All Chapters of 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない: Chapter 241 - Chapter 250

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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』40

自分の中にある小さな粒がどんどん膨れ上がっていくのを感じ、恐怖心が芽生えてきた。――あれ、俺が好きだったのは佳乃なのに。どうして、久実を見ると胸がこんなにも熱くなるのだろうか。まじで、勘弁してくれって俺。きっと、感情のコントロールができなくなっているだけだ。冷静になれ。相手はまだ十代なんだから駄目だ。目をふっと覚ました久実はここがどこなのかわからないようで、目をキョロキョロさせている。顔を覗き込み「よく眠ってたな」と言うと、にこっと笑った。「……なんだ、夢かぁ」「は?」「赤坂さん」寝ぼけている久実は両手を伸ばして俺を引き寄せる。抱きしめる形になった。柔らかい胸が押し潰れるほど強く抱き合う。「大好き」「………………」心臓が止まりそうになるほど驚いて、言葉を失ってしまった。俺の鼻に通り抜ける久実のシャンプーの香りがさらに心臓の鼓動を加速させる。このまま理性を失いそうになった。「……おい。久実、離せ」「……ん?」ぼんやりとした顔で俺を見た。次の瞬間「変態っ」と叫びだした。その声に俺はびっくりして離れた。久実はベッドの上で顔を真っ赤にして端に行った。絶対勘違いしてる……。「おいおい、抱きついてきたのは久実なんだけど。マジで勘弁してくれって」「え? わ、私……?」恥ずかしそうにしている姿を見ると、まだまだ子どもなのだと実感する。「あぁ」「寝ぼけていたのかも。変なこと言ってなかった?」「言ってたかもしれないけど。よくわかんなかった」もしも、この想いが本物だとしても久実が二十歳まで待とうと思った。「ごめんなさい」「別にいいけど。あまり無防備なことしてると襲われるぞ。身体は大人なんだから」「はい……」*数日後。記者会見を開いてもらい、俺は堂々と答えた。卑怯な質問をしてくる奴らにも、俺は怯まないでしっかりと受け答えをする。俺は悪いことを何一つしていないのだ。テレビの向こうで応援してくれている人がいる。そして――久実も、俺を応援してくれているのだ。COLORメンバーも事務所大澤社長も、所属タレントも、いる。俺は一人じゃない。たくさんの勇気をくれた久実に、感謝しながら記者会見を終えた。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』41

4 ―恩人―久実二十歳  赤坂二十六歳 久実side短大生になり、あっという間に時が流れてもう十一月。秋風が冷たくて、心が折れそうになる。人恋しい季節なのかな。こんな私にも彼氏ができて今日はデートの待ち合わせをしている。と言っても付き合ってまだ一週間。一ヶ月前から好きだと言われ続けて、悩んで悩んで付き合うことにした。付き合うことを決めた理由は、いつまでも赤坂さんに片想いしているわけにいかないから。違う大学に行った朋代からも付き合う経験をしたほうがいいと言われて決意した。駅で待っているとデジタル広告が目に入り、赤坂さんが映っていた。カメラのコマーシャルに出ている。赤坂さんには彼ができたことを伝えていない。本当は、赤坂さんのことが好きだ。男として、赤坂さんのことを……心から愛している。間違えても伝えてはイケない思いだけれど。彼には病気のことをまだ伝えていない。今日は彼との初デートだし、しっかり伝えようと思っている。いつまでも隠しておけない。カミングアウトするなら、早いほうがいいだろう。怖いけれどしっかり言えば理解してくれるよね……。同じ短大の彼。爽やかなイケメンで話し方も優しくて、いい人だと思う。きっと、私はこれから幸せになっていける。「お待たせ。じゃあ、行こうか」目の前に現れた彼は、さっと手を繋いだ。はじめての経験に心臓が激しく動いている。顔が熱くて耳がひりひりする。たくさん人が歩いているのに、手を繋ぐなんて恥ずかしい。頭一つ分大きな彼。この人が自分の恋人なのかと思うとなんだか、すごい違和感だ。グレーのコートに黒いマフラー。どこだかわからないけどブランド品のようだ。センスのいい彼で安心する。近づくといい香りがしてすごく清潔感にあふれている気がした。「俺の彼女になってくれてありがとう。はじめて見た時から可愛い子だなって思ってたんだ」少し歩きながらそんなことを言われた。微笑まれると、どんな風に接していいかわからない。ぎこちなく微笑み返す。「ありがとう」「まずはランチしよう」グイグイ引っ張ってくれる人は好き。きっと、病気のことも理解してくれて長く付き合えるよね。連れて来てくれたのは、若い世代のカップルが集まっているスタイリッシュなカフェ。「俺、オススメはこれ」とメニュー表に指をさして教えてくれた。
last updateLast Updated : 2025-01-22
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』42

