All Chapters of 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~: Chapter 31 - Chapter 40

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8・危機一髪!

 ようやく金曜日になった。気が遠くなるほど長かった1週間が終わる。会社にいる間はとにかく仕事に没頭して、余計なことに惑わされないように心がけた。宣人や留奈とは冷戦状態を保っている。 居心地が悪いのはたしかだけれど、非があるのは向こうだ。 わたしが卑屈になる必要はまったくないと、必死で踏ん張っていた。そして、いまだに浅野くんのところに滞在していた。家探しは難航、というか、まだ、ちゃんと取り掛かれていなかった。毎日、宣人や留奈に神経をすり減らしてへとへとになってしまい、会社帰りに不動産屋巡りをする元気がでなかった。ネットで検索しているけれど、これといった物件は見つかっていない。彼はいつまでいてもかまわない、と言ってくれているけれど、今週末には動かなければ。で、今晩、これまでのお礼の気持ちをこめて、ちょっと豪勢な夕食を作ってごちそうしようと思っていた。昼食調達にコンビニに行った帰り、外回りに出かけるところの浅野くんとばったり会った。「あ、浅野くん、ちょうど良かった」 「なんですか」わたしはきょろきょろと辺りを見回し、誰もいないことを確認してから話しはじめた。「今夜って、なにか予定入ってる?」 「いえ、特には」「夕飯作ってごちそうしたいんだけど。何かリクエストある?」「うーん、そうですね。梶原さんの得意なもんでいいですよ。何を作れるのかわかんないし」 「それもそうだね。じゃ、そのつもりで。でも急な予定が入ったら遠慮なくキャンセルしてね」   
last updateLast Updated : 2025-04-12
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8・危機一髪!

「いえ」と彼はそこで一旦言葉を止めた。それから少しだけ首を傾けて、わたしの耳元に近いところで囁きかけてきた。「キャンセルはありえません。梶原さんとの約束は最優先事項ですから。楽しみにしてますね」「えっ? またまた、そんなこと言って」浅野くんはそれには答えず、笑みだけを残して「じゃ、行ってきます」と立ち去っていった。もう、突然、妙な色気、出さないでほしい。彼のイケメンぶりはだいぶ見慣れてきたとはいえ、耳元で囁かれたりするとやっぱり心臓に悪い。脈拍が急上昇した気がして、わたしは深呼吸して気を落ち着けてから、オフィスに戻った。でも、時間が経っても、さっきのドキドキがずっと尾を引いていて、仕事に集中できなかった。そうだ、こんな時はずっと気にかかっていた資料整理だ。デジタル化以前の数年分の会議資料が未整理のまま、放置されているのが前から気になっていた。机の上にメモを残し、わたしは資料室に向かった。  ほうけた頭でも単純作業には支障がなく、小1時間ほどでファイリングは終了した。片付けを終え、入り口付近にある小さな手洗い場で手を洗っているとドアが開いた。宣人だった。  「のぶ……伊川さん」 わたしが言い直すと、宣人は口の端を歪めた。    
last updateLast Updated : 2025-04-12
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8・危機一髪!

 「伊川さんとは他人行儀だな。茉衣、話がある」「何言ってんの。話すことなんてないでしょう」外に出ようとすると、宣人はドアの前に立って阻んだ。「そこ、どいて」「なあ、いい加減、機嫌直せよ。茉衣の作るメシ、食いたくなった」いまさら、どの口でそんなことが言ってるんだろう。呆れて、言葉も出ない。「この間も言ったでしょう。もう無理。それに彼女は? 岡路さんはどうしたの」「はっ。あいつにまともに飯とか作れるわけないだろう。それに付き合ってるわけじゃない。婚約者がいる。どこぞの御曹司らしい」はあ、お互い遊びだったわけか。まあ、今となってはどっちでもいいけど。わたしは大きくため息をついた。それにしても、復縁できるなんて、本気で思っているんだろうか。あのとき、宣人が浮気の原因はわたしにあると言ったことがどうしても許せない。あれは疑いようもない、宣人の本心だったから。「よりを戻す気なんてまったくないから。ねえ、もう行かなきゃ。そこどいて」「そんな冷たいこと、言うなって」宣人はわたしを壁に追い詰めた。その目が異様な輝きを放っている。ぞっと身震いした。横をすり抜けようとするわたしを壁に押さえつけ、宣人は無理やり唇を奪おうとしてきた。わたしは首を左右に振って、あらんかぎりの抵抗を試みた。
last updateLast Updated : 2025-04-12
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8・危機一髪!

