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4・至れり尽くせり

작가: 泉南佳那
last update 최신 업데이트: 2025-04-08 09:10:54

あ、からかわれたのか。もう。

「よかった。少しだけど顔色、戻りましたね。さっきは真っ青で倒れるんじゃないかって心配になったけど」

「も、もう、年上をからかわないでよ」

彼は何も言わず、微笑んでわたしの額を指先でつんとつついた。

つ、つん? つんって……

「今の梶原さん、可愛すぎるんです。会社にいるときとまるで違うから反応が面白くて、つい」

「何、それ。そっちこそ、会社にいる時とぜんぜん違うじゃない。すぐからかってくるし」

「そう。実は腹黒なんですよ、俺。さ、本当に遅くなるから」

そう言って、まず洗面所、そしてゲストルームに案内してくれた。

ベッドとサイドテーブルだけの、シンプルな部屋だった。

「そうだ。明日の予定とかありますか?」

「ないない。その先だってどうなるかわからないんだし」

「そうでしたね。じゃあ、お休みなさい」

「うん、お休み」

洗面を終え、部屋に入り、ベッドに腰をおろす。

浅野くんとのやり取りで、ほんの少しショックが遠のいていたけれど、こうして一人になると数時間前の記憶がまざまざと脳裏に蘇ってくる。

よりによって、同じ部の留奈を家に連れ込むなんて。

誘惑したのはたぶん彼女だろうけど、もう完全にアウト。

あそこはわたしの家でもある。そこであんなことされたら、もう宣人のことは一切、信用できない。

正直、会社にも行きたくない。

でも、今の会社をやめるつもりはない、というか、やめることなんてできない。

失業した娘を養えるほど、うちは裕福じゃないから。
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    최신 업데이트 : 2025-04-08
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    최신 업데이트 : 2025-04-08
  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   5・ル、ルームシェアって?

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    최신 업데이트 : 2025-04-09
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    浅野くんはなんでもないことのように、あの、良ければなんですけれど、と前置きしてから言った。「梶原さん、良かったらここに住みませんか」「えっ?」思わずお茶を吹きそうになった。「な、何言ってんの、浅野くん」慌てるわたしとは対照的に、彼は涼しい顔をしている。「何って。ここ、部屋余ってるし。敷金も礼金どころか、家賃もかからないですよ。まあ光熱費と管理費の一部ぐらいはいただくにしても」「いや、そういう問題じゃないでしょう」「そうかな。俺は別に問題ないと思うけど。前から誰かとシェアしたいなって思ってたんですよ。一人で住むには広すぎるんですよね、ここ。それに帰ってきたとき、お帰りって言ってくれる人がいたらといいかなと思って」おかえりって言ってほしいって。極度の寂しがりやなのかな、浅野くんって。彼の真意を測りかねて、わたしはじっと見つめる。「それはまあわかるけど、なんでわたし?」浅野くんはしれっと言う。「だって利害が一致してるでしょう」「それはそうだけど。他に一緒に住む人いないの? 彼女は?」「彼女、いないんで」「まさか!」わたしは思わず叫んだ。ありえない。会社一のモテ男に彼女がいないなんて。「信じられない。浅野くん、モテモテなのに」「モテてなんていないですよ」

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    최신 업데이트 : 2025-04-09
  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   6・翌日のオフィスで

    そして、その翌日の月曜日。いきなり、宣人や留奈と鉢合わせになるのは避けたかったので、わたしは定時よりかなり早く出社した。さすがに始業1時間以上前のオフィスはがらんとしている。 わたしは深呼吸をひとつして、掃除をするため、給湯室に向かった。定時を過ぎても、宣人は来なかった。 風邪をひいたらしい。あの水浴びが原因だったりして。一方、留奈は定時5分すぎに、悪びれない様子で出社してきた。この子のメンタル、鋼(はがね)でできてるのだろうか。 当たり前か。同じ部署内なのに、恋人を寝取るような子だし。   顔を見たら取り乱すかと思ったけれど、意外にも冷静でいられた。「梶原さん、おはようございまーす」 「おはよう」硬い声で応じるわたしに、彼女は囁き声でアピールしてくる。「宣人さん、熱出ちゃったみたい。真冬に水浴びしたからかな?」   つかみかかりたくなる衝動に頭がかっと熱くなる。でも、ここで騒ぎを起こしたら、みじめになるのはわたしのほう。 わかって挑発してるのだろう。その手には乗らない。なんとか衝動を抑えこもうと、わたしは手のひらを握りしめた。留奈はまだは自席に戻らない。「何? まだ何か用があるわけ」 不機嫌さがあらわになっていく。「宣人さん、言ってましたよ。留奈のおかげで常務と繋がりが出来て、これで出世間違いなしで嬉しいって」暗に自分のほうが宣人にとって役に立つ女だと言いたいらしい。さすがに切れて、声を荒げそうになったとき……

