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会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 681 - チャプター 690

756 チャプター

第681話 ふしだらなことを

彼は、自分が行おうとしていることは無駄で、余計入江紀美子を怒らせることになると分かっていた。だからただ彼女が1人、雨の中で不満を発散するのを見守ることしかできなかった。紀美子が立ち上がって歩き続けようとすると、森川晋太郎は首を傾げ、ボディーガードに指示した。「小原、彼女が安全に家に着くまで、ついて行け」「はい、晋様!」藤河別荘にて。紀美子は全身が雨でずぶ濡れの状態で露間朔也の前に現れた。朔也は思わず、口に飲んだばかりの牛乳を一気に噴き出した。「G、どうしたんだ、その姿?乗って行った車は?」紀美子は疲れ切った体を引きずって別荘に入った。「車は乗って帰ってこなかった。子供達は?」「2階で遊んでいるよ。竹内さんがついている」朔也は答えた。「分かったわ。ちょっと疲れたから、先に部屋に戻るね」朔也はやはり紀美子のことが心配だった。「一体どうしたんだ?何があったのか、教えてくれよ!」「頭が痛いから、聞かないで」「頭痛?!」朔也は緊張してきた。「もしかして前の傷がまだ癒えていないのか?」「お願い、ほっといて」紀美子が本当に喋りたくないのを見て、朔也は足を止めた。「何かあったら呼んで!」朔也は紀美子の後ろ姿を見て言った。「うん」夜。雨で濡れたせいか、紀美子はかなりの熱が出ていた。朔也は紀美子のことが心配なようで、時々入ってきて彼女の状況を確認していた。紀美子が熱が出ているのに気づいた彼は、慌てて彼女を病院に連れていった。病院に着き、点滴を受けてから、朔也は思い出した。今晩紀美子は、杉浦佳世子と一緒に出かけていた。彼は暫く考えてから、佳世子に電話をかけた。随分経ってから電話が繋がった。「朔也?こんな夜中に電話をしてくるなんて、なんかあった?」「佳世子、紀美子は今日何があったか教えてくれ」朔也は真顔で聞いた。「彼女は雨で全身びしょ濡れの状態で戻ってきた、今熱が出ていて病院で点滴をしている!」「何?!熱?!どの病院にいるの?!今はどうなってるの?」朔也は病院の場所を彼女に教えた。30分後、佳世子と田中晴が慌てて病院の緊急診療室に来た。紀美子が目をきつく閉じたままでベッドに寝ているのを見て、佳世子は思わず眉を寄せた。隣に座ってい
last update最終更新日 : 2024-11-30
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第682話 濡れ衣を着せる

「もしも、森川次郎が自分がそんな病気にかかったと分かっていて、人に復讐しようとしたなら、その可能性は高い……」「問題は、彼は分かっていないということ」田中晴が余計なことを口走った。「もういいわ、あなた達男は、皆自分のことしか考えていない!」露間朔也はいきなり立ち上がった。「晋太郎に会って来る!クソが!マジで見ていられない!」晴は慌てて朔也を止めた。「彼と喧嘩する気か?」「いけないのか?」朔也は頭にきた。「あいつは何をもって紀美子が外でふしだらなことをしたと判断しているのだ?!」晴は困った。「言ったろ?晋太郎はそんなことを考えていないって!彼はただ、紀美子がうっかり感染されるのを心配していただけだ!」「今更もうそんな屁理屈は通用しない!」「屁理屈何かじゃない!」晴は堪忍袋の尾がそろそろ切れそうにだった。「彼は俺の親友だ、俺は彼のことを一番知っている!彼がどれほど紀美子を愛しているのか、君たちは分からないかもしれないが、俺はよく分かっている!立場を換えて考えてみろ。君たちは、自分が愛する人の心配はしないのか?」佳世子と朔也が黙り込んだ。森川家旧宅にて。狛村静恵は体の痒みで目が覚めた。彼女は慌てて体を起こし、電気をつけて胸の状況を確かめた。皮膚の一部が赤く発疹していた。静恵は一瞬で頭皮まで痺れたかのように焦った。何これ?!彼女は爪で掻いたが、掻けば掻くほど痒みが増してきた。「静恵?」次郎の声が彼女の後ろから聞こえてきた。「どうしたんだ?」静恵は驚いて、慌てて服を閉めた。「な、何でもないわ。ちょっとトイレに行ってくるね!」「分かった」静恵はベッドを降り、トイレに入った。ドアを閉めてから、彼女は全身の服を全部脱いだ。しかし、胸元と太ももの根元以外、赤く発疹するところは見当たらなかった。そうと言っても、発疹しているところの痒みは我慢できるものではなかった!きっと、何かを間違って食べた物によるアレルギー反応だ!静恵は絶えず自分を慰めるが、体の痒みは一向に収まらなかった。明日朝一病院に行かないと、このままでは怖すぎる!静恵は一晩我慢した。彼女は早起きをして病院に向おうとした。また起こされた次郎は、不満げに文句をこぼした。
last update最終更新日 : 2024-11-30
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第683話 会いに出てきて

