婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~

婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~

last update最終更新日 : 2025-04-25
作家:  さぶれたった今更新されました
言語: Japanese
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概要

溺愛

一人称

おとなしい子

お見合い

29歳の幼稚園教諭・眞子は、出会いのない毎日に焦りを感じていた。最後の独身友人も婚活アプリで結婚が決まり、眞子も半ば強引にアプリに登録されてしまう。やり取りを始めた4人の男性の中で、眞子の心を動かしたのは、どこか謎めいた魅力を持つ彼。モンスターペアレントに心が折れそうな中、優しく寄り添う彼に眞子は惹かれていく。しかし、彼には思いもよらぬ秘密が隠されていて――。 婚活アプリから、危険な恋が始まる予感。

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第1話

プロローグ

「眞子 いいか」

 彼の吐息が私の頬をくすぐった。

「ふっ…」

 熱いキス。もう、これだけで溶けてしまいそう――彼の手が私の胸を包み込んだ。

 あっ……思わず声が漏れる。

 甘い快楽の予感に身体の芯がとろけていく。

 彼の指がゆっくりと私のドレスにかけられた。

 熱い……肌が触れ合うだけで感じてしまうほど、身体中が敏感になっている。

 吐息、指、視線…それらすべてが私の肌に触れるたび、自分でも驚くほどの甘い声が漏れてしまう。

 彼は私を抱き上げベッドに運ぶと、そのまま激しくキスをした。

 なにも考えられなくなるようなキス。

(どうして…こんなことに…)

