All Chapters of 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない: Chapter 231 - Chapter 240

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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』30

3―恋の始まり―  久実十八歳 赤坂二十四歳久実side赤坂さんのことを好きだと認めたけれど、片思いでいいと思っている。求めてはイケない。万が一告白なんてしたら、もう会ってもらえなくなるかもそれない。高校三年生になり、もう五月。今は受験勉強を頑張る時だと思って毎日机に向かっていた。早く寝ないといけないけれど、夜のほうが集中して勉強ができる気がする。ふと、携帯に目をやるがメールの受信通知はない。赤坂さんとはメールのやり取りがメインであまり会っていないのだ。寂しいな……。たまには会ってゆっくり話がしたいと思う。そんなふうに思うなんて、私は気がつかないうちに贅沢な人間になってしまったのかもしれない。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』31

夜遅くまで勉強してちょっと寝坊した土曜日。ベッドで携帯をチェックするけれどメールは届いていない。「ふぅー」小さなため息をついて窓に目をやった。すっかり明るくなった空が見えた。シャワーを浴びて着替えを済ませてから、リビングに行く。お母さんが焼いてくれたトーストをかじりながら、ぼうっとテレビを見ていた。芸能界のゴシップが流れている。『続いての話題ですが、芸能界に大物カップルが誕生!?』若い女性が軽快な口調で話している。画面に映し出されたのは、赤坂さんだ。内容が気になるところで一度コマーシャルに行ってしまった。私の心臓はドキドキしている。落ち着かない気持ちのままコマーシャルが終わるのを待っていた。再び番組には女性MCが映し出される。『COLORの赤坂さんが女優の保坂佳乃さんと交際報道が出ました。二人はドラマで知り合って意気投合したそうで……』――赤坂さん……彼女できたんだ。体中に青くて冷たい液体が流れていくような感覚になった。しかも、美人で人気のある女優さんと付き合っているのか……。二人はすごくお似合いだ。お母さんがテレビを見た。「あらー、赤坂さんに恋人が出来たのね」「ほんと! お似合いのカップルだね」恋心を自覚している私は、告白すらしていないのに失恋した気分になった。食欲が一気に奪われたが、食べないとお母さんが心配してしまうので、平気なフリして完食した。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』32

自分の部屋に戻って放心状態でいると、朋代が心配して連絡をくれた。テレビを見たらしく、私が落ち込んでいると思ったらしい。私は一人で部屋で落ち込んではいけないと思い、家の近くの公園で落ち合って、ベンチに並んで座った。「大丈夫……? 久実」心配そうに眉毛を寄せている朋代。天気がいい。せっかくのお天気日和なのに……。私の心はどんよりとしている。「うん……意外に平気みたい。私なんて、赤坂さんに釣り合わないし。ずっと恋愛話とか聞いたことなかったから……祝福の気持ちが強いかも」少しだけ強がったけれど、嬉しい気持ちもあった。赤坂さんが幸せで暮らしていれば嬉しい。でも、髪の毛をバッサリ切りたい気分だ。言葉を交わさないでぼんやりとする。公園で遊んでいる子どもの声が耳に届く。風が時折強く吹いて、髪の毛を見出していく。足元でせっせとアリが歩いている。太陽の日差しが温かくて……泣きそうになった。顔を上げて立った私。「生きる希望をくれた赤坂さんには、いっぱい幸せになってもらいたい」「久実って、強いね」「そうかな」私は強くなんかない。我慢している。本当はすごく弱い人間だ。強くなるために、病を患ったのかもしれないと思う。元気にしているように見せるのが上手いだけなんじゃないかな。「朋代……。励ましてくれてありがとう」「いつでもメールしてね」「うん。また学校でね」朋代と別れて、美容室へ行った。長い髪の毛が好きだったけれど……髪の毛をバッサリ切ってもらった。気持ちをスッキリさせたかったのだ。鏡に映るボブヘアーになった私はちょっと大人っぽく見える。化粧をして大人っぽい服を着ても佳乃さんには勝てないけれど……。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』33

