優香は口元をすぼませなが笑った。

「やっぱり病気になると大事にされるわね。絢斗くん、昔は私の為にしか料理しないって言ってたのに、今は晴子さんにも作るのね」

私は無言で薄笑いした。

彼女のこうしたやり方には、過去2年間、何度も苦しめられてきた。

最初の頃は嫉妬に狂い、彼女への警戒と焦りで心を乱していたが、今ではその浅はかな手口が滑稽に思えるだけだ。

「イチャつくなら、ホテルでも行ってくれない?ここは病院よ。勘弁して、吐き気がす
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