「はい。冴木システム開発SS事業部、梶原です。はい……浅野ですね。少々お待ちください」ここは大手家電メーカーSAEKIのグループ企業、冴木システム開発株式会社。主な業務はSAEKIの社内システムの構築や管理だけれど、うちの部は主に中小企業向けのシステムを個々の会社にカスタマイズして提供している。電話を取ったわたしは梶原茉衣(まい)。入社して5年の28歳。この事業部の事務全般に携わっている。「はい、ありがとうございます。では、すぐに手配いたします」浅野くんが電話を置くと同時に、山田課長が声をかけた。「さんざんごねてた社長、とうとう折れたのか」「はい。何度か社長に直接お会いして、説明を重ねて、ご納得いただいたようです」「さすが浅野だな、よくやった」浅野一樹。わたしより3期後輩の25歳。最近、めきめきと頭角を現している営業社員だ。わたしも彼の営業力は相当なものだと、常日頃、感心している。製品に関する知識が豊富で顧客の希望に的確に応えるし、アフターフォローも完璧だし、クレームにも誠心誠意対応して、逆に相手の信頼を勝ち得ている。評判が評判を呼んで、彼を指名してくる新規の顧客もいるぐらい。そして、とびきり美形の彼は、クライアントだけでなく、社内の女子たちの憧れの的だ。「ちっ、顔のいい奴は得だよな」そう言いながら、書類を手にわたしの席にやってきたのは、同期の伊川|宣人(のぶと)。彼も営業だ。
Last Updated : 2025-04-05 Read more