合わせ鏡をしてくれる可愛い美容師さんが「どう?」って聞いてくるから笑顔で「ありがとうございました」とお礼をした。美容室を出ると夕方になっていた。首がスースーする。短くなった髪の毛に触れてため息をついた。お母さんもお父さんも驚いてしまうかもしれない。トボトボと歩き出す。今度、赤坂さんに会ったらなんて言われるかな。短い髪の毛は似合わないって言われないかな。そして、彼女さんを紹介してくれるだろうか……。私なんかに紹介する筋合いないか……。自虐的な気持ちになった。前向きにならなきゃ……。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』34

あの報道があってから一週間後。違う報道が流れて、それはだんだんと白熱していた。佳乃さんに子どもがいると報道されたのだ。誰の子なのかとネットでもテレビでも流れていて、学校でも噂話でいっぱいだった。昼休みに弁当を食べていると聞こえてくる。「佳乃の子どもって赤坂の隠し子って噂だよねぇー」「まーじー? ショックなんだけど」赤坂さんに隠し子なんているはずがない。何度も家に遊びに行ったけど……そんな気配なかったし。でも、私の知らない赤坂さんがいるかもしれない。複雑な気持ちのままご飯を食べていた。私が落ち込んでいるのを朋代は気がついていて、気を使わせているのも申し訳ない。赤坂さんの恋愛事情なのだから、私が気にすることじゃないのはわかっている。元気をなくしている場合じゃないのだ。微笑んで大丈夫と伝えた。それから、さらに二週間が過ぎていた。赤坂さんにはメールも電話もしないまま、私は日常を過ごしている。赤坂さんから連絡もない。私に関係のないことなのだからわざわざ連絡は来ないかと思うけど、どこかで待っている自分がいた。来るはずないのに……私って本当にバカ。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』35

そんな中、新たな報道が出て世間を騒がせていた。私がその報道を知ったのは、学校帰りに立ち寄ったコンビニにある週刊誌を見たからだ。『赤坂。佳乃が既婚者と知って不倫を持ちかけた熱い夜』その雑誌を握る手は震えていた。さすがに、赤坂さんはそんなことをする人じゃない。適当な嘘を平気で書くマスコミに怒りがこみ上げてきた。きっと、今一番傷ついているのは、赤坂さんに違いない。『仕事がキャンセルされ開店休業状態。COLORも解散危機!』赤坂さんを悪者に仕立てるなんて最低だ。雑誌を戻して外に出る。夕方なのに蒸し暑くて初夏を思わせる季節の中、私は赤坂さんのマンションへ走って向かった。途中で心臓が苦しくなって額に汗を浮かべつつ立ち止まる。その後は体調に気をつけてゆっくり歩いた。赤坂さんのマンションへ辿り着くと、ものすごい数の報道陣が待ち受けていた。恐ろしくなって踵を返す。私が赤坂さんと友人関係なのは誰も知らない事実だから、追いかけられることはないけど怖くなった。少し歩いて離れた場所についた時、私は赤坂さんのことが心配になって電話をした。電柱に寄りかかって呼吸を整える。五コール鳴ったところで電話に出てくれた。「赤坂さん……大丈夫? マンションすごいいっぱいマスコミが」『久実、来てくれたの?』久しぶりに赤坂さんの声を聞いた。元気そうに振舞っている。無理をしているのだろう。「……心配になって」『大丈夫。ホテルに泊ってる。缶詰状態。……ってか、久しぶりだな』「……うん」『受験勉強、頑張ってるか?』いつも通りに話してくれる。赤坂さんにとって私は赤坂さんが勇気づけるだけの対象なのだろうか?私は赤坂さんを元気づけることはできないのかな……。空を見上げると太陽は沈み薄暗くなっていた。本当はこんな道端で電話している場合じゃないけど、赤坂さんのことが心配だった。「ホテル……どこなの?」『は?』「明日、休みだから会いに行く」『…………マジで?』「受験生だって息抜きしたいの」『………△△ホテル。ロビーに着いたら電話くれ。何時頃になる?』「お昼くらい」『了解。つーか、俺の居場所、誰にもバラすんじゃねぇーぞ』「当たり前でしょ! じゃあね」電話を切ると私は深い溜息をついた。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』36

