All Chapters of 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~: Chapter 21 - Chapter 30

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6・翌日のオフィスで

そして、その翌日の月曜日。いきなり、宣人や留奈と鉢合わせになるのは避けたかったので、わたしは定時よりかなり早く出社した。さすがに始業1時間以上前のオフィスはがらんとしている。 わたしは深呼吸をひとつして、掃除をするため、給湯室に向かった。定時を過ぎても、宣人は来なかった。 風邪をひいたらしい。あの水浴びが原因だったりして。一方、留奈は定時5分すぎに、悪びれない様子で出社してきた。この子のメンタル、鋼(はがね)でできてるのだろうか。 当たり前か。同じ部署内なのに、恋人を寝取るような子だし。   顔を見たら取り乱すかと思ったけれど、意外にも冷静でいられた。「梶原さん、おはようございまーす」 「おはよう」硬い声で応じるわたしに、彼女は囁き声でアピールしてくる。「宣人さん、熱出ちゃったみたい。真冬に水浴びしたからかな?」   つかみかかりたくなる衝動に頭がかっと熱くなる。でも、ここで騒ぎを起こしたら、みじめになるのはわたしのほう。 わかって挑発してるのだろう。その手には乗らない。なんとか衝動を抑えこもうと、わたしは手のひらを握りしめた。留奈はまだは自席に戻らない。「何? まだ何か用があるわけ」 不機嫌さがあらわになっていく。「宣人さん、言ってましたよ。留奈のおかげで常務と繋がりが出来て、これで出世間違いなしで嬉しいって」暗に自分のほうが宣人にとって役に立つ女だと言いたいらしい。さすがに切れて、声を荒げそうになったとき……
last updateLast Updated : 2025-04-10
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6・翌日のオフィスで

「梶原さん」と後ろから声がかかった。「おはようございます。あの、ちょっと資料作成をお願いしたいんですが」浅野くんだった。「あ、浅野さん。おはようございますっ」と留奈が突如態度を変えて、キラキラの必殺スマイルで挨拶するも、浅野くんはそっけなく「おはよう」とただ一言。若手のなかで、彼女の笑顔に反応しないのは彼ぐらいだ。 すげなくあしらわれて目を吊り上げている彼女には気を留めず、彼はわたしに言った。「悪いけど俺の席まで来てもらえますか。内容を説明しますんで」 「わかった、今行くね」席に向かう途中で、浅野くんは小声で囁いた。 「大丈夫?」やっぱり助けに来てくれたのか。「ありがとう」 わたしも小さな声で答えた。   ***   その昼休み。社食でうどんを食べながら、わたしは正美に、宣人に浮気されたことを打ち明けた。ただ相手が留奈であることは伏せた。 正義感の塊である正美に話したら、とんでもない騒ぎになるのは必至なので。「サイッテ―!」あのときのわたしのニ割増しの勢いで、正美もそう言い捨てた。「いやもう、ものすごく落ち込んだ。わたし、どれだけ男を見る目がなかったのかって」日替わりのカツ丼を頬張りながら、正美は言った。「茉衣、宣人にさんざん尽くしてきたのにね。けっこう振り回されてたし」そして、湯呑のお茶をあおってから、彼女は急に真顔になった。 
last updateLast Updated : 2025-04-10
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6・翌日のオフィスで

「本当はさ、あいつはやめた方がいいって、何度も言いかけたことがあったんだ。茉衣と付き合う前、女癖が悪いってさんざん耳にしていたし」「……そうだったんだ」「でも、茉衣、いつも幸せそうだったから。宣人も本命が見つかって改心したのかと思ってた。でも変わってなかったんだね。ごめん、ちゃんと言えばよかった」 「ううん、正美に忠告されてもそのときのわたしは否定したと思うよ。でも、もう無理」 「じゃあ、もう別れる決心してるんだ」 「うん」 「ま、そのほうがいいと思うよ。で、土日はどこに泊まったの? ホテル?」 あー、そりゃ聞かれるよね。  どうしよう。「何、その顔? なんかあるの? 教えてよ」好奇心に目を輝かせてる正美の圧に負けて、わたしは簡単にあの夜のことを話した。「実はね……家を飛び出したあと、偶然、浅野くんに会って……」わたしが彼の家に泊めてもらっていることを白状すると正美は「えーっ」と大音量で叫んだ。「ちょ、ちょっと正美」 「いや、だって、驚くよ、そりゃ」 「だけど、みんなにそんなことバレたら、わたし、殺されかねないでしょう」わたしの言葉に彼女は大きく頷いた。「たしかに。でも良かったじゃん、浅野氏に会えて。じゃなかったら、茉衣、野垂れ死にしてたかも」   「さすがに野垂れ死にはしないよ。でもほんと、彼が神様に見えたよ、あのとき」 「感謝しなきゃね」 「うん、とりあえず、食事、ごちそうする約束はしてる」正美はにやけた顔をこっちに向けてきた。
last updateLast Updated : 2025-04-10
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6・翌日のオフィスで