    최신 업데이트 : 2025-04-10
  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   6・翌日のオフィスで

    「梶原さん」と後ろから声がかかった。「おはようございます。あの、ちょっと資料作成をお願いしたいんですが」浅野くんだった。「あ、浅野さん。おはようございますっ」と留奈が突如態度を変えて、キラキラの必殺スマイルで挨拶するも、浅野くんはそっけなく「おはよう」とただ一言。若手のなかで、彼女の笑顔に反応しないのは彼ぐらいだ。 すげなくあしらわれて目を吊り上げている彼女には気を留めず、彼はわたしに言った。「悪いけど俺の席まで来てもらえますか。内容を説明しますんで」 「わかった、今行くね」席に向かう途中で、浅野くんは小声で囁いた。 「大丈夫?」やっぱり助けに来てくれたのか。「ありがとう」 わたしも小さな声で答えた。   ***   その昼休み。社食でうどんを食べながら、わたしは正美に、宣人に浮気されたことを打ち明けた。ただ相手が留奈であることは伏せた。 正義感の塊である正美に話したら、とんでもない騒ぎになるのは必至なので。「サイッテ―!」あのときのわたしのニ割増しの勢いで、正美もそう言い捨てた。「いやもう、ものすごく落ち込んだ。わたし、どれだけ男を見る目がなかったのかって」日替わりのカツ丼を頬張りながら、正美は言った。「茉衣、宣人にさんざん尽くしてきたのにね。けっこう振り回されてたし」そして、湯呑のお茶をあおってから、彼女は急に真顔になった。 

    최신 업데이트 : 2025-04-10
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    「本当はさ、あいつはやめた方がいいって、何度も言いかけたことがあったんだ。茉衣と付き合う前、女癖が悪いってさんざん耳にしていたし」「……そうだったんだ」「でも、茉衣、いつも幸せそうだったから。宣人も本命が見つかって改心したのかと思ってた。でも変わってなかったんだね。ごめん、ちゃんと言えばよかった」 「ううん、正美に忠告されてもそのときのわたしは否定したと思うよ。でも、もう無理」 「じゃあ、もう別れる決心してるんだ」 「うん」 「ま、そのほうがいいと思うよ。で、土日はどこに泊まったの? ホテル?」 あー、そりゃ聞かれるよね。  どうしよう。「何、その顔? なんかあるの? 教えてよ」好奇心に目を輝かせてる正美の圧に負けて、わたしは簡単にあの夜のことを話した。「実はね……家を飛び出したあと、偶然、浅野くんに会って……」わたしが彼の家に泊めてもらっていることを白状すると正美は「えーっ」と大音量で叫んだ。「ちょ、ちょっと正美」 「いや、だって、驚くよ、そりゃ」 「だけど、みんなにそんなことバレたら、わたし、殺されかねないでしょう」わたしの言葉に彼女は大きく頷いた。「たしかに。でも良かったじゃん、浅野氏に会えて。じゃなかったら、茉衣、野垂れ死にしてたかも」   「さすがに野垂れ死にはしないよ。でもほんと、彼が神様に見えたよ、あのとき」 「感謝しなきゃね」 「うん、とりあえず、食事、ごちそうする約束はしてる」正美はにやけた顔をこっちに向けてきた。