「眞子」

 熱のこもった低い声で名前を呼ばれると、体がかっと熱くなる。

 抗えない。

 止められない。

「君はいつも午前0時前に帰ってしまうシンデレラだ。でも、今日は帰したくない」

 彼の唇が私の首筋を這い、熱い吐息が肌をくすぐる。肌にまとわりついていたドレスを丁寧に脱がせ、露わになった胸先に触れる。

「んあっ…!」

 情熱的な刺激に思わず悲鳴が上がる。何度か繰り返され、やがて彼は私をうつぶせに寝かせると、背中にキスの雨を降らせた。

 そして……唇が背中を這う。

 この人は秘密が多すぎる。

 今ならまだ引き返せる。この手を払い、ひとこと「やめて」と言えば、彼は無理強いしたりしない。

 ホテルの壁時計を見た。もう、針は0時を回りそう。

 引き返すには遅すぎた。戻れない…。

 この人とひとつになることを、私は望んでいるから――…

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プロローグ
 「眞子 いいか」 彼の吐息が私の頬をくすぐった。「ふっ…」 熱いキス。もう、これだけで溶けてしまいそう――彼の手が私の胸を包み込んだ。 あっ……思わず声が漏れる。 甘い快楽の予感に身体の芯がとろけていく。 彼の指がゆっくりと私のドレスにかけられた。 熱い……肌が触れ合うだけで感じてしまうほど、身体中が敏感になっている。 吐息、指、視線…それらすべてが私の肌に触れるたび、自分でも驚くほどの甘い声が漏れてしまう。 彼は私を抱き上げベッドに運ぶと、そのまま激しくキスをした。 なにも考えられなくなるようなキス。(どうして…こんなことに…)「眞子」 熱のこもった低い声で名前を呼ばれると、体がかっと熱くなる。 抗えない。 止められない。「君はいつも午前0時前に帰ってしまうシンデレラだ。でも、今日は帰したくない」 彼の唇が私の首筋を這い、熱い吐息が肌をくすぐる。肌にまとわりついていたドレスを丁寧に脱がせ、露わになった胸先に触れる。「んあっ…!」 情熱的な刺激に思わず悲鳴が上がる。何度か繰り返され、やがて彼は私をうつぶせに寝かせると、背中にキスの雨を降らせた。 そして……唇が背中を這う。 この人は秘密が多すぎる。 今ならまだ引き返せる。この手を払い、ひとこと「やめて」と言えば、彼は無理強いしたりしない。 ホテルの壁時計を見た。もう、針は0時を回りそう。 引き返すには遅すぎた。戻れない…。 この人とひとつになることを、私は望んでいるから――… 
last update最終更新日 : 2025-04-17
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第1話・婚活アプリ その1
「結婚、おめでとう―――」 駆けつけた友人たちの掛け声と共に、私の目の前でフラワーシャワーが舞った。 純白のドレスとお揃いのふわりと広がるチュールボレロはオフショルの肩を優しく包み、ハイネックにも白い上品なレースの刺繍が散りばめられている手の込んだ一品。その白い花はまるで本物の花に見まがうほどの出来栄え。 そんな美しい純白のウェディングドレスに包まれているのは、小学校からの親友、増山百花(ますやまももか)、二十九歳。今日の彼女は、人生の中で恐らく一番輝いていて美しい。 しかし何故、彼女は私の目の前でこんなに美しく輝いているのだろうか。 というのも、彼氏ができないと、つい二か月ほど前に彼女と女子会と称した飲み会でぼやき、愚痴ったばかり。寝耳に水な話で驚きを隠せない上、微妙に裏切られた気分になっているのはなぜだろう。 こうして私は今日、仲のいい友人たちの中でいよいよ最後のおひとりさまとなってしまった。 いや、でも、彼女の幸せを祝福したい! おめでたい席で後ろ向きな発言はダメだとは思うけれど。 気を利かせてか、私を見てウィンクした彼女。ブーケを投げてくれた百花の優しさというかおせっかいというか、キャッチしてしまってから言うのも何だけれど、複雑な気分になってしまう。 もやもや。「眞子ぉ――。来てくれてありがとう!」 百花は現実主義なのであまりお金は掛けず、アットホームな結婚式に落ち着かせた。披露宴中、高砂席に座った百花に挨拶に行ったら、ぎゅーっと抱きしめてくれた。 彼女の破顔した顔を見ると、小さなことでもやもやしている自分が恥ずかしくなってしまう。親友の祝福を心からしたいのに、もやついている自分が悪に思えた。「百花が幸せになるのは嬉しいけれど、ちょっと淋しいよー!」 気を遣わない友達だからつい本音を言ってしまった。いいよね、少しくらい。幸せを祝う気持ちは十分にあるのだから!「そうだよね。私も眞子の立場だったら、同じように思う! だからさ、いいこと教えてあげようと思って!」 スマホ貸して、と百花に手を伸ばされたのでそれに従った。「実はさー、今日の相手、婚活アプリで見つけたんだぁ」「こ、婚活アプリぃ!?」 なんと! 利用が初めてだった百花は、マッチングした一人目の相手と速攻で意気投合からのゴールインだと言う。 そんな…いきなり一人目で
