夫が私の命の血を捧げた相手は、彼女だった
甘菜ひとえ
彼はこの町の血液センターの責任者、つまりは血液管理のトップであり、私の夫だった。だというのに、私が事故で大怪我をして運ばれた時、病院には私の血液が用意されていなかった。
すべての血漿を、夫が愛人の手術用にまわした。
必死で彼に電話をかけた。何度も、何度も―二十四回目にして、ようやく電話がつながったかと思ったら、彼が開口一番に浴びせてきたのは冷たい非難だった。
「楓香、ふざけてるのか?どうせまたかまって欲しくて、『事故で輸血が必要だ』なんて嘘をついてるんだろ?
RH陰性の血液がどれだけ貴重かわかってるのか?君がそんなわがままでどうするつもりなんだ!」
そのまま一方的に電話を切られ、何度かけ直しても、彼はもう出てくれなかった。彼は私を拒絶し、ブロックしていたのだ。
「疾斗、違うの。本当に事故に遭って、輸血が必要なの」と、私は伝えたかった。
最後に送ったメッセージで、私はこう伝えた。
「神崎疾斗、あなたに、命を返すわ」
その言葉を送った瞬間、意識は闇に包まれた……
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