    최신 업데이트 : 2025-04-10

최신 챕터

  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   11・エピローグ

    そして……わたしの母は一樹の紹介で、皇室方や政治家なども利用する、日本有数の大病院へ転院することができた。「冴木の祖母も心臓が悪くてね。そのとき、お世話になった先生。心臓病のスペシャリストだよ」数時間に及ぶ手術も成功し、今、母は退院して、父とともに、わたしたちと同じマンションで暮らしている。それからさらに1年後の6月。わたしたちは東京で挙式を終え、ハネムーンでオーストラリアに来ていた。 「茉衣、こっち向いて」夕暮れの海岸で、一樹はカメラを構えている。思えば、ふたりを結びつけてくれたのはカメラだった。 あの夜、一樹が永代橋に写真を撮りに来なければ、今、わたしたちはこうしていなかったかも知れないと思うと、とても不思議な気持ちになる。その場でしばらく待っていたけれど、結局一樹はシャッターを押さず、わたしの方に駆け寄ってきた。 「どうしたの?」「やっぱり撮るのやめた」「どうして?」 一樹は笑みを浮かべて、わたしを抱き寄せた。「こんなに綺麗な茉衣を見るのは俺だけでいい。他の誰にも見せたくない」「一樹……」斜めに傾けた一樹の顔が近づき、わたしは目を閉じる。重なり合った唇から、一樹が好きだと思う気持ちが溢れ出す。「好き」耳元でそう囁くと、手が頭の後ろに回ってきて、彼はより一層甘く激しくわたしの唇を喰んだ。 辺りが暗くなってゆく。夕日はもう水平線の彼方に消えたのだろう。それでもわたしたちは、まだ寄り添って海を眺めていた。 「まるでこの世に二人きりしかいないみたい」寄せては返す波音がまるでわたしたちを祝福してくれているようで……「茉衣、好きだよ」そして、そう囁く一樹の言葉が波音とともに、わたしを覆い尽くし、わたしのすべてを……満たした。 (了)   

  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   11・エピローグ

    「俺、兄に頼まれていたんですよ。婚約者である岡路さんの会社での様子を教えてくれって。なので、あなたのこれまでの行状、兄にくわしく報告しておきましたので。近いうちに正式に連絡がいくと思いますよ」留奈はへなへなとその場に座り込んだ。「そんなぁ……せっかくお父様がセッティングしてくれた、最高の玉の輿だったのに」  留奈にちやほやしていた男性社員たちも、さすがに呆れたらしく、全員一斉に、留奈に冷ややかな視線を向けた。一樹は改めてわたしに向き直ると、もう一度抱きしめてきた。「ねえ一樹、もう離して」ともがくわたしを逃さないように腕に力をこめ、耳元でしれっと囁く。 「だって、こうするしか茉衣を慰める手立てが思いつかないからさ」と。見えてはいないけれど、きっと、ちょっと悪い微笑みを浮かべているに違いない。これからも、こうして翻弄されつづけるんだろうな、この年下の恋人に。わたしも彼の腕のなかで笑みをこぼした。  ***それから……宣人は主任昇格を取り消され、さらに1カ月の停職と減俸処分を受けたけれど、会社は辞めさせられずに一樹と同じチームで仕事を続けている。解雇して、結果、ライバル社に行かれでもしたら余計にまずいことになる、と上層部が考えた結果らしい。一介の平社員に逆戻りしたプライドの高い宣人を、一樹は実にうまく使っており、社内での彼の評価は上がる一方だ。   一方、留奈はみんなの前で婚約解消を暴露された翌日から、会社に来なくなった。常務から部長に「娘は辞める」と一言あったらしい。 留奈にとって、ちやほやされない職場には用がないということだろう。   突然の辞職だったけれど、重要な仕事を任せられていなかったので、いなくても、業務上まったく支障はなかった。冴木の御曹司との破談は、ネットニュースでも面白おかしく取り上げられたので、おそらく、もう彼女が望む“玉の輿”は不可能だろう。まあそれは、わたしのあずかり知らぬことだけれど。