「あれ、具合悪いの?」「いろいろあって」「ダイエットとか?」「……いや」なかなか言えなくて苦しい……。いつまでも隠しておけないのはわかっているけれど、言えない。「すげぇ細いじゃん。もっといっぱい食べて太らないと」「…………うん」気を使って優しい言葉をかけてくれる彼に対して、嘘をついている気がして申し訳ない気持ちになった。こんな気持ちのままお付き合いしていいのだろうか。しばらく無言になり、紅茶を飲んで会話を探していた。「まだ大丈夫なら少し景色のいいところ行かない?」「はい。ぜひ」「よし、行こう」連れて来てくれたのは高層タワー。東京を一望できるデートスポット。彼は女の子慣れしているみたいだ。私なんかでいいのだろうか。人も車も豆粒に見える。男の人と出かけるなんて経験がないから躊躇してしまう。どんな会話をすればいいのだろうか。だんだんと夕日に染まっていく空。街にはだんだんと灯りが灯っている。タイムリミットが近づいてくるのだ。早く言わなければ……。私は彼の方を向いた。穏やかな顔で景色を見下ろしている。息をゆっくり吸い込んで気持ちを落ち着かせた。あれほどまでに好きだとアタックしてくれたのだから、きっと大丈夫。付き合おうと決めた人を信じようと思った。「あのね。言ってないことがあるんです」景色を見ていた彼が、こちらを向いた。「ん? なに? なんでも言って」私は一つ、コクリと頷いた。「……私、心臓の病気があるんです……」「…………え?」予想以上に驚いた顔をされたから、どんな言葉を続ければいいかわからなかった。急に恐怖心に襲われる。彼は、どんな言葉を投げかけてくるのだろう。震える身体。怖くて心臓がドキドキと奇妙なリズムを刻んでいた。「じゃあ……そういうことできないの?」予想外の質問に答えを返せない。年頃の男女なのだからそういう関係になってもおかしくはない。だけど、大事なことを打ち明けたのに一番に聞かれたのがそれだったのは、ショックだった。――体調は大丈夫なの?とか、――長く生きられるの?とか。私をいたわるようなことを言ってくれるのだと思っていた。
last updateLast Updated : 2025-01-22
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』43

「………久実ちゃん?」「わからない。調べてみる」もしも体に負担になる行為ならできないかも知れない。そうしたら、彼は私を捨てるのだろうか。「何度か手術してて……。傷があって……。肌を見せるのも躊躇してしまうと……思う」「ふーん……」彼は感情がわからないような返事をして、無表情のまま景色に視線を戻した。突然、雰囲気が悪くなった気がする。「やっぱり。私みたいな女って恋愛対象外になってしまうのかな……?」「うーん。久実ちゃんのこと可愛いって言っている奴は多いけど。きっと誰も知らない事実だろうね」「……………うん」「俺もかなりショック。詐欺に遭った気分」「そんな、騙そうなんて思ってないよ」「でも言わなかったから詐欺じゃん。マジで時間返してって感じなんだけど」スマホをおもむろに見た。「あ、ごめん。そろそろバイトだから帰るわ」彼は帰ってしまった。今日は一日予定が空いていると言っていたのに。私を一人残して……。さっきまで繋がれていた手をじっと見つめる。「なんだったの」詐欺だなんて、私のセリフだ!涙は流したくなくて、ぐっと堪えた。外に出るとすっかり暗くなっている。風も冷たいし本当に切ない気分になってしまう。こんな時は赤坂さんに会いたくなるけど。赤坂さんを忘れるために付き合ってこんな目に遭ったのだ。理由を聞かれても言えるはずがない。真っ直ぐ帰る気分になれなくて賑わっているほうへと歩いていると、色んな人に声をかけられた。スカウトマンだったり、ナンパだったり。皆……、私の病気のことを知らないで声をかけてくる。そして、知ったら、逃げて行くくせに。だんだんと自分が嫌な性格になっていく気がする。卑屈になって素直じゃなくなって。可愛くない女になっていく。バッグに入っている携帯が鳴り確認する。『どうだった? 初デート』朋代からのメールだ。立ち止まって返信をする。『病気のことを言ったら置いて行かれた(笑)今、街をぶらぶらして帰るところー』いっぱい絵文字をつけて明るく振る舞う。『……大丈夫?』『大丈夫!』私は友達にも弱みを見せられない女になってしまったのだ。信号が赤になる。このまま歩いて車にひかれたいとさえ、思ってしまった。こんなの、自分らしくない。
last updateLast Updated : 2025-01-22
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』44