そう言って、森川次郎は服を着て部屋を出た。狛村静恵は唖然としたまま、その場に立ち尽くした。次郎はどうやって、彼女が発疹したことが分かったのか?ひょっとして昨晩ベッドで会話していた時に見られたのか?それ以上考えるのをやめ、彼女はバッグを持って病院に向った。病院に着いて、静恵は一連の検査を受けた。検査結果が出て、医者は重々しい顔で彼女に知らせた。「あなたは、HIVに感染しています」「HIV?」静恵は戸惑った。「それはどんな病気ですか?」医者は意味深く彼女を見て、口を開いた。「つまり、エイズです」その知らせは、静恵にとって青天の霹靂だった。あまりのショックで、彼女は暫く言葉を失った。「早めに抗ウィルス治療を受けた方がいいです」医者が勧めた。静恵は顔が真っ白になった。「な、治せるのですか?」「今は完全に治すことはできません。長期に渡る抗ウィルス治療を受けるしかありません」医者の声が、彼女の耳元に繰り返して響いた。何故自分はエイズなんかにかかったのだろう?!「先生、エイズって、潜伏期間はありますか?」「あります」医者は説明した。「数年や十数年後に発症する人もいれば、かかってすぐ症状が現れる人もいます」静恵はまるで体の気力が抜けたかのように弱まった。まさかエイズのウィルスが、自分の体の中でかなり長く潜伏していたのか?!自分を抱いていた男達に移されたのか?!次郎にはどう説明すればいいのか?そこまで考えると、静恵はまた医者に尋ねた。「性行為をした相手なら、全員が感染するのですか?」「高い確率で感染します」「……」病院から出て、静恵は落ち着かないまま車に戻った。彼女はどう説明したらいいのか。一旦エイズにかかったら、自分がどんなに頑張って隠そうとしても、最終的には次郎にバレてしまう。どうしよう?どうしたらいいのよ?!!静恵は精神崩壊したかのように、車の中で笑ったり泣いたりしていた。何故こんなことが自分に起きたのだろう。なぜ運命はこんなにも不公平なんだろう。同じ孤児院の出身なのに、なぜ自分だけ苦難が相次ぎ、入江紀美子はあんないい人生を送っているのだろう!このままでは悔しすぎる!静恵は車のハンドルを強く握りしめながら
last update最終更新日 : 2024-11-30
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第684話 局外に立つなんて許さない

