親王家に入ると、さくらの耳に喧騒が飛び込んできた。あちこちから祝福の言葉が聞こえ、見知った声もあれば、初めて聞く声もあった。大長公主の嫌な声も聞こえてきた。ああ、儀姫のような嫌な人物まで来ているのか。自分の結婚式が穢されたような気分だった。師兄は、客人たちの間で一番の人気者だった。新婦であるさくらの存在感を凌駕しているようだったが、さくらは気にしなかった。なぜなら、沢村紫乃がこっそり近づいてきて、さくらの手を握ったからだ。「誰だか分かる?」紫乃が囁いた。「子供っぽい!」さくらは笑いながら言った。「棒太郎でしょ」「棒太郎はあなたよ」紫乃がクスッと笑った。「棒太郎は今頃、別室に置かれてるわよ。嫁入り道具の一つなんだから」さくらも思わず吹き出した。心の中の緊張が少し和らいだ。どんな手順を踏んでいるのかよく分からなかったが、さくらはそこに立ったまま、香案を設置する音を聞いていた。香案?私と玄武が義兄弟の契りを結ぶの?なんて笑えることだろう。いや、実際はそれほど面白くないのだが、何も見えない状態だと、つい妄想が膨らんでしまう。そして、恵子皇太妃が主座に着き、天地拝礼と親への拝礼の準備をするよう呼びかける声が聞こえた。また騒がしくなり、恵子皇太妃が席に着いたようだ。誰かが、もう一つ椅子を用意するよう求めた。菅原陽雲が座り、新郎新婦に師匠への拝礼をさせるためだった。しかし、菅原陽雲はさくらの師匠だ。新婦は本来、実家で両親に別れの挨拶をしてからここに来るはずだ。どうして夫の家の礼堂で新婦が拝礼するのだろう?これは規則に反している!だが、規則に反していても構わない。皆無幹心が出て行くだろう。皆無幹心の厳しい声が響いた。「天、地、君、親、師。私は影森玄武の師匠だ。彼から一礼を受けてもいいだろう」結局のところ、万華宗の人々は、花嫁側の人間がここで拝礼を受けることを強く主張した。誰が規則なんて気にするものか?武道家にとっての規則とは、力の強い者が決めるものなのだ。皆無幹心の理屈は筋が通っていた。師匠として、彼がそこに座るのは全く問題ない。さらに皆無は言った。「師兄が立っているのに、師弟が座るのは礼に反する。都にそんな習わしがあるのか?」この反問に、皆が考え込んだ。確かに理にかなっている。そうして、菅原陽雲も椅子を得
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