あのデートから数日後。お風呂から上がって自分の部屋に戻った時、机に置いてあった携帯が震えた。誰からだろうと思って確認すると、彼からのメールだった。『病気のこと知らずに好きだとか言って、ごめん。本気で久実ちゃんのことを好きになってしまったら困るから、別れよう』くすっと笑った。馬鹿みたい。バカ、バカ。バカ。『了解です』返信をしてすぐにメールアドレスを消去した。ゲームのリセットボタンみたいにすべて消すことができればいいのに。さほど、好きじゃなかった人に言われてこんなに悲しいのだから、赤坂さんにもし告白をして、付き合えないと突き放されたら……。奈落の底まで落ちて生きられないかも知れない。誰かを好きになるなんて――無駄なこと。私には夢も希望もない。もう、誰とも付き合わない。キスもセックスも経験しないで死ぬのを待つのだろう。くだらない……。人生って不平等だ。ベッドに倒れた私は目を閉じた。すーっと涙が流れてくる。どうして、こんな思いをしなければいけないの? 短大にも行きたくない。……けれど、お母さんとお父さんを悲しませてしまうから、それだけは続けないと。一人っ子である私。両親にとっては大事な存在であるだろう。負けちゃ駄目だ。
last updateLast Updated : 2025-01-22
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』45

十二月に入る頃、私は講義を聞き終えて立ち上がった。「大丈夫か? 顔色悪いぞ。心臓痛いの?」同級生の男性に声をかけられた。「え?」「……お前、心臓病なんだろ?」きっと――彼が病気のことを言いふらしたのだろう。いろいろと調べたら、激しくは駄目だけど、愛を確かめ合うじっくりゆっくりとしたものならいいと書いてあった。「そうなの。でも、大丈夫、ありがとう」変なプライドが邪魔して満面の笑みを浮かべた。隣で一緒に講義を受けていた友達と教室を出た。短大の食堂へ行って券売機の前でメニューを選んでいる。すると、女の子と、笑顔で、手を繋いで歩いている彼を見かけた。だんだんと距離が近づいてきて逃げようと思ったのに、動けなかった。もうすぐに新しい女性に乗り換えたらしい。軽すぎる。あんな奴と別れてよかった。「おっす。久しぶり」なんて言われる。「誰~?」甘ったるい口調での女の子がこちらをチラッと見てくる。「大丈夫か? 心臓病はどう?」「…………」沈黙する私。友達は「ちょっと、あんた!」と、怒鳴りだす。「えー心臓病なの? 可哀想に」彼女さんらしき女の子は、彼にべったりくっついている。視線が集まってひそひそ話をされて、人だかりができてしまった。すごく悲しくて、腹立たしくて、感情がコントロール不能になり涙がボロボロとあふれてきた。目眩がする。息が……苦しい。私はその場にしゃがみこんでしまう。「苦しい……っ」そのまま私はそこで意識を失ってしまった。
last updateLast Updated : 2025-01-22
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』46

