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第665話 まだ調査中
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会社を辞めてから始まる社長との恋 第666話 直接聞きに行く
午後。紀美子が水着に着替えていると、真由から電話がかかってきた。紀美子は佳世子に向かって言った。「佳世子、先に子供たちを連れて遊びに行ってて。ちょっと電話に出るから」佳世子はOKのサインを作り、ゆみの手を引いて言った。「ゆみ、兄さんたちが着替え終わったか見に行きましょう」そしてゆみは佳世子に続いて更衣室を出た。紀美子は真由の電話を受けた。「紀美子、外で楽しんでる？」通話が接続されると、真由が尋ねた。紀美子はソファに座りながら言った。「楽しいよ。叔母さんは何をしてるの？」「おじいちゃんに食べ物を持って行く準備をしているの。最近、体調があまり良くないから」真由は答えた。紀美子は少し黙った。「叔母さん、迷惑をかけてごめんなさい」真由は優しく言った。「あなたはそんなことを気にしなくていいの。家族だからね。おじいちゃんがやらかしたことは、あなたには関係ないわ」「叔母さん、今日は私に何か用事があるの？」紀美子は尋ねた。真由は軽くため息をついた。「お兄ちゃんが外に出て行ったみたいなの。おじさんから聞いたんだけど、以前入札に参加していた人を探しに行ったみたい」紀美子は驚いて焦った様子で言った。「彼は一人で行ったの？」「そうよ」真由の声には心配が滲んでいた。「聞いたところによると、この件は森川家の方と関係があるみたい」「森川爺と関係があるの？確実なの？」紀美子は驚いて言った。「まだ確定ではないから、お兄ちゃんが直接聞きに行くことにしたようなの」真由は答えた。「彼はいつ行ったの？」紀美子は尋ねた。「昨晩よ。今は電話も通じないの。紀美子、あなたも彼に連絡してみてもらえる？」真由は言った。「私も電話をかけてみるから、焦らないで」紀美子は言った。「ごめんね、紀美子。あなたの旅行に影響を与えたくなかったんだけど、お兄ちゃんが心配だから」真由は謝りながら言った。「心配しないで、叔母さん。後で連絡するわ」「分かった」通話を切った後、紀美子は急いで翔太の番号を押した。しかし、最初の呼び出しは通じなかった。紀美子は再度かけ直した。しかし、返ってくるのは冷たい自動音声のメッセージだった。紀美子は不安で落ち着かず、心配でたまらな
会社を辞めてから始まる社長との恋 第667話 不条理
「彼らはあなたに無理やりお酒を飲ませたの？」紀美子は尋ねた。「逆に、俺が彼らに無理やりお酒を飲ませたんだ」翔太は言った。紀美子はため息をつき、「それで、何か見つけたの？」と尋ねた。「紀美子、このことは帰ってから話そう。今は楽しんで過ごして」翔太の声には少し重みがあった。紀美子は突然「ドキッ」とした。彼女はソファの端を強く握りしめ、声が震えた。「兄さん、まさか、森川爺が関わっているの？」「紀美子、緊張しないで」翔太は喉を鳴らして言った。「あの人たちが森川爺に脅迫されたとしても、俺たちの父が彼によって殺されたと直接確定することはできない」「脅迫されたってどういう意味？」紀美子は戸惑いながら尋ねた。「当時の入札で、あの人たちは森川爺に脅迫されて撤退させられたと言っていたんだ」翔太は言った。脅迫……紀美子は瞬時にどのような脅迫だったのかを思い浮かべた。少しの沈黙の後、紀美子は再び尋ねた。「あなたも私と同じように、このことが森川爺と無関係だとは思えないの？」「紀美子、俺たちには証拠がない。彼らは証人ではないから、口頭だけでは何も証明できない」翔太は答えた。紀美子は唇をしっかりと閉じ、息を吐いた。「……わかった。あなたが帰ってくるのを待つ」「うん」電話を切った後、紀美子は力なくソファに座った。森川爺と父が参加した入札は郡安区のものであった。そこはかつての富裕層の地区で、権力者が数多く存在していた。森川爺は人脈を築くために、郡安区の再建プロジェクトを手に入れようとしていたのだろう。野心を満たすために、彼は本当に何でもできることはやってのける！彼女の心には一つの思いだけが残っていた——絶対に森川爺が父を殺したのだ！彼以外に誰もいない！そう考えていると、突然携帯の音が更衣室の静けさを破った。彼女はびくっとして、携帯に目を向けた。晋太郎からの電話だとわかり、紀美子は少し躊躇した後に電話に出た。「どうしてまだ出てこないんだ？」晋太郎の落ち着いた声が響いた。紀美子は深く息を吸い、複雑な表情で言った。「晋太郎、話をしましょう」十分後。紀美子は休憩所で晋太郎と会った。紀美子が整った服装で歩いてくるのを見た晋太郎は、少し眉をひ
会社を辞めてから始まる社長との恋 第668話 法的に処理する