 「何? なんでそんなににやけてんの?」「いや、浅野氏、ずいぶん親切だなと思って。そのままお付き合いもありじゃない? うん、あの子なら問題ないよ。顔だけじゃなくて性格マジいいし」「やめてよ。彼、3歳も年下だよ」 「よけいにいいじゃん、年下彼氏」 「もう、振られたばっかの女にそんなこと言う? 普通」 「恋に傷ついたときは新たな恋で癒す。これ常識でしょ」ったく、ああ言えばこう言うんだから。いやいや、無理だって。 あんな異次元イケメンを彼氏にしようなんて、一瞬思っただけでもバチが当たる。「あっちが願い下げでしょう。30歳目前のアラサーなんて」「そんなこと、ないと思うけどな。茉衣に憧れてるやつ、結構いるよ、実際」と変わらぬにやけ顔でうんうんと頷いている。「浅野氏を堕として、宣人を見返してやりなよ。あんたに失恋したぐらい、なんでもないんだからって」もう、正美。他人事だと思って、好き勝手言って。「冗談はさておき」とわたしはむりやり話題を変えた。「いや、かなり本気なんだけど」 「混ぜっ返さないで。あのさ。今日、時間ある?」「あるよ。何?」「悪いんだけど……部屋に行くの、ついてきてくれないかな」 「部屋って、宣人のところ?」「うん。当座の着替えとか取りに行かないと。やっぱ、一人だと行きづらいっていうか……」正美はポンと自分の胸を拳でたたいた。「行くに決まってるでしょ。わたしが茉衣の頼み、断ったことあった?」 「そうだね、ありがとう」わたしは彼女に手を合わせた。
last updateLast Updated : 2025-04-10
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7・心ひしゃげて

会社が引けてから宣人のマンションまで正美に一緒に来てもらった。 地下鉄の出口を出ると、見慣れた通りがまるで違う場所のように感じられた。マンションに近づくにつれて、足取りが重くなってくる。正美がいてくれなかったら、この辺で回れ右していたかもしれない。ドアを開けたとき、女性の靴がなかったので、ひとまず安心した。「わたし、ここで待ってるよ」そう言うと、正美はキッとまなじりを上げて、敬礼のまねをした。「もしヤバそうだったら、すぐ突入するから」心強い正美の言葉に感謝しつつ、わたしは言った。「うん、行ってくる」わたしは意を決して「宣人、いるの」と声をかけながらリビングに入った。彼はソファーにだらしなく寝そべって、テレビを見ていた。「茉衣か」わたしを見ずに、宣人は言った。お笑い芸人の明るい声がやけにむなしく聞こえる。「当座の荷物、取りにきただけ。大きいものは引っ越し先が決まってから連絡するから、もう少し置いておいて」「出ていくのか」「決まってるでしょう」わたしは宣人の横顔をにらみつけた。「あんなことされて、もう一緒になんか暮らせない。本当なら二度と顔も見たくなかった」彼はようやくこっちを見た。その目に浮かんでいたのは、反省ではなく憤りだった。
last updateLast Updated : 2025-04-11
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7・心ひしゃげて

「あんなことって、それはこっちのセリフだ。ベッド水浸しにされて、あのあと、どれだけ大変だったか」「自業自得じゃない」冷たく言い放つわたしの顔を見て、宣人はチッと舌打ちした。「お前って、本当に可愛げないよな。俺、お前のそういうところが耐えられなくなってきてたんだよ」わたしは目を丸くした。何を言っているんだろう、宣人は。「えっ、どういうこと。わたしが悪いって言いたいの?」「ああ、いつも、ああしろ、こうしろって上から物言ってくるし。男を立てるってこと、学んでこなかったんだな、まったく。だから、こっちもつい他の女に手を出したくなるんじゃねえか」わたしが口を開く前にバンと、ドアが開き、正美が血相を変えて乱入してきた。「ちょっと、伊川! その言いぐさ、あんまりじゃない!」宣人はまた舌打ちした。「川崎か。お前は関係ねえだろう」「そう思ってたから、顔出さないようにしてたけど、もう無理。親友にあんなひどいこと言われたら黙っていられないって」2対1で不利だと思ったらしい。宣人は枕を抱えて、背を向けた。「ったく、どいつもこいつも。こっちが熱出して唸ってるときに。早く出て行けよ」「言われなくても、用事が済めば出ていくよ! ほら、茉衣、早くしよう」 
last updateLast Updated : 2025-04-11
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7・心ひしゃげて