last update最終更新日 : 2025-04-17
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第1話・婚活アプリ その2
 「眞子先ぱぁい! 朝からどうしてそんな怖い顔しているんですかぁー?」 勤務地のさくら幼稚園に到着してすぐのこと。 一向に『いいね』受信が止まらないので、スマートフォンを片手にどうしたものかと困っていたら、後輩の鮫島理世(さめじまりよ)が声を掛けてくれた。目力のあるパッチリとした顔立ちに、ショートカットが良く似合っている。現在二十五歳の彼女は、エネルギーに満ち溢れている。子供たちに人気の教員だ。「あ、理世ちゃんおはよう」「んんっ、眞子先輩がついに! 婚活アプ…もが」「しーっ。声大きいっ」 スマートフォンの画面をのぞき込み、大声を上げて現状を説明しようとする後輩の口を押さえつけた。「実は――」 昨日、独身最後の親友が私を哀れん、勝手に婚活アプリを登録してしまった経緯を説明した。「それで、メッセージがいっぱいきちゃって、どうしていいのか全然分からないの」 とりあえず写真は無し、名前を眞子だから『M』、年齢二十九歳と生年月日のみ嘘偽りなく登録している。勿論独身なので、登録する時に独身にチェックも入れて。 たったこれだけの情報なのに、私にメッセージを送ってくる人が多すぎてスゴイ。もうびっくりする。 「こんな所へ登録する男は、みーんな出会いを求めていますからねー。女性とあれば誰でもメッセージを送る人が多いみたいですよぉ」「そうなんだ…やっぱり怖いし使うの止めよう」「いやいやいやいや、勿体ないです! わかりました。日頃のお世話に感謝を込めて、私が眞子先輩にアプリのレクチャーをして差し上げましょう!」 理世ちゃんは、婚活アプリというか、出会い系アプリの達人のようで、詳しくアプリについて教えてくれた。 先ず、登録すると初回サービスである程度のポイントが貰えて、『いいね』を送れるようになるらしい。本来このポイントは、基本的にお金を払ってサイト上で買うらしい。マッチングさせる時や、『いいね』を送る時、このアプリの様々な機能を使う時に、ポイントを使うシステムになっている。 しかし、いきなり初回の相手からポイントを奪取するとなると、利用者が誰も使わないので、ある程度の無料期間やポイントサービスがあるらしい。 因みにこの婚活アプリは『Love Sea(ラブシー)』と言い、女性は登録後三日間だけ、男性に対して無制限で『いいね』を送って相手が『ありがとう
last update最終更新日 : 2025-04-17
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第1話・婚活アプリ その3
 とりあえず、ゆうたさんのプロフィール、更に送ってくれたメッセージを見た。「ゆうた」二十七歳会社員、年収五百万円以下、喫煙しない、飲酒しない、暇さえあれば釣りに行くほどアウトドア大好き。 彼の容姿は、ふわっとした柔らかそうな髪を清潔にまとめていて、カジュアルルックな写真。目は細くて優しそうな印象を受けた。年下なので、どこか頼りない雰囲気があるのは否めないが、可愛らしいのがウリなのかもしれない。――こんばんは、マッチありがとうございます! 僕は都内在住の会社員で、趣味は釣りでアウトドア好きです。とりあえずお友達から始めましょう! メッセ待ってます! Mさんはキャンプ好きみたいだけれど、何処へキャンプ行くのですか?(ゆうた) ゆうたさんは、簡潔な自己紹介と趣味が合いそうだとメッセージをくれていた。メッセージアプリだから、誰からのメッセージで、どのようにやり取りをしているかがすぐに解るようになっている。 話の合いそうな事を相手から質問されていて、会話が途切れないようなメッセージ。心遣いを感じる。初対面だもんね。とりあえず返信しよう。――ありがとうございます。今回、お友達に勝手に登録されていまいました。初心者なので、失礼があったらごめんなさい。最近はキャンプ行けていないです。仕事が忙しくて。ゆうたさんは休日に釣りへ行かれるのですか?(M) 当たり障りのない返事を送ってみた。 続いて見たのは「I.N」さん。三十一歳、ヘルスケアアプリ販売・大手企業、年収八百万円以下をタップすると、ヘルスケアアプリを扱っているだけあり、細くイケメンの雰囲気がした。