  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   10・伊川のたくらみ

    「えっ、何? どういうこと?」ずっと固唾を飲んで、二人のやりとりを見守っていた浅野推しの子たちがにわかに騒ぎだす。そんな騒ぎには素知らぬ顔をして、一樹はわたしのそばに歩み寄ってきた。「茉衣、大丈夫? 倒れそうな顔してるけど」わたしは頷きを返した。「あまりにも驚きすぎて、もう脳がパンク状態だよ。だって浅野家って……」「黙っててごめん。でも、茉衣には浅野家のフィルターを通して俺を見て欲しくなかったんだ」一樹の言葉が途中からくぐもって聞こえた。視界も遮られている。なぜかといえば、わたしは一樹に抱きしめられていたから。しかも「よしよし」と頭を撫でられながら。 えっとー。み、みんなの前なんだけど。「か、かずき……ち、ちょっと、だめだよ」そう抗議しても、一樹は一向にわたしを離す気配がない。 ようやくショックから立ち直ったのか、一樹推し女子たちの悲鳴が上がった。「えー、なんで、そんなことになってるんですか? 梶原さんは伊川さんの彼女だったじゃない!」 そして、そのそばにいた留奈はさらに大声を上げた。 「もう、どうしていい男はみんな梶原さんが持ってっちゃうのよ。わたしのほうが若いし、ぜーったい可愛いのに」伊川さんだって、わたしの方が可愛いよって言ってくれてたのに、と歯噛みして悔しがっている。一樹は一瞬、わたしを離すと、留奈に冷たい一瞥をくれ、それから言った。「岡路さん。SAEKIの専務の兄から伝言。『婚約はなかったことにしてほしい』って」「えっ?」留奈はきょとんとした顔で一樹を見上げた。 

  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   10・伊川のたくらみ

    一樹は正美を見て、ちょっと困った顔で頭をかいた。「えーと、そうです。はい。でも、それを知られるとさらにやりにくいっていうか」と一樹は少し困った声で答えた。でもすぐに、きっぱりと言いそえた。「誰の子どもであろうと、俺は俺なので。今までと変わらずに接していただけるとありがたいです」総合商社の浅野商事は日本で五指に入る大企業だ。驚きすぎたからか、わたしはめまいがして、その場に座り込みそうになった。たしかに、あのタワマンを所有している時点で相当の資産家とは思ったけれど。でもまさか、浅野商事の御曹司だなんて。正美が肘でつついてきた。「知ってたの?」と口が動いている。「知る訳ないでしょう。寝耳に水」とわたしは小声で答えた。そのとき、オフィスのドアが開き、宣人が入ってきた。「おい」とか「あ」とか声にならない声がそこここであがり、それからしんと静まった。 憮然とした顔で自席に着いた宣人のもとに、一樹が歩み寄った。「伊川さん」宣人は横目で一樹を見て、自嘲気味に笑う。「お前、どうせ、いい気味だと思ってるんだろうな。ご丁寧にあざ笑いにきたのか」「ああ、大馬鹿ですよ、あなたは」 一樹はチッと舌打ちする宣人の肩をつかんだ。そして椅子を回転させ、自分の方に向けると宣人を真正面から見据えた。 「もう、いいかげん、その狭い了見、捨ててくれませんか。男の沽券とかプライドとか、そんなのどうでもいいじゃないですか。俺は入社以来ずっと、あなたの背中を追いかけてきた。今もそれは変わりません。今回のプロジェクトだって、あなたなしでは成り立たない。お願いします。俺と一緒にプロジェクトを成功させてください」それだけ言うと、一樹は深く頭を下げた。一樹の言葉に、宣人は苦い表情を浮かべた。そこにいた誰もが、ふたりの器の違いを、そしてどっちがリーダーにふさわしいか痛感した。 さすがの宣人も一言も言い返せなかった。完敗だった。 「頭、上げろよ」 宣人はそう一言だけ残し、そのまま戸口に向かった。 一樹はその背中に声をかけた。「でも、梶原さんは絶対渡しませんから」 宣人は一樹に顔だけ向け、苦笑交じりに言った。「お前なぁ、その一言、余計」  

