All Chapters of 会社を辞めてから始まる社長との恋: Chapter 661 - Chapter 670

晋太郎の言葉は、紀美子の頭の中をさらに混乱させた。彼女は視線を戻し、黙って考え込んだ。果たして、自分は準備ができているのだろうか？突然、冷たい風が吹き、地面のバラが揺れ、ほのかな香りを放った。紀美子の心も少しずつ落ち着いていった。彼女は視線を上げ、山の麓に広がる無数の灯りを見た。自分にも、自分のために灯してくれる灯りが必要だ。その時、紀美子の心のざわめきが突然静まった。自分は彼が好きだ。この感情のために、もう一度真正面から受け入れてみよう！紀美子は目線を上げ、晋太郎を見つめながら落ち着いた声で言った。「私……」「紀美子！」言葉が続く前に、佳世子の声が彼女を遮った。紀美子がせっかく振り絞った勇気は、佳世子によって消されてしまった。彼女は仕方なく佳世子を見つめ、「どうしたの？」と尋ねた。「晴が温かい飲み物を用意してるよ。少し体を温めない？」そう言いながら佳世子はどこからか持ってきたリュックをいじっていた。紀美子も少し寒さを感じ、頷いて言った。「いいよ」「君は座ってて、俺がやるから」晴は言った。言い終わると、晴はカップを取り出し、みんなに暖かいお茶を注いだ。四人にそれぞれ渡した後、晴は佳世子を引き連れて紀美子と晋太郎の隣に座り、手を挙げて言った。「さあ、これをもって乾杯しよう。未来もこんな素晴らしく静かな生活が送れるように！」四人はカップを上げて乾杯した。一口お茶を飲むと、寒気が追い払われ、紀美子は全身が楽になった。佳世子は茶碗を抱え、明るく輝く街を見ながら感嘆の声を漏らした。「毎日こんな楽しい日だったらいいのに……」紀美子は微笑み、「そうだね、毎日こんな風だといいよね」と言った。生涯を共にする、ただ一人。喧嘩もなく、ぶつかることもなく。白髪になるまで、ただ互いに支え合う。しかし、この時の紀美子は、こんな夜が今後長い間訪れないことを知りもしなかった。下山した後、紀美子と佳世子は子供たちと合流し、先に部屋に戻った。晋太郎と晴は、バーで酒を飲んでいた。晴は疲れ果てた様子で椅子に寄りかかり、指輪の箱をいじっていた。「はぁ、未だにこの指輪を佳世子に渡せていない」晋太郎は黙って考え込んでいた。「晋太郎」晴は指輪の箱を置き

執事は困った表情で言った。「静恵さん、私を困らせないでください。家には子供もいますし、仕事を失ったら生活できなくなります」静恵は目を真っ赤にしていた。「本当に助けてくれないの？これから誰がこの家を仕切るのか、よく考えて？」彼女は優しく言っても通用しないと感じて、口調を変えた。執事は微笑んで言った。「静恵さん、これから誰がこの家を仕切るのかは、まだ分からないじゃないですか」そう言った後、執事は水差しを手に取り、静恵のカップに水を注いだ。静恵は恐怖に満ちた目で見つめ、カップの水が溢れて彼女の手に流れ落ちるまで見続けた。執事は「親切心から」笑いながら注意を促した。「静恵さん、カップを床に落としてはいけませんよ。これは旦那様が一番好きなコレクションなんですから」熱い水が流れ、痛みに耐えきれず、静恵はいっそのこと自分を突き刺したい気持ちになった。彼女は憤怒の表情で執事を見つめ、歯を食いしばりながら言い放った。「こんな風に私に接するなら、あなたは報いを受けるわよ！！」執事はニコニコしながら、何も返事をしなかった。12時半。次郎が帰ってきたので、執事はようやく静恵を上の階に上がらせた。静恵は、火傷で水ぶくれだらけになった手を見つめながら、心の中で怒りを募らせた。あの執事には絶対に楽をさせない。森川爺にも、そして──紀美子にも！彼女が！彼女の存在が、すべてをめちゃくちゃにしたのだ！自分が受けたこの苦しみ、すべて紀美子に返してやる！静恵が薬を塗ろうとしているところに、次郎が外から扉を開けて入ってきた。静恵が赤く腫れた手を半分上げているのを見ると、次郎の目に一瞬の驚きが浮かんだ。そしてすぐに理解した。静恵は次郎を見て、涙が止まらなくなった。「次郎……」静恵は泣きながら呼びかけた。次郎の目には苛立ちの色が一瞬浮かんだが、すぐに隠した。彼はドアを閉め、静恵の前に優しく歩み寄り、「静恵、その手は自分でうっかり火傷しちゃったのかい？」と尋ねた。静恵は驚いた。「違……」「どうしてそんなに不注意なんだ？」次郎はため息をついた。「薬を塗ってあげるから、泣かないでね」静恵は呆然と彼を見つめた。「次郎、あなたは……」「大人しくしてて」次郎は棚のそばに

