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2・最悪で最低な夜

Penulis: 泉南佳那
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-06 09:46:15

東京に到着したのは土曜日の午後10時ごろ。

列車に乗ったとき、宣人に連絡を入れたけれど、まだ既読はついていない。

この時間だから、もうとっくに食事は終えているだろうと思い、自分も駅で適当に済ませてから、帰宅の途についた。

部屋についたとたん、目に入ってきたのは、見覚えのあるレースをあしらったベビーピンクのパンプスだった。

そして……

寝室のドアの隙間から漏れているのは、光だけではなかった。

女の甘ったるい声も耳に飛び込んできた。

「あ、宣人さん、ねぇ……そんなことしたらだめだって……あァんっ!」

「だめなんて思ってないくせに、ほら……もっと脚、開けよ」

「やん、エッチぃ」

会話だけではなかった……

衣擦れ、肌と肌がぶつかり合う音。荒い息遣い。

そんな、あからさまに淫らな物音も、否応なく耳に入ってくる。

「肌、すべすべで真っ白だな」

「ねえ、梶原さんとどっちが綺麗?」

「そりゃ……留奈だ。手触りが違う」

「あーん、もお、宣人さん大好き」

互いを貪ることに夢中になっている彼らは、玄関ドアが開いたことなど、全く気づいていないらしい。

はじめて覚える感覚に卒倒しそうになりながらも、足音を忍ばせてキッチンに行き、ガスコンロに置きっぱなしになっていたパスタ用の大鍋を水で満たした。

そして、鍋を両手で持ったまま、足で乱暴に寝室のドアを開け、ベッドで絡み合っているふたりの上に一気にぶっかけた。

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