実家に来て三日目。母と二人で、リビングにいた。何も話さないまま黙ってテレビを見ていると大くんが映り、母は電源を消した。「今、何週なの?」「十二週……」「あまり時間が無いわね。美羽、どうしても産みたい?」「うん」「紫藤さんと結婚できないかもしれないし、一生、彼と会えないかもしれない。それでも?」一生会えなくなるということはどういうことなのだろう。会えないなんて苦しくて辛くて、私は耐えられるだろうか。それが許されないのなら、子供は下ろさなきゃいけないっていうことだろうか?もしそうなら……大好きな人に一生会えなくても、それでも、私は赤ちゃんを産みたい。辛くても、苦しくても……。「お父さんは、いろいろ考えてくれたんだと思う。二人にとって一番いい未来を。娘をあんなに愛してくれて……嬉しいよ。でも、彼の仕事は人気商売。夢を与えることなのよ」「……うん」まさか、自分がシングルマザーになるなんて考えてもいなかった。「子供を一人で産んで育てていくというのはものすごい覚悟なの。簡単なことではない。母親の先輩として私から言えることはそれだけよ。よく考えなさい」「……わかった」でも、心の中ではまだ、大くんが迎えに来てくれると期待しているのかもしれない。
Last Updated : 2025-01-15 Read more