午後。紀美子が水着に着替えていると、真由から電話がかかってきた。紀美子は佳世子に向かって言った。「佳世子、先に子供たちを連れて遊びに行ってて。ちょっと電話に出るから」佳世子はOKのサインを作り、ゆみの手を引いて言った。「ゆみ、兄さんたちが着替え終わったか見に行きましょう」そしてゆみは佳世子に続いて更衣室を出た。紀美子は真由の電話を受けた。「紀美子、外で楽しんでる？」通話が接続されると、真由が尋ねた。紀美子はソファに座りながら言った。「楽しいよ。叔母さんは何をしてるの？」「おじいちゃんに食べ物を持って行く準備をしているの。最近、体調があまり良くないから」真由は答えた。紀美子は少し黙った。「叔母さん、迷惑をかけてごめんなさい」真由は優しく言った。「あなたはそんなことを気にしなくていいの。家族だからね。おじいちゃんがやらかしたことは、あなたには関係ないわ」「叔母さん、今日は私に何か用事があるの？」紀美子は尋ねた。真由は軽くため息をついた。「お兄ちゃんが外に出て行ったみたいなの。おじさんから聞いたんだけど、以前入札に参加していた人を探しに行ったみたい」紀美子は驚いて焦った様子で言った。「彼は一人で行ったの？」「そうよ」真由の声には心配が滲んでいた。「聞いたところによると、この件は森川家の方と関係があるみたい」「森川爺と関係があるの？確実なの？」紀美子は驚いて言った。「まだ確定ではないから、お兄ちゃんが直接聞きに行くことにしたようなの」真由は答えた。「彼はいつ行ったの？」紀美子は尋ねた。「昨晩よ。今は電話も通じないの。紀美子、あなたも彼に連絡してみてもらえる？」真由は言った。「私も電話をかけてみるから、焦らないで」紀美子は言った。「ごめんね、紀美子。あなたの旅行に影響を与えたくなかったんだけど、お兄ちゃんが心配だから」真由は謝りながら言った。「心配しないで、叔母さん。後で連絡するわ」「分かった」通話を切った後、紀美子は急いで翔太の番号を押した。しかし、最初の呼び出しは通じなかった。紀美子は再度かけ直した。しかし、返ってくるのは冷たい自動音声のメッセージだった。紀美子は不安で落ち着かず、心配でたまらな

