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さよなら、川輝
さよなら、川輝
著者: 久照(ひさてる)

第1話

バレンタインの日、私は西脇川輝と結ばれた場所で死んだ。観覧車のゴンドラに頭を砕かれて。

一度に二つの命が消えた。

その瞬間、私の夫、川輝はそのゴンドラの中で七尾楽奈を抱きしめ、キスをしていた。

「師匠、私が動かなければ、あの人は......」

空中に漂う私は、楽奈が川輝の胸にしがみつき、まるで心から悔いているかのような姿を見ていた。

私は彼女の耳元で何度も囁いた。「お前だ、お前が動いてゴンドラを落としたんだ!そうでなければ、私は死ななかった!」

しかし、私の声は彼女には届かない。

「楽奈のせいじゃない。これは彼女の運命だったんだ。俺たちが乗っていなくても、他の誰かが同じように死んでいたさ」

川輝はしっかりと楽奈を抱きしめ、まるで次の瞬間に私が蘇り、彼女を脅かすかのように恐れていた。

「師匠、怖い」

「見るな。ここを離れよう」

川輝は楽奈の頭を胸に押し付け、彼女を抱き上げてその場を去ろうとした。

それでも楽奈は私の頭が砕けた死体を一瞥し、口元にはかすかな微笑みが浮かんでいた。

川輝の職業は特殊で、彼は葬儀屋のエンバーマーだ。そして、楽奈は新米の研修生で、6月には大学を卒業する予定だった。

彼女は若くて美しく、川輝は彼女がいつも普通の人には馬鹿げた質問をしてくると話していた。

「新米の研修生は本当に愚かだ。この仕事は慎重で賢い人にしかできない。彼らの最期の信頼に報いるためには、それが絶対必要なんだ」

最初、川輝は家に帰ってくるといつも楽奈の失敗や不注意について愚痴をこぼしていた。彼女はこの仕事に向いていないとさえ思っていた。

しかし、やがてその愚痴は変わっていった。いつしか川輝の口調には愛情が感じられるようになった。

「今日も楽奈がしくじったけど、俺がフォローしてなんとかしたよ。

もし俺がいなかったら、彼女はどうなっていたんだろう?」

その言葉に問題があると気づいたのか、川輝は急いで私の顔色を伺った。

実は、私はずっと前から彼の浮気を知っていた。だから、その時の私は何の表情も見せなかった。

彼の浮気を教えてくれたのは楽奈だった。彼女は川輝と寝た後、私に写真を送りつけてきた。

「師匠が言ってたよ。お前は卵を産まない鶏だ、もう愛していないって。賢いなら、さっさと出て行け」

二人が絡み合ったその姿を見て、楽奈の言葉が本当かどうかもわからなくなっていた。

「愛人でいることがそんなに誇らしいの?」

震える手で打った言葉はそれだけだった。頭が真っ白で、どう問い詰めればいいのかもわからなかった。

結局のところ、問題は川輝にあったのだろうか?

「愛されていない方が愛人なのよ。あなたはもう時代に取り残された古い女よ」

私は楽奈の言葉に縛られ、彼女が言う「卵を産まない鶏」という一言が頭を離れなかった。

川輝が浮気したのはそのせいなのかもしれない、そう思った。

あの時、もし子供ができていたら、状況は違ったのかもしれない......

私たちは10年付き合い、結婚して8年。だが、私は片方の卵管が詰まっていたせいで、ずっと子供を授かれなかった。

私たちは二人の子供が欲しかった。子供部屋やベビーベッドまで準備していた。

それから私はこっそりと長い間、漢方薬を飲み続け、川輝にサプライズをしようと思っていた。

苦くて臭い中薬を鼻をつまんで一口ずつ飲み干すたび、子供がやって来ると信じていた。

ついに努力が報われ、生理が3ヶ月来ないことに気づいた時、私はひそかに検査をした。

妊娠検査薬に二本の線が浮かび上がった瞬間、私はトイレの中で一人で歓声を上げ、泣きじゃくった。

私はようやく母親になれた!

しかし、彼はこの世界を見ることなく、去っていったのだ。

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