  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   10・伊川のたくらみ

    「その件について話すから、みんなちょっと集まってくれるか」と、後から一足遅れて戻ってきた部長が全員に声をかけてきた。「外部に情報を持ち出そうとしたのは伊川だ。未遂に終わったから実害はなかったが」 部長の話はこうだった。一樹のめざましい台頭に、部内トップの座が危ないと考えた宣人は、新製品情報を手土産にライバル社への転職を画策していた。だが、この夏頃、セキュリティを強化していたこともあり、データは得られず、さらに不正アクセスを試みたことがバレそうになった。そんな折、宣人が懸念した通り、一樹が自分を追い越してリーダーに抜擢された。そこで宣人は一樹に不正の濡れ衣を着せ、自己の保身と彼の追い落としの一石二鳥を狙った、というのが事の顛末だった。あまりにもお粗末かつ身勝手すぎる宣人のやり口に、そこら中でため息がもれた。「でも伊川さん、なんで、そんなこと、したんだろう」と女子の一人が言う。「そういえば最近、イラついていたな。会社が自分の実力を認めないってよく愚痴ってた。本当は浅野の台頭に怯えていたんだろうけど。一番じゃなきゃ気が済まない人だから」と同期の島田がまことしやかに口にした。「しかし、伊川もバカなことをしたな。絶対に不正を行うはずのない浅野にぬれぎぬを着せるとは」 部長の言葉に、みんな首を傾げた。「どういうことですか?」「浅野はSAEKI本社の社長のご子息だ。私もさっき知ったばかりだが。だから、うちの会社の不利益になることをするわけがないだろう」「えー、そうだったんだ」と驚きの声が上がった。「冴木社長の意向でこれまでそのことは伏せてきたそうだ。特別扱いされないようにと。ああ、言っておくが今回の昇進は純粋に浅野の実力が認められた結果だぞ。私が査定したんだから間違いない」「でも、なんで苗字が浅野なんだ?」と誰かが疑問を口にした。すると、部長の横に立っていた一樹が口を開いた。「冴木の実子ですが、俺は父方の伯父の養子で。すみません、結果として皆さんを騙すような形になってしまって」「え、って言うことは」と声を上げたのは正美。「伯父さん、浅野茂社長なの? 旧財閥系の浅野商事の」  

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      正美は自販機でカップのレモンティーを買ってくれた。「これ飲んで、落ち着いて」「ありがとう」甘酸っぱいレモンティーは動揺するわたしの心を少しだけ鎮めた。「で、どうした?」「わたしのせいで浅野くんが……辞めさせられるかもしれない」「宣人がなんか、たくらんだってこと?」「たぶん……浅野くん、今、情報漏洩の疑いで社長室に呼ばれているみたいで」「そっか。でも、それなら浅野氏が「白」だってこと、すぐ判明するんじゃない? 社長の目は節穴じゃないよ。とにかく待つしかないよ」 「うん……」冷静な彼女の言葉に頷きながらも、わたしはまだ納得しきれず、ぎゅっと唇を結んだ。午後始業のチャイムが鳴った。彼女はわたしの肩をぽんと叩いて「戻ろ」と立ち上がった。 部屋に戻ると、宣人もいなくなっていた。これで彼が関わっていることも明らかになった。わたしは居ても立ってもいられない気持ちのまま、午後を過ごした。そして、終業間際になって、ようやく一樹が戻ってきた。わたしの姿を認めると、一樹は軽く手を上げた。 「かずき」わたしは小さく呟き、彼の側に行こうと椅子から立ち上がった。 けれど部の一樹推し女子3人の方が早く、一樹に駆け寄っていった。「浅野さん、会社辞めさせられるって、本当ですか?」一樹は目をみはった。「えっ、何? そんな話になってるの?」「浅野さんが会社の機密を漏らして、社長室に呼ばれたって」 それを聞いて、一樹はああ、と頷き、それから頬を緩めた。「それ、完全な誤解」「そうですよね! 誤解ですよね! 浅野さんがそんなことするはずないと思ってたんですけど、でも良かった〜」彼女たちは口々に安堵のため息をもらし、手を取って喜びあった。

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    宣人が一樹に対して、何かたくらむのではないか。わたしの心配は募る一方だった。「本当に気をつけてね」 夜、夕飯を食べながら、一樹に念を押す。でも、彼はただ微笑みかえすだけ。「心配性だな、茉衣は」なかなか本気にしてくれない一樹に、焦りが募る。ベッドに入り、彼の胸に顔を埋めても、なかなか眠りにつくことができなかった。***翌日の午前10時ごろ、曽根部長が慌てた様子でオフィスに飛び込んできた。「浅野はいるか」 出かける支度をしていた一樹は「なんでしょうか」と答えた。「至急、社長室に来てくれ」それだけ言って、部長は先に出て行った。嫌な予感がして、思わず宣人を見ると、口元にかすかに笑いを浮かべている。ああ、やっぱり。わたしは心配が的中したことを悟った。 一樹はなかなか戻ってこなかった。やきもきした気持ちを抱えたまま、昼の休憩時間になった。食欲がまるで沸かないので、そのまま自席で仕事を続けていた。パーテーションの奥で、女子社員数人が応接ソファーを陣取って、昼食を食べていた。そこに秘書課の子が飛び込んできた。「ねえ、大変だよ。浅野くん、会社、辞めさせられるかもしれない」その言葉に、彼女たちはハチの巣をつついたような大騒ぎになった。「ちょっと、どういうこと?」「社長や副社長が深刻な顔で『浅野が機密情報漏洩』とかなんとか……言ってて」「えーっ! |大事《おおごと》じゃない」「そんなぁ、浅野くんのいない会社なんて、来る意味なくなる!」そんな彼女たちの言葉が耳に入ったとたん、血の気が引いてゆくのを感じた。ランチから戻ってきた正美が、わたしの顔を見て驚いた。「茉衣、どうしたの。顔真っ青だよ」「正美……」「ちょっと休憩室に行こうか」「うん」正美はわたしの肩を抱くように、休憩室に向かった。