「いや、やめてったら」外に聞こえないように小さな声で抗議する。「出したければ声、出せよ。皆、まだ俺たちが付き合ってると思ってる。痴話喧嘩と思われるだけだろう。茉衣、お前も好きだったじゃないか。人目を盗んで、会社でこういうことするの……」   にやっと口の端を歪めた宣人に強い力で顎を掴まれ、無理矢理、唇を奪われそうになり、さらに手がわたしの胸を弄ろうとしたそのとき……「伊川さん、何をやってるんですか!」浅野くんが宣人の肩をつかんで、わたしから引き離した。 その声には突き刺さるほどの鋭さがあった。宣人はほくそえんだ。 「何って、自分の女といちゃいちゃしてるだけだ。野暮な真似するなよ、浅野」浅野くんは宣人をにらみつけた。 「茉衣さんを手ひどく裏切ったこと、もう忘れたんですか」「なんでそんなこと、知ってんだよ、お前が。茉衣、お前、こいつと何かあるのか」   浅野くんは冷ややかに言った。 「たとえそうでも、あなたにはもう関係ないでしょう」「浅野……てめえ」宣人が浅野くんにつかみかかる。でも彼はその手を取り、逆にひねりあげた。「これ以上、彼女を傷つけるな!」 「痛ッ、この野郎!」どうしよう。騒ぎになる前に止めなきゃ!そのときドアが開き、この場の空気におよそ似つかわしくない、間延びした声が響いた。「あ、いた。伊川、課長が呼んでるよ。至急だって」  正美だった。「浅野、覚えておけよ」宣人はいつものように舌打ちをひとつして、その場を後にした。正美は心配そうな顔を側まで来た。「少ししたら、顔、出してくれって、浅野氏に頼まれたんだよ。平気? 茉衣」「うん……平気」「今日は一緒に帰ろう。わたしがボディガードになってあげるから」「いや、それには及ばない。一緒に帰りますよ、俺が」浅野くんの言葉に、正美は即座に首を振った。「いや、浅野氏。それはまずいよ。あんたの取り巻きまで茉衣の敵に回したら、わたしひとりじゃ、とても、庇いきれない」彼は何か言おうとしたけれど「……わかりました」と言い、先に資料室から出て行った。
last updateLast Updated : 2025-04-12
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9・純然たる下心!?

***正美は駅まで一緒に帰ってくれた。電車に揺られている間、歩きながら交わした会話が脳裏によみがえる。「浅野氏、茉衣が好きなんだと思うよ」「うん」「茉衣のことだから別れてすぐ次っていうのが不誠実だと思うんだろうけど、そんなことないよ」「うん……」 あのときの真剣な眼差しはたしかに彼の気持ちを語っていた。もう気づいていた。彼が言っていた「好きな人」が誰なのかということは。でも、どう考えても、わたしは浅野くんにふさわしくない。 3歳も年上で、それにあのマンションに住めるほどの資産家の息子なのだ、彼は。わたしなんかより、もっとふさわしい人と付き合わないといけない。最寄りで降り、マンションに隣接するスーパーに立ち寄った。とにかく、今は美味しい食事を作ることに専念しよう。ありったけの気持ちを込めて、ごちそうを作らなきゃ。今まで、あんなに良くしてもらったお礼なのだから。 あれこれ悩んだ結果、カルパッチョ用の刺身やステーキ用の牛ヒレ肉、パン、野菜とデザート用の果物、そしてワインを買い込んで、部屋に戻った。一応、イタリアン・ディナーのつもりだ。浅野くんが帰ってきたのは、食事の支度がほぼ済んだころだった。「ただいま」「あ、おかえりなさい」「玄関先までいい匂いがしてましたよ」 「ちょうどできたところだから」テーブルにセッティングされた色とりどりの料理を前に、彼は子供のように目を輝かせた。「すごいな、うまそうだ」 着替えを終えて、席についた浅野くんはいただきますと手を合わせて、まずカルパッチョを口にした。
last updateLast Updated : 2025-04-13
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9・純然たる下心!?