狛村静恵は彼女の背中を見つめながら、口元に陰湿な笑みを浮かべた。当時彼女を助けてよかった。でないと今は本当に使う手先がいなくなる!松沢楠子と出会ったのは、彼女が海外で交通事故に遭った妹を助ける時だった。当時の病院では、同型の血液のストックが切れかけていた。途方に暮れた楠子は、偶然静恵に出会った。あの時の静恵はちょうど、とある金持ちの治療に付き合っていた。静恵は自分の優しさを見せつけるために、楠子と血液の照合をした。まさかあろうことか、静恵の血液は楠子の妹と完璧にマッチしていた!輸血をした後、静恵は楠子に、妹を助ける為の大金を渡した。しかし、その妹は結局助からなかった。まったく、金と血の無駄だった!だが、良いこともあった。静恵のその挙動に金持ちが感動したようで、巨額の金を渡してきた。それらを思い出すと、静恵は更につらくなった。影山先生などいなかったら、彼女は帰国などしなかった!今の窮地に陥ることもなかった!影山先生がすべての元凶と言っても過言ではない!静恵は自分の指をきつく噛んだ。死ぬなら、お前達全員を道連れにしてやる!!森川家旧宅にて。静恵が別荘に戻ると、次郎はリビング父と話していた。彼女は素早く眼底に浮かんでいた嫌悪を隠し、代わりに優しそうな笑みで挨拶した。「次郎さん、ただいま」次郎と森川世典が同時に静恵の方を見た。「お父様、ちょっと静恵に話があるので、これで失礼する」「分かった、行ってよい」2人は部屋に戻った。静恵はいきなり次郎の懐に飛び込み、問答無用にキスで彼の口を塞いだ。次郎の眉間嫌悪が浮かび、彼女を押しのけた。「何をする?」静恵は可哀想に次郎を見つめた。「次郎さん、何で私を押しのけたのよ?」「医者は何か言っていたか?」次郎は警戒して静恵に聞いた。「ただの蕁麻疹よ、特に問題はなかった」静恵は涼しい顔で答えた。「信じていいんだろうな」「本当だって。これからの人生を一緒に歩むのだから、嘘をついてもいずれバレるわ。医者さんは、春の空気が湿りすぎていて、蕁麻疹が発疹したと言っていたわ」次郎の深く寄せていた眉が解かれた。「俺を騙したらどうなるか、分かってるよな」「もちろん、分かってるわ」静恵は再び次郎に
last update最終更新日 : 2024-11-30
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第685話 心配し過ぎだ

入江紀美子は頑張って体を起こした。「あなたがここにいたら、会社はどうするの?」「ちゃんと引継ぎをしてきた。あなたが起きたら戻るつもりだったんだ。今日はゆっくり休んどいて」露間朔也は紀美子に説明した。「ダメよ」紀美子は首を振り、「午後には会議がある」と言った。「大丈夫だ、俺が出る」朔也は紀美子の枕を直しながら言った。「今会社の状態は安定してるし、売上も日に日に伸びている」紀美子は朔也を見つめ、そしてクスっと笑った。「随分と余裕があるじゃない」「まあまあだな」「でもやっぱり工場の方を見ておいてもらいたいの。もしまた前回のような火事が起きたら終わりよ」「ちゃんと火の用心を注意しておいた、それに、ボディーガードに見張り役を頼んでおいたよ!」「楠子は今日会社にいる」紀美子はやはり心配していた。「とにかく、会社の仕事は全部指示してあるので、心配無用だって!」もう出社する理由がなくなった紀美子は、大人しく静養することにした。昼頃。田中晴は森川晋太郎に会いにMK社に来た。彼は紀美子が熱が出たことを晋太郎に教えた。「あなた達、昨夜は一体どんな酷い喧嘩をしたんだ?紀美子はそのせいで熱も出てたし」晋太郎は書類の山から頭を上げ、眉を寄せた。「熱?今病院にいるのか?」晴は頷いた。「そうだよ。昨夜の話によると、体温が一度40℃を超えていて、意識があやふやになっていた」晋太郎はすぐ手に持っていたペンをおき、コートを持って出ようとした。「紀美子に会いに行くのか?」晋太郎は足を止めようとしなかったが、晴はまた口を開いた。「今の紀美子はあなたに会いたいと思うか?」晋太郎は足を止め、暫く考えてから口を開いた。「たとえ彼女が俺に会いたくなくても、彼女を1人で病院に残すことはできない!」「やめろ、彼女は熱が引いたばかりだ。あなたが行ってまた喧嘩になって具合が悪くなったらどうする?一体何を考えているんだ?こっそり検査してたらよいものを!」「俺が間違ってたとでも?」晋太郎は振り向いて、低い声で晴に聞いた。「そうじゃないけどさ、ただ、やり方が荒すぎてちゃんと紀美子の気持ちを考えていなかったことが良くなかった」晴は説明した。晋太郎の顔が更に曇ってきた。「ずっと心配し
last update最終更新日 : 2024-12-01
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第686話 手術とは関係がありそうだ

