電話を切った後、私はテーブルに精心込めて準備した料理と6周年記念のケーキの写真を撮り、夫に送った。夫の返信は意外に早かった。「誕生日だったっけ?」「今日、飛行機で帰れないから、一人で何とかして」私は自嘲気味に笑い、ケーキをゴミ箱に投げ捨てた。私の誕生日でも、結婚記念日でもいい。どうせ絢斗は覚えていない。でも、彼は雨宮優香のことを、手帳にわざわざ書いて、しっかり覚えている。高校時代から、今までずっと記録している。私はテーブルの上に置かれた妊娠検査の結果を、そっと片付けた。本来なら、今夜の食事の際に、絢斗へのプレゼントとして渡すつもりだった。でも、今となってはそんな必要もない。結婚して6年、子どもができず、私は3度の体外受精を試みた。その過程はとても辛く、しかもすべて失敗に終わった。今回ももう望みはないと思っていたのに、まさかの妊娠。でも、その喜びもつかの間、雨宮優香のSNSの投稿を目にしてしまった。もしかすると、彼女も同じ日に、私の夫の精子で体外受精したのかもしれない。それなのに、私は何も知らされず、騙され続けていた。私は料理を自分の前に持ってきた。食欲はなかったけれど、赤ちゃんの為に少しでも食べなければと思った。でも、料理の匂いを嗅ぐと、急に激しい吐き気がこみ上げてきた。吐き続け、最後には下腹部がますます痛くなってきた。そして、突然、下腹部に温かい湿り気を感じた。血が、ズボンに滲んでいるのが見えた。私は一瞬でパニックに陥った。もしかして流産の兆候?絢斗にどれだけ失望していても、この赤ちゃんはやっとの思いで授かった命。失うわけにはいかない!私は急いでスマホを手に取り、病院に向かおうとした。しかし、玄関のドアを開けた途端、激しい痛みで足が立たず、壁に寄りかかってそのまま崩れ落ちてしまった。私はすぐにスマホを取り出して救急車を呼ぼうとしたが、視界が暗くなり、めまいがして、力が全く入らない。今朝から体調が悪くて、病院で検査を受けて忙しくしていた。それに、絢斗がきっと家に帰って結婚記念日を祝ってくれると信じていたから、ケーキや料理の準備でバタバタしていた。おそらく低血糖だろう。私は急いでスマホを取り出して救急車を呼ぼうとしたが、視界が何度も暗くなり、めま
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