それからわたしが使っていた部屋に行き、持てるだけの荷物を持ってマンションを後にした。「本当に見損なった。あそこまでのクズだとは」と正美はまだ憤慨している。宣人のことだから、素直に謝らないだろうとは思っていた。でも、彼はわたしに浮気の原因があると、そう言ったのだ。身体からすべての力が抜けてゆくような気がした。あんな男と1年近くも付き合っていたかと思うと、本当に自分が情けなくなった。心の隅にほんのわずか残っていた、宣人への未練が、きれいさっぱり消えてゆくのを感じていた。「別れることになって、ほんと正解だったよ」正美に言われ、わたしはただ頷きかえした。***正美は一緒に大崎まで来てくれた。ただ、居候の身なので、部屋に上がってもらうわけにもいかず、マンションの前で別れた。「今日はありがとう。今度なんか、おごるね」「何、水くさいこと言ってんの。このぐらい、お安いご用だって」屈託のない笑顔を残して、正美は帰っていった。浅野くんはまだ帰っていなかった。ああ、そういえば、今日は接待で遅くなるって言っていた。光も音もない部屋は、いつもよりさらに広く感じられた。ひとりきりだと、確かに寂しい。浅野くんの言葉が今はひしひしと身に染みる。 
last updateLast Updated : 2025-04-11
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7・心ひしゃげて

とりあえず、荷物から明日必要な服を出し、カップめんを食べ、ぼんやりとした頭のままで、シャワーを浴びて、洗顔した。やるべきことを終えてしまうと、宣人のことが、嫌でも頭にのぼってくる。わたしはなんで宣人と付き合ってきたんだろう。宣人ははじめての彼だった。告白されたときは天にも昇る心地だった。でも、付き合いが深まるにつれて、負の面が見えだした。思いやりに欠ける言動とか身勝手なセックスとか……それでも別れなかったのは、部内で一番仕事ができる男が彼氏だという優越感や、結婚するまでつかまえておきたいという打算があった気がする。そんなわたしの愚かさも、今回のようなことを招いた一因かもしれない。 浅野くん、早く帰ってこないかな。無性に彼と話がしたかった。彼の優しさにつけこんで甘えていることは自覚していたけれど、今日だけは許してほしかった。それぐらい、心がぺしゃんこにひしゃげていた。 わたしはソファーに座り、見るともなしにニュース番組をつけた。しばらくして急激に睡魔に襲われ、そのまま眠りこけてしまった。頭を撫でられている気がして、目を覚ました。お母さん?ゆっくり目を開けると、そこにいたのはスーツ姿の浅野くんだった。 「あ、おかえり」夢だったんだな、やっぱり。彼がわたしの頭なんて撫でるわけないし。 
last updateLast Updated : 2025-04-11
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7・心ひしゃげて

「こんなところで寝たら、風邪ひきますよ。先に寝ていてよかったのに」「でも……浅野くん『おかえり』って言ってほしいって」「それで……待っていてくれたんですか?」こくんと頷くと、彼はちょっと困った顔になった。「待ってないほうが良かった?」「そんなわけないじゃないですか」寒さのせいか、彼の頬は赤くなっている。「ほら、ほんとにもう寝ましょう。明日、会社あるんだし」「ほんとだ。じゃあ、明日ね」「はい、おやすみなさい」リビングから出る直前、彼はなにかぽそりと呟いたけれど、よく聞き取れなかった。聞き返そうとしたら、彼はもう背を向けて、自分の部屋に入っていった。 (一樹サイド)週明けだというのに、取引先の社長がなかなか離してくれず、家に帰りついたのは午前1時すぎだった。ドアを開けると、テレビの音がしていた。梶原さん、まだ起きてたのか。リビングに向かうと彼女はカウチソファーの上で丸まって眠っていた。こんなところで寝たら、風邪ひくのに。その寝姿がまるで幼子のようにたよりなくて、俺は思わず彼女の髪を撫でていた。「うん……」とかすかな声を上げ、彼女はゆっくり目を開けた。まだ夢のなかにいるような顔で俺を見ている。「あ、おかえり」「こんなところで寝たら、風邪ひきますよ。先に寝ていてよかったのに」
last updateLast Updated : 2025-04-11
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7・心ひしゃげて

「でも……浅野くん、「おかえり」って言ってもらいたいって」「それで……待っていてくれたんですか?」俺が適当に言ったことを真に受けて……本当に、この人は。まずい。抱きしめてしまいたくなるほど、彼女を愛しく思う気持ちがこみあげてくる。そう、俺はずっとこの人に恋してきた。配属された日、微笑みかけてくれた、あのときから。仕事に慣れず戸惑う俺を、一番親身になって助けてくれたのは彼女だった。美しい人なのにそれをまったく鼻にかけず、異性からも同性からも信頼されている彼女に、俺はどんどん惹かれていった。伊川さんと付き合っていると知ったときはショックで眠れなかった。それでも諦められなかった。あの夜、橋の上で彼女を家に誘ったとき、誓って下心はなかった。冷え切って震えている彼女を一刻も早く温かい場所に連れていってあげたい。本当にそのことしか頭になかった。とはいえ、こうして身近に接したら、想いは嫌でも募る。ゲームで自分の気持ちをごまかすのも、そろそろ限界。すっかり生殺し状態だ。手ひどい失恋を経験したばかりの彼女に身勝手に気持ちをぶつけたりしたら、さらに悩ませてしまうことになる。そう思って、必死で自分を抑えている。でも……「こんな無防備で可愛い寝姿なんて見せられたら、いつまで耐えられるか、自信ないよ」心の中で、そうひとりごちた。 
last updateLast Updated : 2025-04-11
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