「そんなこと、私が起こらせるとでも?」森川晋太郎はあざ笑いをした。「ちゃんと準備してから行くに決まっている」「女一人の為に実の父親を監獄に入れるなんて、そんなことができる人間はあなたしかいないよ」田中晴は感嘆した。「父親、だと?」晋太郎の眼底に凍てつくほどの冷たさが漂った。「あんな奴は、父親と呼ばれる資格はない!」晴は絶句した。その話はあながち間違っていなかった。森川貞則は晋太郎に対して、本来父親にはあるべき愛情が全くなかった。彼は晋太郎を利用するばかりだ!今、森川次郎もMKに入ってきて、彼は将来晋太郎に取って代わる存在になるだろう。晴は心の中で自分の親友を心配した。病院の外にて。渡辺瑠美は塚原悟が車に乗り込んだのをみて、慌てて彼を尾行した。暫く走ると、悟はとある路地裏で車を止めた。瑠美も車から降りようとする時、路地裏から帽子の被った男が現れてきた。悟はその男に何かを言うと、男はすぐに頷いた。そして、二人が路地裏の奥に入って行った。瑠美は素早く車を降り、続けて悟を尾行した。2人の男は古ぼけた雑居ビルに入ったのを見て、瑠美は現在地を渡辺翔太に送信し、彼らの後について階段を登っていった。ビルの中はゴミだらけで、酷い匂いがしていた。何故塚原悟のようなきれい好きな男がこんな所に来たのか、瑠美は理解出来なかった。暫く階段を上り詰めると、瑠美は手すりの隙間から上を見上げた。2人の男の足音が止まり、ドアが開かれる音がした。瑠美は音の大きさを弁別していると、ドアが閉められたので、彼女は姿勢を低くしてドアの前に来た。そして彼女はカバンから盗聴ツールを取り出し、ドアにくっつけて中の様子を探った。しかし中からは人が話声が一切出てこなかった。聞こえたのは微かにキーボードを叩く音だけだった。約数分後、悟の声が聞こえてきた。「これだけではまだ物足りない、もっと面積を広げて、もっと分布範囲を大きくする必要がある」面積?分布?何のことなんだろう。「分かりました、後何かご指示ありますか?」「とりあえずこれくらいだ」そして、また足音がしたので、瑠美は素早く盗聴器を仕舞い、廊下へと走った。すると悟が部屋から出てきたので、瑠美は彼がビルを出てから降りて行った。
last update最終更新日 : 2024-12-01
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第687話 報告を忘れました

 「3人じゃなくて?」松沢楠子は戸惑った。「バカなの、あなたは?!晋太郎の子に手を出したら殺されるじゃない!私はまだ死にたくない!」狛村静恵は楠子を罵った。「晋太郎と紀美子との関係は普通じゃない。あなたが彼女の子供に手を出して、もし彼にバレたら、きっと彼に怒られる」楠子は静恵に注意した。「もうそこまで構ってられないわ!」静恵は歯を食いしばった。「佑樹のガキが私に恥をかかせた。死んでもらうしかない!」楠子は黙って静恵を見つめた。彼女から見ると、静恵は恐らく心理的な問題があった。しかしその話は、彼女は口に出来なかった。静恵と分かれてから、楠子は会社に戻った。入江紀美子の体調は大分回復したようで、既に会社に戻ってきていた。楠子は書類を持って紀美子を訪ねた。ノックして事務室に入り、楠子は書類を紀美子に渡しながら、「社長、この書類をご覧ください」と言った。紀美子は書類を受け取り、中身を確認した。「社員教育?」楠子は頷き説明した。「今の秘書室のメンバーの能力はまだ足りていなくて、社員教育が必要です」紀美子は笑って、「君、随分と仕事熱心だね」と褒めた。「ありがとうございます。」紀美子は書類にサインした。「経費なら財務の方に伝えておくけど、教育は何回かに分けて行うこと。でないと、皆がいっぺんに出かけて会社は人手不足になりかねないから」「私ひとりでも暫くはもてるはずです」楠子は言った。紀美子は微笑んで、「そんなに頑張ってたら、体が疲れるじゃない?」と聞いた。「大丈夫です、HRにいる頃よりは随分と楽です」「なら、しばらくはよろしくね」楠子が出た後、紀美子の笑顔が消えた。彼女は楠子が他の秘書を遠ざけて何をしようとしているのか分からなかった。相手が既に動きを見せているのなら、彼女も警戒する必要があった。紀美子は、楠子の真の目的を掴むには、自分があまりに目立って行動してはいけないと分かっていた。彼女は暫く考えてから、露間朔也にメッセージを送った。「楠子が秘書達を社員教育に出したいと言ってるけど、私は何回かに分けてやるように伝えたわ」すぐ、昨夜からの返事があった。「何で急に社員教育とかやるんだ?その秘書達はどれもトップクラスの人材だったはず」「彼女
last update最終更新日 : 2024-12-01
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第688話 子供の方が大事