「うん、うまい」「ほんと? 口に合ってよかった」彼はパンを頬張りながら、満足気に頷く。「梶原さんって、料理上手なんですね、見直しました」「そんなたいしたもの、作ってないよ」「いや、本当に美味しいです。この味、このワインによく合うな」わたしは向かいに座る彼に目を向けた。「今日もまた助けられちゃったね」「伊川さんが梶原さんの居場所を人に聞いているのが耳に入って、なんか嫌な予感がして」「ありがとう。助かったよ」「いや、どちらかといえば、川崎さんの功績が大きいんじゃないかな」「そんなこと、ないよ、って言ったら正美に怒られるか」「まあ、今はその話はやめましょう。せっかくの食事が台無しになる」「そうだね」とわたしも頷いた。ワインのせいもあったのか、今日の彼はとても饒舌だった。今、携わっている仕事のこと、趣味のカメラのこと、学生時代のエピソードなど、まるで沈黙を恐れるように言葉をつなげた。わたしはほとんど聞き役で、相槌を打つ係のようだった。言うまでもなく楽しい時間を過ごした。でも、他に言いたいことがあるのに別の話で時間を埋めているような、そんなふわふわした空気が二人の間に始終、漂っていた食べ終えたころには21時を回っていた。 「いや、美味しかった。ごちそうさまでした」「お粗末様でした。喜んでもらえてよかった。このぐらいじゃ恩返しの『お』も返せてないけど」 
last updateLast Updated : 2025-04-13
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9・純然たる下心!?

彼は肩をすくめる。「まだそんなこと、言ってるんですか」「だって、本当に感謝してるから」「言われなくても、ちゃんと伝わってますよ」彼の表情や声にはいたわりが満ちていて、わたしはどうしたらいいかわからなくなってしまう。どうしてそんなに優しいんだろう、浅野くんは。胸が締めつけられて息が詰まってしまう、そんなふうに微笑まれたら。彼は「片づけますね」と立ち上がった。「いいよ、今日はわたしがやるから。向こうで座ってて」というと「じゃあ、ふたりで。その方が早く済むから」と重ねた食器をキッチンに運びはじめた。洗いものが終わり、タオルで手を拭きながら、浅野くんがこっちを見た。「ちょっと飲み足りなくないですか?」 嬉しかった。本音を言えば、これでお開きににして、別々の部屋に戻るのはとても寂しい気がしていた。「うん、明日休みだし、もうちょっと飲もうか」そう返すと、彼は嬉しそうに目を細めた。「じゃあ、向こうで待っててください」浅野くんはそう言って、冷蔵庫のドアに手をかけた。ソファーで待っていると、浅野くんはカクテルを手にやってきた。「うわ、綺麗だね」透明のグラスのなかで、ブルーと黄金色の液体が二層になっている。「すごい。浅野くん、カクテルも作れるんだ」「カクテルとも言えませんけどね。ブルーキュラソーの上にビールを注いだだけですから」グラスをテーブルにおくと、彼は隣に腰を下ろした。そしてグラスの中身をマドラーでかき混ぜ始めた。
last updateLast Updated : 2025-04-13
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9・純然たる下心!?