ツンとした髪が印象的で、堂々と自己写真を利用している事から、自信があるのだろう。プロフィールに登録できる中の写真に犬と一緒に映っている写真もあって、犬好きの模様。――こんばんは。Mさん、マッチング申請ありがとう。僕も読書好き。Mさんはどんな本が好き? 年齢同じだから、敬語なくていいよ!(I.N) はー、流石だなぁ。こっちが会話が続くようにメッセージを送ってくれている。同じ年齢というのもあって口調がくだけているから、話しやすそう。 なんか、慣れてるなぁ。私と大違いだ。――こんばんは。メッセージありがとう。敬語ナシって嬉しいよ。好きな本は恋愛系の小説かな! 犬好きなんだ? 私も好きだよ。I.Nさんの飼い犬、かわいい
last update最終更新日 : 2025-04-17
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第2話・会ってみない? その1
 親友内で唯一の独身仲間・増山百花を見送り、婚活アプリを登録したあの日から一週間ほど。週明けの月曜日は忙しく、今日もクタクタになった。 幼稚園の仕事は、思いの外沢山ある。 私の勤めているさくら幼稚園はまだいい方だけれど、定時が決まっていても思うように退勤できなかったり、持ち帰りの仕事も多くて大変だ。でも、子供たちの成長や笑顔に癒されているから、この仕事は辞められない。私の生きがい。  一通りの家事と食事を終え、お風呂に入って疲れを癒す。はー。この時間が一番好き。お風呂ってどうしてこんなに気持ちいいんだろう。好きな入浴剤を入れて、好きな匂いに包まれるこの至福の時間。最高だ。  リラックスしてお風呂から出ると、もう午後九時半。そろそろお誕生日会をするから、子供に被せてあげる王冠を作らなきゃ。今、六月だから六月生まれのおともだちは―― 子供たちの誕生月を一覧にした自作プリントを見ると、小倉 昌磨(おぐら しょうま)君と、羽鳥 聖也(はとり せいや)君となっていた。  あぁ…聖也君かぁ。羽鳥という名を見て、憂鬱な気分になった。  聖也君はとてもいい子だから、彼に問題がある訳ではない。問題は――お母さんだ。 彼の母である羽鳥恵里菜(はとりえりな)さんは、大変気厳しい方だ。園でも彼女がモンスターだと専(もっぱ)ら評判の持ち主。担任になった先生方は、何時も疲弊させられている。  その羽鳥さんに、今年遂に私が担任のクラスで当たってしまったのだ。  現在、さくら幼稚園での私の受け持ちクラスは年長のそら組。 聖也君は大人しくてとてもいい子なのだけれど、若干のアレルギー持ち。食べてはいけないとされる除外食品に頭を悩ませている。 軽度のアレルギーなので、除外食品を口にしても生死に関わる問題は無いけれど、舌がしびれたり、場合によってはじんましんが出たりするので、気を付けている。 給食等はしっかりとした管理体制で気を付けているから
last update最終更新日 : 2025-04-17
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第2話・会ってみない? その2
 あれから、I.Nさんとゆうた君とは、友人とやり取りするようなライトな感じでメールのやり取りを行っていた。玄さんから特にメッセージは無く、Takaさんは仕事が忙しいみたいだけれど、時々長文の熱量すごいメッセージをもらっている。 Takaさんとの会話は、基本的に食べる話が多いかな。残業続きでゆっくり時間が取れないから、絶対今後ご飯を食べに行こう、と熱心に誘ってくれている。何時になるか解らないけれどね。  I.Nさんは犬が好きらしく、犬の話題は大変喜んでくれたが、正直そこまで犬好きでなく詳しくないので、話に付いていけない所が多々あった。ゆうたさんとは楽しいメールのやり取りをしている。 ――こんばんは、仕事終わり? お疲れ様!(ゆうた)  ゆうた君からのメッセージだった。フランクに話せるゆうた君からのメッセージは、ささくれていた心に温かな灯を点けてくれた。メッセージ、嬉しいな。 ゆうたさんと最初の頃は呼んでいたけれど、年下だから『ゆうたでいいよ』と言ってくれたので、ゆうた君と呼ぶことにした。もともとアウトドアの話が合うので、秘密のキャンプ場や秘密の渓谷の話で盛り上がった。 ――ありがと。ゆうた君も仕事終わり?(M)  メッセージを返していると、もう一通メッセージが届いた。こっちはI.Nさんだ。 ――お疲れ。今度ドックフェアあるけど行かない?(I.N)  ドッグフェアかぁ・・・・。犬好きの温度差がある事に、I.Nさんは気づいてくれてないのかな。 正直気乗りしないけれど、仲良くなった人の趣味や趣向を理解しようとするのもこちらの努めかと思い、いつ開催されるのか、と返信した。  ――イベントは二週間後の日曜日。Mちゃん都合つく? 会おうよ(I.N)  そっか。会うのか。ちょっと緊張するけれど、イベントだったら楽しくデートみたいな事、できるか