「ゆみちゃん、お兄ちゃんはもうすぐ終わるから、あとで遊んであげるね」入江ゆみは、パソコンの画面に映っているわけのわからないコードを見て、ため息をついた。「もうすぐゆみがあなた達と遊ぶ時間がなくなるのに、遊んでくれないなんて酷いわ」ゆみは不満をこぼした。「何で遊ぶ時間がなくなる?」森川念江は聞いた。「周りにいたずらっ子がいなくなったら、いいことじゃない?」入江佑樹も振り向いて、妹をからかった。「お兄ちゃんのバカ!自分がどんな酷いことを言っているか分からないの?」「酷いことなんか言ってないよ、時間がなくなるなんて、どこにいくつもり?家には毎日戻ってくるだろ?」ゆみは怒ってそのまま床に座り込んだ。「お母さんは、ゆみを修行に送り出すと言ってたよ!」「修行って?」念江は呟いた。「確かに芸術類の習い事なら、ゆみに合いそうだ」「彼女が?」佑樹はあざ笑いをした。「ゆみの音楽の感覚最悪だぞ」「じゃあ、絵を描くのも悪くない」「勘弁して、彼女が描いたネコが、ネズミにしか見えない」「じゃあ、楽器とか?」「ゆみはリズム感が全くないし」「ダンスは?」「リズム感が全くないと言っただろ?」「……」念江はもうそれ以上の習い事が思いつかなかった。「酷い!」ゆみは小さな拳を握り緊めて言った。「お兄ちゃんのバカ!今日はこの拳で痛い目に合わせてあげる!」ゆみは手を上げて佑樹を殴ろうとしたが、佑樹は防御の姿勢をとり、殴り返そうとせず、怒ってもいなかった。「分かった、分かった!」佑樹は妹を慰めた。「今は本当に忙しいから、後でアイスクリームを買ってあげる」ゆみは先ほどの騒ぎで疲れていて、荒い息をしながら兄に確かめた。「本当に忙しいの?ゆみに黙って二人で遊んだりしていない?」念江は慌ててゆみに説明した。「本当だよ、ゆみ、とても大事なことをしているんだ」ゆみは諦めた。「そう。分かったわ……」そう言って、ゆみは部屋を出ようとした。出る前に、ゆみはもう一度2人を見ると、彼達はまたパソコンに注目していたので、彼女はそのまま出ていった。ゆみは庭に出て、森川晋太郎が買ってくれた携帯を出して、ボイスメッセージを送った。「お兄ちゃんたちが遊んでくれない……」晋太
last update最終更新日 : 2024-12-01
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第689話 秘密