次の日の朝。台所でお弁当を作っていた。「あら、どーしたの?」お母さんが不思議そうな顔をして尋ねてきた。「友達と公園ランチするの」はじめて嘘をついた。「あ、味見して?」煮物の人参を菜箸で取ってお母さんに渡す。あっついと言いながら食べた。「美味しいじゃない」「よかった」自分の分は薄めに作り、赤坂さんのは少し味をつけた。ホテルのご飯だけだと飽きてしまうだろうと思って。ありがた迷惑かもしれないけれど……好きだと思う人の喜ぶ顔が観たかった。「外、暑いから気をつけるのよ」「うん。日陰で食べる。あまり長く外にいないようにするから」「最近は、苦しくなることない?」走ったせいで苦しくなったことは言わないでおこう。余計な心配をかけたくないから。「大丈夫。ありがとう」惣菜を弁当箱に詰めつつ、お母さんに返事をした。いつも作ってくれるお母さんの苦労が少しわかった気がする。「よし、できた」バッグに入れて外出準備をして玄関に向かう。お母さんが近づいてきて「気をつけなさいね」と言ってくれた。サンダルを履いて立ち上がった私はお母さんを見つめた。「いつもお弁当作ってくれてありがとう。行ってきます」
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』37

教えてくれたホテルに向かう途中。どうやったら赤坂さんを励ませるのかと考えていた。気張る必要はない。いつも通り接しようと思っていた。たとえ……赤坂さんがCOLORを辞めさせられたとしても、私はいつまでも彼のファンで居続ける。そんな決意だった。電車を乗り継いで到着したホテルは豪華な外観の一流ホテルのようだった。ホテルのロビーに入るのも躊躇してしまい、外で電話をかけた。教えられた部屋番号になんとか辿り着いた私は、Tシャツにショートパンツと言うラフな格好をしたことに後悔をしていた。だって立派すぎるんだもん。このホテル……。チャイムを押すと扉が開いた。中から出てきた赤坂さんは、にこっと笑って招き入れてくれた。顔を見るだけで込み上げてくるものがあったけど、我慢して笑顔を作った。「お邪魔しますー」ベッドとテーブルと椅子しかないシングルルームだった。荷物が散らかっている。「椅子に座って」言われた通り私は椅子に座らせてもらった。赤坂さんはベッドに腰をかけて私を見つめる。「ボブにしたんだ」「……あ、うん」赤坂さんに恋人ができたと知ってショックを受けて切ったなんて言えない。「似合う。すごく可愛い。大人っぽくなったし」「ありがとう」お世辞だとわかっていても恥ずかしくて、顔に熱が集中する。顔を仰ぎたい衝動に駆られた。「俺の報道、知って驚いただろ?」自嘲気味に言ってクスッとうつむいて力なく笑っている姿を見ると胸の奥がズキンと痛んだ。「もう……久実に呆れられて連絡も来ないかと思った。お前って生粋のファンなんだな」「……だって、赤坂さんが結婚している人に手を出すなんてありえないって思ったもん。きっと、真剣に佳乃さんのことを好きになったんだよね。何か事情があって結婚している人を好きになったんだと思う」赤坂さんは立ち上がって窓のほうに行く。そしてビルで囲まれた景色を見ていた。「結婚しているって知らなかったんだ。だから……本気で愛してた」好きな人の恋愛話を冷静な顔で聞くのは心臓に悪い。切なくてとても苦しい。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』38

