「あの……抱きしめてもいいですか。今それしか、梶原さんを慰める方法が思いつかない」 答える前に彼はわたしを引き寄せた。コートを隔てていても彼の体温が伝わり、わたしを優しく包み込む。「あ……さの……くん」 彼はわたしの頭に手をおいて、優しく撫でてくれる。「ひどい目に合いましたね。かわいそうに」心地よすぎて、また涙が溢れ出す。 まずい……涙と一緒に鼻も出る。 「コート、汚しちゃう」鼻をすすりながら、わたしは言った。「そんなの、どうでもいいですよ。梶原さん、行くところがなくて困ってるんですよね。じゃあ俺の家に来ます?」「えっ?」驚いたわたしは、思わず彼を見上げていた。 彼は腕をほどき、身体を離した。 「下心はないですよ。この状況につけこもうなんて、まったく思ってない」 わたしは即座に答えた。 「ううん、それはぜんぜん心配してないけど」その言葉に彼は苦笑を漏らす。 「そこまではっきり肯定されるのも、男としてはどうなんだろうと思いますけどね」「違うよ。そういう意味じゃなくて、浅野くんはモテるから、わたしみたいなアラサーは範疇外だろうと思っただけで」 彼は肩をすくめた。 「まあ、遠慮せずにシェルターだと思ってくれればいいですよ」
Terakhir Diperbarui : 2025-04-06 Baca selengkapnya