森川晋太郎は藤河別荘に着いた。車を降りようとすると、電話が鳴った。森川次郎の電話番号を見て、晋太郎の顔色は一瞬で曇った。あまり考えずに、彼は電話を切った。しかし車のドアを開けたばかり、次郎の電話がかかってきた。晋太郎は苛立ってきて、電話に出た。「貴様、死にたいなら俺が殺してやる!」「晋よ、俺達はもう同僚になって大分経ってるのに、まだそんなに怒ってるか?」「俺の怒りは、貴様がくたばるまで収まらない!」晋太郎は怒鳴った。「そうか」次郎は笑って聞かせた。「俺が言いたいのは、会社の管理層がお前の態度に相当な不満を抱えているということだ」「だったら何なんだ?」晋太郎は聞き返した。「本当に自分の気持ちを制御できないな、晋。このままだといずれ全てを失ってしまうよ」「黙れ!」晋太郎は怒り狂いそうになった。「失せろ、二度と言わせるな!」「失せてどうする?俺は、お前が少しずつ握っていた権利を失うのを、見届けたくて仕方がない。忘れるなよ。あの日お前が父の前で跪いた無様な姿、俺はもう一度見たいんだ」「貴様!」晋太郎は歯を食いしばった。「死にたいのか?」「そうさ!」次郎は陰湿な笑みを浮かべた。「お前が殺しに来るのを待っている。がっかりさせるなよ!」晋太郎は電話を切ったが、瞳の中は怒りの炎に満ちていた。隣の杉本肇は見ていられなかった。「晋様、あんなクズに怒る必要はありません、そいつは今もう薬漬けになっていますから」晋太郎は拳を握り緊めた。「奴が今担当しているプロジェクトはあと何がある?」「数日前、とある遊園地の再建のプロジェクトを引き受けたそうです……」晋太郎は一瞬で目つきが鋭くなり、脳裏に母が墜落事故に遭った時の惨状が浮かんできた。彼はまるで胸がナイフに刺されたかのように、痛くて窒息しそうなった。次郎がそのプロジェクトを引き受けたのは、自分への復讐に違いない!絶対に彼の思うつぼにさせてはならん!「全力で奴を阻止しろ」晋太郎は冷たい声で指示した。「晋様、会社のハンコですが、ずっと引きずっていると、資金の損耗になりかねません!」肇は晋太郎に注意した。「何故MKキャッシュフローを使う必要があるんだ?」晋太郎は目を細くして言った。
last update最終更新日 : 2024-12-02
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第690話 連れていかれた

この間、森川晋太郎はその御守で入江紀美子とちょっとした喧嘩になっていた。「ゆみちゃん、それ外した方がいいと思う。変な細菌がついているかもしれないし、ネックレスが好きなら、俺はもっといいのを買ってあげるから」晋太郎は眉を寄せながら、ゆみに言った。「嫌だ!」ゆみは彼を断った。「ゆみはこれが好きなの、これをかけたら夢を見てたの!」「夢?どんな夢?」「仙人のお姉さんと、とてもきれいなおばさんがゆみと遊ぶ夢だよ!隣にワンちゃんもいたの!真っ白な毛並みで、とても大人しくて可愛いワンちゃん!御守をつけたら夢を見るなど、晋太郎は不思議に思った。「よくその夢を見てたのか?」晋太郎は続けて聞いた。ゆみは頷いた。「この御守をつけてからね、ゆみは毎日その夢を見るようになったんだ!今でもはっきり覚えてるの!ただ……その仙人のお姉さんがおばさんが言っていた話、ゆみはよく分からなかったの……」晋太郎から見れば、ゆみが言っていることはあまりにも突拍子だった。だが、ゆみが楽しんでいるのを見て、彼はそれ以上何も言わなかった。ただ、ゆみがあの人の弟子になること、何故入江紀美子が自分と相談しなかった?たとえ自分がまだ子供の父親の身分で彼女とゆみのことを相談していないとしても、彼女の独断でこんなにも簡単に決め手はいけない!いかんせんそれはゆみの将来に関わる事情だから!藤河別荘にて。昼ご飯の時間になったので、竹内佳奈が子供達を呼びに2回に上がった。部屋に入って、佳奈は入江佑樹と森川念江に「お昼だよ」と呼んだ。そして、佳奈はゆみがいないことに気づいた。勇気と念江も驚いて佳奈を見た。「ゆみ、下にいなかった?」佑樹は緊張してきた。「庭は?」念江も心配してきた。ことの重大さに気づいた佳奈は、慌てて降りてボディーガード達に確かめに行った。佑樹と念江も彼女の後ろについておりてきた。佳奈はボディーガードに、「ゆみちゃんを見なかった?」と尋ねた。「見ました、先ほど森川社長が連れていきました」ボディーガードは頷いて答えた。「森川社長って?晋太郎さんのこと?」「はい」その返事を聞いて、佳奈はほっとした。「なんだ、連れていくのなら教えてよ」そう言って、彼女は別荘に入った。佳奈が
last update最終更新日 : 2024-12-02
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