last update最終更新日 : 2025-04-17
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第2話・会ってみない? その3
 私が恵里菜さんの電話対応をする時、宥(なだ)めるのに一時間はかかってしまう。理世ちゃんは割と『はい、解りました、以後検討します』みたいに言って、そのまま相手が喋っているのに電話を切ってしまうのだ。再度電話が鳴る事はないから、不思議だ。私もその強いメンタルが欲しい。 「とにかく、待ち合わせ場所が遠いのは仕方ありません。相手は先輩がどこに住んでいるのか知らない訳ですし、下手に家が何処か聞いてホイホイ車で迎えに来るよりも、先輩がお付き合いする男性はそっちの方がいい気がしてきました。いきなり家聞いたりしないから、まあ、遊んでいない普通の人じゃないでしょうか。このテのタイプ、私は無いですけどね」 「ええー。じゃあ、理世ちゃんはどういう感じでお付き合いするの?」  手練れの理世ちゃんが、出会った人と付き合いを決めるのか参考に聞いてみたい! 「私は飲むのが好きですから、先ずは都内のバーで一杯飲む所から始めますね。会ってから言葉遣いや清潔感があるかどうか、どういうエスコートをしてくれるか、身に着けているものはどんなものか、全部チェックします。勿論黙って」 「へええ」 「簡単なメールのやり取りをしたら、お奨めの店を紹介し合うんです。一杯飲みで終わるか、いっぱい(たくさん)飲みになるかは、相手次第ですよ。趣味が良かったり、エッチ目的でなければ、付き合います。因みに今の彼氏は、マッチングで半年くらい続いているんですよ」  マッチングの相手が彼氏に昇格するんだ! うう、婚活アプリ、深い! 私もそうなりたいな。  「全体的な相性はいいですね。お互い飲むのが好きなので、お酒の話とかできて楽しいです。お店巡りとかもしますし」 「へえええー」  やっぱり趣味って大事よね!! ドッグフェアに行っても、I.Nさんとの温度差を感じそうな
last update最終更新日 : 2025-04-18
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第2話・会ってみない? その4
  誕生日会当日。 六月生まれのお誕生日の小倉昌磨君と、羽鳥聖也君を教卓の前に呼び、手作りの王冠を被せた。おめでとう、とお祝いをして、私がピアノを弾き、みんなでハッピーバースデーの歌を歌った。 誕生日会は滞りなく進行し、本日の給食もお誕生日用の特別給食で、みんなでわいわい楽しく頂いた。お誕生日の特別メニューは、『ポテト』や『唐揚げ』や『ハンバーグ』等、特に子供たちに人気のおかずが中心に提供される。 どうしても通常の給食は栄養バランスをメインに考えられているから、味が苦手で残してしまう子もいるけれど、特別メニューは誰も残さない。普段から頭を悩ませ、美味しくて栄養のある給食を作って下さる職員の方々には、感謝しかない。 子供たちの笑顔が見る事が出来て、私は幸せ。 そんな給食の時間を終え、一歳児や二歳児のお昼寝も終わり、通常保育の子供たちは午後二時のお迎えも終わり、大きな事件や子供たちが怪我をする事もなく、何事も無く時間が過ぎた。 しかし事件は、夕方遅くに起こった。 預かり保育の当番だったので退勤時間の午後五時まで、指定の教室で子供たちを見ていると、園に電話がかかって来たのだ。夕方は職員が減るので、電話対応できる人が少なく、長いコール後に取る事も多い。人手が少ないのだ。 職員室に居ないので、随分長いコールが鳴っているな、と思っていたら、さくら幼稚園主任の大林先生が慌てて教室内に入って来た。「清川先生っ、すみませんがお電話対応頂けますかっ。大変です!」「どうされましたか!?」  血相を抱えて飛び込んで来た大林先生に声を掛けた。御年五十歳のベテラン教員の大林先生は、この園の主任を務めていらっしゃる。 彼女が黒いおかっぱの髪を振り乱しながら私に言った。「羽鳥聖也君のお母様からお電話で、清川先生に代われと大変な剣幕で…」「羽鳥さん?」 思わず眉根を寄せ、険しい顔を作ってしまった。また、聖也君のお母さんだ。 彼女からなにを言われるのだろう。心当たりがなにもない。
last update最終更新日 : 2025-04-18
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第2話・会ってみない? その5