「俺と佳乃の密会を撮られて……佳乃の周りにもいろいろ取材が入り、結婚していて子どもいることがバレたんだ。佳乃は十七歳で子どもを産んでいたんだって。その事実を事務所が隠していたらしい」こちらに向いて窓に背をつけたまま腕を組んでいる赤坂さん。「佳乃は謝っていた。気がつけば恋に落ちていましただってさ。笑えるだろ? 子どもの母親失格だよな」笑いながら投げ捨てるように言っているけど、心には深い傷を負ったに違いない。「まぁ……子供がいても誰かのことを好きになることは否定しないけどさ。でも俺は自分に守る存在がいるなら、たとえ恋をしてもその心は押し殺して大事なものを守る」「そういうと思った」「しまいには俺のせいになってる。佳乃の事務所は力があるからな」「……COLORは解散しないよね?」「わからない。するつもりはないけど」「赤坂さんのファンがいなくなっても、私一人になっても応援し続けるから。負けないで」どうしてなのかわからないけど涙ぐんでしまう。赤坂さんは近づいてきて頭を撫でてくれた。「ありがとな。久実」優しい笑顔を向けられると、胸にある恋心がどんどん膨れ上がっていく。いつか破裂してしまわないか非常に心配だ。気持ちを落ち着かせようと話題を変える。「あのね、ホテルのご飯だと飽きちゃうと思ってお弁当を作ってきたの。あまり自信ないけど食べてみて」「マジで? ……気遣いが嬉しい」紙袋からお弁当箱を取り出してテーブルに置く。そして蓋を開いて見せると赤坂さんは「すげぇウマそう」と言って笑ってくれた。テーブルをベッドに寄せて赤坂さんはベッドに腰をかけた状態で食べることにし、箸を渡す。「いただきます」どんどん食べ物が口の中へ消えていく。彼女になれなくてもいいから、こうしてたまに二人きりで過ごせる時間があればいい。赤坂さんが赤坂さんらしく、元気に暮らしてくれたら私も幸せだ。「マジでうまいわ」「よかったら私の分もどうぞ。私のやつは味が薄めになってるけど」「サンキュー」彼は綺麗に食べ終えた。「ごちそうさま」「いえいえ」「たっぷりお礼しないとな」「いいよ、そんなの。たまには甘えてください」赤坂さんは力なく笑った。苦しみを少しでも減らしてあげたいよ……。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』39

赤坂side久実が作ってくれた弁当に舌鼓を打ち、満腹になった。外に出てふらふらするわけにも行かずベッドで枕を腰に当てて並んで座り、映画を見ていた。肩に重みを感じて隣を見ると、眠っている久実。安心しきった顔だ。そんな無防備な姿を見て俺は自然と笑顔があふれてくる。スキャンダルがあり、仕事をキャンセルさせられて、しまいにはホテル暮らし。愛していた女は子どもと夫もいて、精神的にかなりダメージを受けていた。そんな毎日だったから、笑うことも忘れていたのだ。久実に連絡をしていなかったのは、あえてそうしていた。俺を大好きだとずっと言ってくれていたファンの声を聞くのが怖かった。しかし、久実は俺を励ましてくれた。「こいつはファン以上の存在だな……」少なからず応援してくれている人がいることを忘れていた。俺は一人じゃない。堂々とメディアに俺の気持ちを伝えるべきなのではないだろうか。逃げていてはイケない。そんな気持ちにさせてくれたのは久実だ――。隣に眠る久実をそっと横にした。疲れていたのかもしれない。俺はベッドから降りて久実を眺める。……ずいぶんと露出が激しい。Tシャツにショートパンツ。胸の膨らみがはっきりとわかって、薄っすらとブラジャーの形が浮き上がっている。そして、ショートパンツから伸びている太腿。スラーっと綺麗な足をしていて爪にはピンクのマニュキアが塗られている。視線をもう一度上に動かしていくと、胸が呼吸のたびに動いていて首筋にじんわり汗をかいているのが妙に色っぽく見えた。「……大人になったんだな……。いい女じゃん」あんなに小さかったツインテールの女の子が、女子高生になったなんて時の流れを感じる。少し空いた唇を見てドキッとした。女だからって誰でもいいわけじゃないのに、こんな気持ちになるなんて。俺のために尽くしてくれる女――。いつも笑顔で俺を支えてくれる。おまけに純粋で可愛い……。
last updateLast Updated : 2025-01-21
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