目を覚ますと病院のベッドの上だった。酸素マスクをしていて、点滴に繋がれている。「久実っ」お母さんが心配そうな顔で覗きこんできた。すぐにナースコールを押して看護師さんと医者が来た。医者は私の様子を確認した。「念のため数日入院しましょう」最近ずっと入院してなかったのに。愕然としてしまった。やっぱり私は一生こんな生活を送っていかなければならないのだ。夕方になり、お母さんが帰った。二人部屋だったが、もう一つのベッドは空いているから今夜はここで一人で眠ることになる。一人は慣れているのに心細くなる。私のベッドは窓側。安静にしていなきゃいけなくてひたすら空を眺めていた。携帯が震えて、確認すると赤坂さんだった。『ちょっと時間空いたんだけど、会えないか?』私は、ぼーっとメールを眺めていた。もしも、私が病気じゃなかったら赤坂さんと普通に会えていたかな。……いや、病気だったからこそ出会えたのだ。「複雑…………」ポツリとつぶやいて、目を閉じる。すると、ブーブーと長めのバイブ音が聞こえて電話だと思い画面を確認すると、赤坂さんだった。せめて声が聞きたくて通話を押してしまう。「もしもし」『久実』「こんばんは」『ああ、どーも。……忙しいか? たまに会いたいんだけど……』「入院しました」『はあ? なんで知らせてくれないわけ? いつもの病院?』「…………」こんな弱々しい姿を見られたくなかった。ちゃんと、化粧して可愛い姿で会いたかったから、無言になってしまった。『おい』「…………」『なんなの?』「秘密」『あっそ。じゃあな』電話が切れた。握った携帯を布団に置いて天井を眺める。真っ白だと思っていた天井は、微かに模様が描かれている。新たな発見をした。しばらく黙っていると、足音が近づいてきて部屋の前で止まる。カーテンをしているから誰が来たのかはわからない。……けど、赤坂さんだと思った。咄嗟に目を閉じて寝たふりをする。ゆっくりと足音が近づいてきてカーテンが開いた音がして、近くまで来たことを悟った。赤坂さんの匂いがする。大好きな香り。だけど、ちょっとだけ煙草臭い。近くに置いてあった椅子に座った音が聞こえた。眠っているのに、帰らないのだろうか。すると、突然体に体重がかかった。
last updateLast Updated : 2025-01-23
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』47

なんだろうと思って思わず目を開けると、赤坂さんが添い寝しているのだ。「………っちょ」「やっぱり、狸寝入りじゃん」そう言っておでこに軽くでこピンされる。赤坂さんは起き上がって椅子に座り直した。「病院、どうしてわかったの?」「お母さんに聞いた」「………そう」「大学でなんかあった?」鋭い質問に驚いてしまう。顔がこわばる私を見て赤坂さんは笑う。「わかりやすいな、久実」「……」「どうしたの?」あまりにも優しい声だったから心が揺れ動く。この苦しい気持ちを聞いてもらいたいって思ってしまった。「彼氏に振られたの」「……お前っ、彼氏いたのか?」私に恋人なんかできないと信じていたような様子だ。失礼だなと思いつつ私は言葉をつないだ。「いっぱい好きって言われて。私も年頃だし付き合ってみたかったの」「なんだ、それ」「でね……デートしたんだけど。心臓病だと言ったら、振られた。そういうことできないだろうって言われて……。詐欺だって言われちゃった」赤坂さんを見ると笑顔が消えて怖い顔をしている。握り拳が作られていて震えていた。「好きじゃなかったから、いいの」「好きでもない奴と付き合ったのか?」「うん。いろいろあったの」「久実はそんな子じゃない」「赤坂さんは私を過大評価しすぎ」笑って見せたけど、赤坂さんは怒りに満ちていて怖かった。「病気を隠していたわけじゃないけど、言いふらされて。腹立って叫んだら倒れちゃった。こんな身体もう嫌だよ」あえて明るく言うけど、赤坂さんは笑わない。「だけど、いい経験になった。……もう、誰のことも好きにならないで生きていく」自分の中で決まった大きな目標だ。赤坂さんへの思いだって消してみせる!「なんでそんな悲しいこと言う?」「えっ?」「たまたまそいつがバカな男だっただけだ」目を合わせていられなくなって窓に目をやった。もう空は真っ暗。赤坂さんの彼女だったら――どれほど、幸せなのだろうか。諦めようって思うのに、赤坂さんは素敵すぎる。思いが膨らんでしまうじゃない。どうしてこんなに素敵な人に、出会ってしまったのだろう。そして、恋心を抱いてしまったのだろうか。こんな甘い感情があるなんて、知りたくもなかった。「赤坂さんの彼女は、幸せだろうねー」また明るい口調で言って赤坂さんを見ると、すごく真剣な表情を
last updateLast Updated : 2025-01-23
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』48

