若子は電話が繋がったのを確認して、ほっと息をついた。修が自分の番号をブロックしていなかったことに、少し驚きつつも安心した。少なくとも、その点では彼は寛容なようだ。しかし、電話の向こうでは誰も出る気配がなく、数十秒後に通話が切れた。若子は深いため息をついた。どうやって修をおばあさんに会わせればいいのだろう?「何か用か?」 背後から冷たい声が聞こえた。若子が振り返ると、修が立っていた。彼女は一瞬緊張が緩んだ。「まだ病院にいたのね。もう帰ったかと思ってたわ」「なんで俺に電話した?」修は無表情で問いかけた。若子はスマートフォンを握りながら、不安そうに一歩前に進んだ。「おばあさんに、今夜一緒に夕食を取るって約束したの。それも二人でね」「それはお前が約束したことだろ?俺を巻き込むな」修の冷淡な声に、若子は彼の不満を理解していた。この件は彼に相談せず、自分で勝手に決めたことだった。申し訳なさを感じつつも、彼女は冷静に答えた。「分かってる。でも、私たちが揉めてることは、おばあさんには関係ないわ。今日電話で話したとき、おばあさんが咳をしていて、声も以前より弱々しかったの。お願いだから、一緒に会いに行ってくれない?おばあさんに安心してもらえるように、私たちが仲良くしてるフリをしてでも」修はポケットに手を突っ込んだまま、「つまり、芝居をしろってことか?」と皮肉げに言った。若子は苦笑いを浮かべながら答えた。「前にも一年以上そうしてたじゃない?少し長く続けるだけよ。おばあさんのためにお願いしてるの。あなたは私に腹を立ててもいいけど、おばあさんには優しくしてあげて」修の声はさらに冷たくなった。「考えるまでもない」若子の胸が少し締めつけられる。「つまり、嫌だってこと?」修はポケットから車の鍵を取り出しながら言った。「車で送っていくよ」彼の「考えるまでもない」は、同意の意味だった。おばあさんを訪ねることに、迷いなど必要なかった。それは当然のことだった。若子はほっと息をついた。「ありがとう」「礼なんて言うな。俺は彼女の孫だ。責任を果たすだけだ。それに、お前は俺の車に乗るのか?」若子は頷いた。「ええ、乗せてもらうわ。一緒に行けば、おばあさんも喜ぶと思うから」「それなら、遠藤には説明したのか?」「もう伝えたわ。あなたは桜
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