ばあやは、さくらのもう一方の手にも軟膏を塗りながら、目を伏せた。奥様のことを話す際の悲しみを隠すためだった。「あなたが帰ってきて縁談の話が出た時、たくさんの求婚者がいらっしゃいました。数え切れないほどの権力者の家から来ていたのです」さくらは頷いた。「そのことは知ってるわ」「はい。でも、お嬢様が知らないこともあります。それはまだあなたが梅月山から戻ってこなかった頃の話です」梅田ばあやは優しく軟膏をなじませながら、ため息をついた。「その時、侯爵様......太政大臣様と若様方が戦死されたという知らせが届きました。前線に大将がいないわけにはいきません。そこで、北冥親王様が邪馬台回復の元帥に任命されたのです」さくらは手を引っ込め、自分で揉みながら目を伏せた。まつげが湿っていた。「それは全部知ってるわ。言わなくていいの」今日、父や兄のことを思い出すと、胸が痛んだ。「最後まで聞いてください」ばあやは涙をこらえた。今日は絶対に涙を流すわけにはいかなかった。「玄武様が兵を率いて出陣する前夜、確か亥の刻だったと思います。奥様はもう休まれていましたが、玄武様がお見えになったと聞いて、急いで着替えて会いに出られました」さくらは一瞬驚いたが、すぐに何かを思い出したようだった。心臓が一拍飛んだような感覚があり、声も少し震えていた。「こんな遅くに、何をしに来たのかしら?」梅田ばあやはその時のことを思い出し、まるで夢を見ているような気分だった。そして静かに言った。「玄武様は短剣と約束を持ってきたのです。邪馬台の戦場に行き、太政大臣様と若様方を殺害した将軍ヴァラとその軍隊を必ず自らの手で討つと。それを婚約の条件とし、短剣を証として、あなたとの結婚を申し込んだのです」既にある程度予想していたものの、さくらはばあやの言葉を聞いて言葉を失った。玄武が自分に求婚していたなんて。「母は承諾しなかったのね?」さくらのまつげが小刻みに震えた。梅田ばあやは答えた。「いいえ、奥様は承諾なさいました」さくらは疑問を感じた。「母が承諾したのなら、どうして後で北條守の求婚を受け入れたの?」梅田ばあやはため息をついた。「奥様が承諾なさったのは、玄武様が安心して出陣できるようにするためでした。でも奥様は、太政大臣様でさえ本当の意味で羅刹国の人々を邪馬台から追い出せなかっ
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