「もし確かな証拠があったら、どうする？」紀美子は尋ねた。「法的に処理する」晋太郎は言った。「でも、もしこれで俺を拒否するなら、それは俺にとってあまりにも不公平じゃないか？」「何が公平なの？」紀美子は反論した。「仇敵の息子を受け入れろって言うの？私の気持ちを考えたことある？」理性を失った紀美子を見て、晋太郎は冷たい表情を浮かべた。「とりあえず今は落ち着いて！」「落ち着けない！」紀美子は続けた。「目の前に事実があるのに、あなたなら落ち着いていられるの？」晋太郎は黙り込んだ。紀美子は冷笑した。「見て、誰が相手でも受け入れられないよ！私は帰る！」そう言って、紀美子は温泉エリアへ向かって行った。彼女の背中を見つめながら、晋太郎は緊張した表情で携帯を取り、肇に電話をかけた。すぐに肇が電話に出た。「紀美子の父の件はどうなっている？」晋太郎は冷たく言った。肇が言った。「晋様、ちょうどこの件について報告しようと思っていました。当時の入札に関わった人たちを探していると、渡辺様の人に出会いました。彼らの話によると、紀美子さんの父の死は森川爺に関係している可能性が高い……」晋太郎の表情は冷たくなった。「調査を続けろ。確かな真実を知りたい！」「はい、晋様」肇は言った。森川家の旧宅。森川爺は昼寝をしようとしていたところ、突然電話がかかってきた。見知らぬ番号を見て、森川爺は疑問を抱きながら電話に出た。「どなたですか？」「私です」相手が言った。「武田力也です、森川さん。あの時あなたから金を受け取り、富裕層の入札を撤退させた武田力也です」「力也？」森川爺は目を細めてしばらく考えた後、思い出した。「ああ、お前か。何か用か？」「森川さん、さすがにお忘れっぽいですね。当時、私に頼まれたことがありました。もし誰かが私に入札について聞いてきたら、必ずあなたに知らせるようにと」力也は言った。その言葉を聞いて、森川爺は急に背筋を伸ばした。「誰かがお前に尋ねたのか？」「はい。相手は何者か言っていませんが、少し力のある者のようです」力也は言った。森川爺は警戒の色を浮かべた。「この件はどうするべきか、お前はわかっているはずだ。お金は問題な

ボディーガードが紀美子の前に来て言った。「紀美子さん、外に小林楠子という方が来ています」紀美子は一瞬驚いた。楠子？彼女がどうして来たの？紀美子は立ち上がった。「早く彼女を入れて」そう言って、紀美子はキッチンに向かい、ジュースを注いで戻ると、楠子はすでに子供たちと挨拶を交わしていた。紀美子はジュースを持って近づいた。「楠子、どうしたの？」楠子は手に持ったギフトボックスを見せながら振り返った。「社長、新年明けましておめでとうございます。少しお土産を持ってきました」紀美子は楠子の手にある袋を見て笑い、「プレゼントなんて、ただ遊びに来てくれればいいのに」と言った。「社長、他人の家に訪問する際には、何かを持参するのが基本の礼儀です」楠子は真顔で言った。紀美子は楠子の性格を知っていた。自分が遠慮すると、楠子はずっと強情を張り続けるだろう。紀美子は仕方なく果物を受け取った。「それじゃ、ありがとう」「どういたしまして」楠子は言った。「あなたのおかげで、たくさんお金を稼ぎました」紀美子はジュースを差し出す手が止まった。「あなたの言葉は本当にストレートね……」「まあ、そうですね」楠子は淡々と答えた。「座って」紀美子は言った。「はい」楠子が座ると、紀美子はジュースを彼女の前に置いた。「あなたも、新年明けましておめでとう」楠子は頷き、ジュースをゆっくりと飲んだ。もともと会話が得意でない楠子がいることで、雰囲気はぎこちなくなった。紀美子が少し居心地が悪く感じていると、ちょうど朔也が外から入ってきた。楠子を見て、彼は少し驚いた。「小林部長！」楠子は立ち上がり、朔也に挨拶した。「副社長」朔也は丁寧に手を振った。「家の中ではそんな呼び方はやめて。早く座って。冷蔵庫に、子供たちのために買ったケーキがあるから取ってくるよ！」そう言って、朔也はキッチンに向かった。しばらくすると、彼はたくさんの食べ物を抱えて出てきて、楠子の前に置いた。楠子は面食らった。一人ではこんなにお菓子を食べきれない……「小林部長、遠慮しないで、自由に食べて！」朔也は熱心に歓迎していった。楠子は瞬きをするだけで、黙っていた。紀美子は朔也を見て、仕方