 「いかがされましたか?」『いかがされましたか、じゃないわよ! 一体どういうつもりかって聞いてるの!』 こういう人は要件を端的に言ってくれない。どうしたのかと聞けば、そんなこともわからないのか、と喚き散らして罵ってくる。理由も大抵理不尽な事ばかり。今回はなにかな。早くも胃が痛みだした。『私がこうやって電話をかけてきている理由もわからないなんて!』 予想どおりだ。要件を言ってくれないから、なにに対して怒っているのか理解できない。「申しわけございませんが、羽鳥さんが怒っていらっしゃる理由がわからないので、教えていただけませんか?」 『今日持ち帰ってきた王冠よ!』「王冠ですか…」 思わず呟いてしまった事に、彼女はますます逆上する。『まああっ、まだわからないの!? うちの聖也ちゃんに、わざと小さい方を掴ませて! 昌磨君のもらった方が大きかったのよ! 明らかな差別よ!!』 この人はなにを言っているのだろう。王冠は同じ型紙で同じ大きさで作っているのに、見た目だって殆ど同じなのに。「お言葉ですが羽鳥さん、昌磨君だけ大きなものを作ったとか、そんなことはありません。この王冠は私の手作りですが、同じパターンから作りました。私のモットーは子供たちには平等に接する事で、常にそうであるよう心がけています。誤解です」 私は必死に訴えた。羽鳥さんは、どうしてこんな勘違いをしてしまうのだろう。昌磨君の王冠の方が大きいなんて、そんなことはあり得ない。どうしてそう思ってしまわれるのか不思議で仕方ない。 『平等!? ふざけんじゃないわよぉっ!!』  耳をつんざくような金切り声がしたので思わず受話器から耳を少し離した。それでも十分彼女の声は聞こえる。電話口から漏れる大声が職員室に響いた。『いったい、どこをどうしたら平等だなんて偉そうに言えるの!?』「あの、羽鳥さん、手作りの王冠ですから、大きさを変えたりするようなことはありません。どこがおかしかったのでしょうか?」『まだそ
last update最終更新日 : 2025-04-19
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第2話・会ってみない? その6
 へこむ気持ちにふたをして、大林先生と一緒に遊んでいる子を見た。予想どお残っている子は三崎竜(みさきりゅう)君で、私の担任するそら組の子供のひとりだった。 彼のお母さんはいつもお迎えの時間が遅い。午後七時前に迎えがあった事はほとんどない。というのも、ホテルのレストランでお仕事をされているらしく、この時間は食事時で忙しいようで、思うように帰ることができないのだとか。  お迎えが七時半を過ぎる事は日常茶飯事だが、シングルマザーだと聞いているので、あまり強く言えない。 私はクラス担任なので、勤務時間が午前八時から午後五時までと決まっている。預かり保育の子供たちを最後の七時まで持つことは時間的に園が許可できないため、私は最後まで残った事は無い。  なので聞くところによると、お母さんはいつも申し訳なさそうに迎えに来るらしい。こちらも『いつでもいいよ』と言ってあげたいけれど、夜間保育が充実しているわけでもなく、二十四時間体制の保育園でもないのだ。 さくら幼稚園は、あくまでも認定こども園 (※認定こども園とは・・・・内閣府が認可した施設で、保育園は「両親が共働きなどで日中子どもを保育できない時に預かってくれる場所」、幼稚園は「教育の補助等を含め、任意で小学校に入学するまで通う場所」となる。 認定こども園は、幼稚園と保育園が一体になった施設であるため、内閣府が4~11時間の間で保育を認めている。この間で園の定めた時間を保育可能とされている。1号・2号・3号認定の子供が通えて、保育料も収入によって変動する)  であるため、それ以上の保育サポートは体制が整っていない・定められた保育時間を超過してしまうため、手を貸す事が出来ない。  それをしてしまうと、結局私達職員の肩にその負担がのしかかる。現に目の前の大林先生がそうだ。本当ならもう帰宅準備ができる筈なのに、それができない。 幼稚園勤務がブラックだと言われてしまうのは、給料が薄給であり、常に職員が不足している。更に保護者との密な関り・人間関係も様々であり、複雑である。そして勤務時間も長い。土日は休めるが交代制で、運動会や音楽会等が入れば絶対に休めない。それが、ブラックだと言われてしまう所以(ゆえん)であるのは否めない。 幼稚園はブラック企業ではないのに。子供たちを教え、一緒になって成長できるのは、なににも代
last update最終更新日 : 2025-04-19
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