  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   10・伊川のたくらみ

     それから約2週間、宣人は不気味なほど鳴りを潜めていた。このまま何も起こらなければいい、と思ったのも束の間、人事部から昇進辞令が発令され、事態が急変した。宣人の主任昇任は大方の予想通りだった。けれど、一樹が、宣人に先駆けて係長に相当するプロジェクト・リーダーに大抜擢されたのである。「さすが浅野くん、すごすぎる!」浅野推しの子たちが大騒ぎするなか、わたしの心に不安が広がってゆく。  「おい、浅野、お前も来い!」案の定、血相を変えた宣人が一樹に言った。 「どうして俺を差し置いてお前がリーダーなのか、人事部に問いただす」「かまいませんよ、行きましょう」一樹はあくまでも冷静に答え、踵を返してドアに向かう宣人の後を追った。ほどなくして、ふたりは戻ってきた。いくら査定理由を問いただしたところで、教えてもらえるはずはない。憤懣やるかたない表情の宣人は、乱暴にチェアに腰をおろし、せわしなく片足を動かした。これまで、営業部一の成績を誇る先輩としていばりちらしていた宣人が、後輩の一樹の下で働かなければならない。プライドの高い彼に耐えがたいことは、容易に想像がつく。しかも、一樹に対しては資料室でやりこめられた恨みもある。

  • 蕩ける愛であなたを覆いつくしたい~最悪の失恋から救ってくれた年下の同僚に甘く翻弄されてます~   10・伊川のたくらみ

    土日はタガが外れたように愛し合い、そして、週明けのオフィスでも……わたしは一樹に甘く翻弄されていた。   「だめだよ、こんなところで。誰かに見られたら……」    今も、無人の資料室で彼に抱きすくめられていた。 熱い吐息が耳元をくすぐる。そして、その吐息よりも熱い眼差しを注いでくる。「伊川さんはよくて俺はだめなの?」 「彼とはしてないよ……こんなこと」「嘘だ」耳朶を甘噛みしながら、彼は囁く。「よくふたりでオフィスから抜け出してたじゃない」独占欲を隠そうとしない彼の言葉が本当はとても嬉しくて、身体の芯がとろけてしまいそうになる。でも、ここはオフィス。流されてはいけないと思うのだけれど……彼の唇は耳元から首筋に降りてゆき、ブラウスのボタンを一つ外して、鎖骨のあたりを強く吸った。その思いがけない刺激に喘ぎが漏れてしまいそうになる。「もう……声、出ちゃうって」その言葉に、彼はちょっと悪い笑みを浮かべ「じゃあ、塞がなきゃね」とキスして、すぐに舌を侵入させてくる。こうなるともう、わたしは彼の背に縋りつくことしかできなくなってしまう。「あ、誰か来たかも」 わたしを抱きしめたまま、一樹が言う。たしかに足音が資料室の前で止まったような気がして、鼓動がはねた。 入り口から見えない棚の陰にいたけれど、こっちまできたらどうしようかと焦る。 「離して……」小さな声で訴えても、彼はしーっと唇に指をあてるだけ。そのまま、しばらく息をひそめていたけれど、結局、誰も入ってはこなかった。 ほっと息をついてから、わたしは彼の胸を押して絡みつく腕から逃れた。「もう行かなきゃ」 彼はわたしの口元を見て、ふっと笑みを浮かべる。「俺が先に行く。茉衣は口紅直してからの方がいいんじゃない?」 「あっ……そうする」「それ、俺もか」と言いながら、彼は手の甲で自分の唇をぬぐった。その仕草があまりにもエロティックで目を放せなくなってしまい……  つまりわたしは、もうどうしようもないほど、一樹という沼にはまりきってしまっていた。    

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