「二層にわかれているほうが見た目はいいけど、混ぜないとただのビールとキュラソーだから」わたしのグラスに手を伸ばしたとき、一瞬、彼の脚がわたしの脚に触れた。どきりと心臓が跳ね、わたしはさりげなく座りなおした。その素振りに気づいたのか、気づかなかったのかわからない。彼はただ微笑みを浮かべて「どうぞ」とグラスを手渡してくれた。「あらためて乾杯」「あ、飲みやすい」「けっこういけるでしょう」「うん」 カクテルの後、残っていたワインも飲んだ。お酒に強くないのに、少しでも彼と一緒にいる時間を引き延ばしたくて、つい許容量を越していた。アルコールが回ってきて、視界がぼやけてくる。そして酔いにまかせて、彼の端正な横顔を見つめつづけていた。 気づいた浅野くんの視線とわたしの視線が絡まる。「そんな、とろんとした目をして……ガード甘すぎなんだけど」彼は小さくため息をついてから、少し落とした声音で囁いた。 「梶原さん」ただ、名前を呼ばれただけなのに。どうしてこんなに心臓がばくつくんだろう。「なに?」自分の声なのに、遠くで響いているように聞こえる。浅野くんは手にしていたグラスをサイドテーブルに置いた。それからもう一度、さっきより深くため息をついた。 白々しいほど、なごやかだった空気が急激に濃度を増した、気がした。
last updateLast Updated : 2025-04-13
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9・純然たる下心!?

「ずっと……我慢してたんだ、本当は」 そう言って、彼はゆっくりとわたしに手を伸ばしてきた。そして、壊れ物を扱うように、そっと頬に触れた。そのすべてがまるで夢のなかの出来事のようで、わたしはただ、トパーズのように美しく煌めいている彼の瞳を見つめつづけていた。「前に言ったこと覚えてる? 俺に好きな人がいるって」わたしはゆっくり頷いた。 長くしなやかな美しい指がわたしの頬をなぞりだす。それから指に絡めた髪にそっと口づけ、目だけをわたしに向けた。 「はじめて会ったときからずっと好きだった。伊川さんの彼女だって知ってからも、諦められなくて」「浅野……くん」「まだ彼が好き?」わたしはゆっくりと首を横に振った。「もう、彼への想いはかけらも残ってない。自分でも不思議なぐらい」 「茉衣さん」アルコールのせいで、いくぶん上気した顔が近づいてくる。わたしは目を閉じた。 もうとっくに浅野くんが好きになっていた。少し意地悪だけれど、いつでもわたしを優しく包み込んでくれる彼のことが。宣人と別れて、たった1週間しか経っていないから、節操のない女と思われるのが怖くて、気持ちが表せなかっただけで。 それでも、彼の唇が軽く触れたとき、わたしは思わず身をこわばらせて身体をそらし、言った。「だめ」と。
last updateLast Updated : 2025-04-13
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9・純然たる下心!?

ゆっくり目を開けると、浅野くんが切なげに眉を寄せていた。「俺じゃだめ?」わたしは大きく首を振った。「そうじゃない。本当にわたしなんかでいいの? あなたにまったくふさわしくないのに。3歳も年上だし。浅はかだし。打算で宣人と付き合ってた。あの人の彼女だという優越感を捨てられなくて、それにしがみついて……」 彼は指を立て、わたしの唇に触れた。「もう、何も言わなくていい」手がわたしの肩を優しく引き寄せる。「愛してる」「浅野……くん」その言葉ごと飲み込むように、彼は唇を重ねてきた。軽いキスを何度も繰り返しているうちに、わたしの身体から力が抜けていった。「ずっと欲しかった、あなたが」そう囁き、また口づけを交わす。もっとずっと深いキスを。唇を合わせながら、彼の部屋に導かれる。カットソーをたくし上げて首から抜かれ、スカートのファスナーも下ろされて足元にすべり落ちてゆく。「好きだ、茉衣さん」「浅野……くん」「ねえ、一樹って呼んで」「か……ずき」 彼は満足そうに微笑み、キスをする。そのまま胸のふくらみに手を這わせ、揉みしだく。「あ……ん」首筋を唇が這いはじめると、わたしは身体をびくつかせて、言葉とも吐息ともつかないものを、唇からこぼしてしまう。 
last updateLast Updated : 2025-04-14
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