*久実二十二歳 赤坂二十八歳赤坂side二十歳になるまで手を出さないで待とうと決めて、やっと二十歳になった久実。それなのに恋をしないと言い出した。久実を傷つけた男をどれほど憎んだことか。無理やり迫ろうと思ったこともあるが、絶対に俺は久実を手に入れたかったから、久実の心の傷が癒えるまで気長に待つことにした。あれから二年。久実は短大を卒業して就職をした。病気のことも理解してくれる会社に入り、事務職をして頑張っている。俺はCOLORとして相変わらず仕事をさせてもらっていて、お陰様で忙しい毎日を送っていた。そろそろ、限界が来そうで怖い。久実のことが好きすぎて夜な夜な考えてしまうのだ。仕事をしていても気になるし、この気持ちをどうすればいいのかわからなくなっていた。休みがあれば久実を家に呼び出して他愛のない会話をしているのが定番だ。社会人になり、ぐっと大人っぽくなって色気も出てきた。今日は日帰り温泉に二人で行く約束をしている。暑い夏だからこそ風呂に行こうと意味のわからない誘い方をしたが、久実はOKしてくれた。俺に対してはまったく警戒心がないらしい。俺も立派な男なのだが。個室がある宿で昼食と夕食を摂って帰って来るプランだ。そのまま泊まってしまいたいところだが、明日は朝早くから仕事があるから無理。久実も有給を取ることができて、このデートが叶った。俺はデートだと思っているが久実はただの遊びだと思っているだろう。車で待ち合わせの駅まで迎えに行くと、麦わら帽子を被って白いワンピースのスカートをゆらゆらと揺らしながら立っている久実がいた。「…………俺の愛しい女」何度か迫ろうとしたことはあったが、まだ傷は癒えてないらしく強引に迫ることが出来なかった。今日こそはといつも思いながら時だけが流れていく。俺の車に気がついた久実が駆け足で近づいてくる。ドアを開けて乗り込んでくると優しい香りがした。「おはよう」「おはようございます」車を走らせる。ラジオからは軽快な音楽が流れていた。平日の朝から久実と過ごせるのは、とても幸せだ。「仕事どうだ?」「うん、皆さん優しいしいい職場だよ。定期健診で休むこともあるけど快く休ませてくれるし」「そうか。安心した」旅館について早速ランチが用意された。和室で心地よい風が入り込んでくる。緑の揺れる音が
last updateLast Updated : 2025-01-23
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』49

久実side露天風呂付き客室は落ち着きのある場所なのに、赤坂さんと二人きりでいるせいか落ち着きない私。お風呂に浸かりながら外を見ているけれど何も考えられない。二人きりで温泉に来るなんてまずかったかな。私がお風呂から上がって、赤坂さんが入っている間に家に戻ってしまおうか。ガラっと音がして振り向くと全裸の赤坂さんが立っていた。状況が理解できずにポカンと見入ってしまう。締まった身体には筋肉しかついていない。芸術品を見ている気分になった。が、同時に私も見られているのだと理解し慌てて背中を向けた。「なっ、なんなの! 冗談でも笑えないから!」体の傷を見られてしまう。それだけは絶対に嫌だった。お湯が揺れる。赤坂さんが中へ入って来たのだ。私のことを妹のような存在だと思っているから平気でこんなことをしてくるのだ。だから私も平気なふりをして対応する。「覗かないでって言ったのに」「覗いてない」「はあ?」「堂々と見てる」「………なにそれ」「混浴くらいいいだろ」「よ、よくない!」一緒に入るのが嫌なんじゃなくて、どちらかと言うと、胸にある傷を見られたことにショックを受けていた。赤坂さんが付き合ってきた人たちは超美人な人ばかりだろうから、がっかりされたくなかった。心臓がドキドキしすぎて耳まで熱くなってしまう。ぎゅっと後ろから抱きしめられる。素肌が密着していて、頭がおかしくなっちゃいそうだ。「いやっ」「何もしないから」「充分、してる! 離れてって」立ち上がろうとすると、さらに力が込められる。赤坂さんったら、久しく彼女がいないからそんな気分になったの?「なぁ? 傷は癒えた?」困っている私の耳元でつぶやかれる。「は?」「ハタチの時の……失恋の傷」そんなことすっかりと忘れていた。「…………癒えたけど、もう恋愛はしないことにしてるの。お願い、離して」赤坂さんの硬いものが背中に当たってビクッと身体が震えた。赤坂さんはどんな気持ちなのだろうか。なんとなく流れでしてしまって関係が壊れるなんて、嫌だ。「久実……あのな、聞いてほしいことがあるんだけど」「無理。熱くてのぼせちゃう」「…………お前はさ、俺が男だってわかっていて温泉に来たんだよな?」「今、わかった! ごめんなさい。赤坂さんを信じた私は大バカでした」「じゃあ、責任取れ」
last updateLast Updated : 2025-01-23
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