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第86話

紀子が監督を気にするわけではないが、前回の樋口家の宴会で雄一に軽蔑されたことに心の中で少し感情的になっただけだった。

暫くして。

雄一がスタジオに現れた。

簡単な話をしてから撮影し始めた。

「アクション」

雄一がカメラの前に座り、眉を顰めた。

「カット」

呼び止められて、紀子の顔色が暗くなった。

「井上監督、どうしたのですか?」副監督が急いで聞いた。

「目つきが合わないし、位置取りが間違った。レンズへの感覚がない。そして服装のスタイルもだめだ」雄一が言った。「このままでは期待の効果が出ない」

紀子が雄一の言葉を聞いて顔色がさらに暗くなった。

家族の背景があり、今まで彼女がこう言われたことがなかった。

「アイテムチームにメイクを変えてもらって。僕は千編一律のインフルエンサーの安っぽくムービーを取りたくない。役者はもうちょっと脚本を読んで、キャラを実感して」雄一がぶっきりぼうに言った。「僕は隣のスタジオに行くから、暫くしてまた戻る」

そう言って雄一が直接離れた。

「井上雄一」

紀子が駆けつけた。

長年ドラマなどの撮影を経験したが、これほど批判されたことはなかった。

雄一が立ち止まった。

「こんなに沢山指導して、直接見せてくれませんか?」

「僕は監督だ。役者ではない」雄一がぶっきらぼうに言った。「もちろん見せてもいいが、ちょっと今は忙しい」

言葉を残して、雄一が向きを変えて出て行った。

紀子がかっとなった。

前の悔しみも思い出して、彼女は直接雄一を引っ張った。

雄一は不意に引っ張られ、体が斜めになり、近くの臨時に建てられたトラスにぶつかった。一日の撮影のために建てられたトラスなので、固く固定されなかったのか、この衝撃により、鉄のパイプが沢山落ちて来た。

「気をつけて!」

現場にいた全員が驚愕した。

紀子もびっくりして唖然とした。

パイプが落ちて来るのをじっと見ていた。

その瞬間、雄一が突然身を乗り出して紀子を体で守り、二人は地面に倒れた。パイプが直接雄一の背中に落ちていた......

「春の風物詩」の撮影が進行中。

スタッフの一人が突然大声で叫んだ。「大変です。井上監督が隣のスタジオでパイプに背中を傷つけられました......」

話が終わらなかったが、一人が急いで事故現場へ駆けつけた。

複雑なドラマの服装
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