「もし確かな証拠があったら、どうする？」紀美子は尋ねた。「法的に処理する」晋太郎は言った。「でも、もしこれで俺を拒否するなら、それは俺にとってあまりにも不公平じゃないか？」「何が公平なの？」紀美子は反論した。「仇敵の息子を受け入れろって言うの？私の気持ちを考えたことある？」理性を失った紀美子を見て、晋太郎は冷たい表情を浮かべた。「とりあえず今は落ち着いて！」「落ち着けない！」紀美子は続けた。「目の前に事実があるのに、あなたなら落ち着いていられるの？」晋太郎は黙り込んだ。紀美子は冷笑した。「見て、誰が相手でも受け入れられないよ！私は帰る！」そう言って、紀美子は温泉エリアへ向かって行った。彼女の背中を見つめながら、晋太郎は緊張した表情で携帯を取り、肇に電話をかけた。すぐに肇が電話に出た。「紀美子の父の件はどうなっている？」晋太郎は冷たく言った。肇が言った。「晋様、ちょうどこの件について報告しようと思っていました。当時の入札に関わった人たちを探していると、渡辺様の人に出会いました。彼らの話によると、紀美子さんの父の死は森川爺に関係している可能性が高い……」晋太郎の表情は冷たくなった。「調査を続けろ。確かな真実を知りたい！」「はい、晋様」肇は言った。森川家の旧宅。森川爺は昼寝をしようとしていたところ、突然電話がかかってきた。見知らぬ番号を見て、森川爺は疑問を抱きながら電話に出た。「どなたですか？」「私です」相手が言った。「武田力也です、森川さん。あの時あなたから金を受け取り、富裕層の入札を撤退させた武田力也です」「力也？」森川爺は目を細めてしばらく考えた後、思い出した。「ああ、お前か。何か用か？」「森川さん、さすがにお忘れっぽいですね。当時、私に頼まれたことがありました。もし誰かが私に入札について聞いてきたら、必ずあなたに知らせるようにと」力也は言った。その言葉を聞いて、森川爺は急に背筋を伸ばした。「誰かがお前に尋ねたのか？」「はい。相手は何者か言っていませんが、少し力のある者のようです」力也は言った。森川爺は警戒の色を浮かべた。「この件はどうするべきか、お前はわかっているはずだ。お金は問題な
会社を辞めてから始まる社長との恋 第669話 心配事があるみたい
森川爺は歯を食いしばり、「もし本当に誰かが調査しているなら、その人は絶対に渡辺家と無関係ではない！」と言った。「もしかして渡辺さんが何かを見つけたのですか？」執事は言った。森川爺は首を振った。「違う、翔太は以前調査をしていなかった。なぜ今になって調べ始めた？」執事は目を大きく見開いた。「紀美子さんですか？！」執事の言葉に森川爺は思い出した。「紀美子か？はは、彼女が現れてから安穏な日々がない！」「旦那様、この人を解決しなければ、あなたに影響が出るかもしれません」執事は真剣に警告した。「こんな人のために手を汚すほどのことはない。わしの他にも、彼女を処理したい人はたくさんいるんだ」森川爺は言った。「旦那様、余裕がありますね？」執事は笑って言った。森川爺と執事は互いに目を合わせた。「次は静恵にちょっと話をしてきてくれ」執事は森川爺の意図を理解し、立ち上がって寝室を出て行った。ドアが閉まる瞬間、森川爺の目には冷酷さが宿った。彼らが調査を始めるなら、こちらも黙って見ているわけにはいかない！寝室の中。静恵はまだ昼寝をしていた。執事のノックの音で彼女は目を覚ました。ぼんやりと目を開け、彼女は声がかすれて答えた。「誰？」「静恵さん」執事は外から叫んだ。「起きる時間です。旦那様があなたにお茶の作法を続けるように言っています」静恵は急に恐怖を覚え、ドアを見つめた。「今日は気分が悪いの！」「静恵さん」執事は続けた。「森川家では、働かざる者食うべからずですよ」静恵は下唇を強く噛み締め、憎悪の目で見つめた。「あなたたちは一体何を望んでいるの？！」「静恵さん、分別をわきまえてください。三度も注意させないでください」静恵は怒りに満ちて布団を蹴飛ばし、ドアを重々しく引き開けた。そして包帯で巻かれた手を執事に差し出した。「私はこんな状態なのに、まだ苦しめるつもりなの？」執事は軽く目を細め、声を低くして言った。「静恵さん、誰を恨むべきか、あなたはわかっていますか？自分が無能で地位を失ったから、見下されるのです。あなたの怒りは私たちに向けるべきではなく、本当にあなたを害した人に向けるべきです」静恵は冷たく彼を見つめた。「どういう意味？」
会社を辞めてから始まる社長との恋 第670話 お客さん
ボディーガードが紀美子の前に来て言った。「紀美子さん、外に小林楠子という方が来ています」紀美子は一瞬驚いた。楠子？彼女がどうして来たの？紀美子は立ち上がった。「早く彼女を入れて」そう言って、紀美子はキッチンに向かい、ジュースを注いで戻ると、楠子はすでに子供たちと挨拶を交わしていた。紀美子はジュースを持って近づいた。「楠子、どうしたの？」楠子は手に持ったギフトボックスを見せながら振り返った。「社長、新年明けましておめでとうございます。少しお土産を持ってきました」紀美子は楠子の手にある袋を見て笑い、「プレゼントなんて、ただ遊びに来てくれればいいのに」と言った。「社長、他人の家に訪問する際には、何かを持参するのが基本の礼儀です」楠子は真顔で言った。紀美子は楠子の性格を知っていた。自分が遠慮すると、楠子はずっと強情を張り続けるだろう。紀美子は仕方なく果物を受け取った。「それじゃ、ありがとう」「どういたしまして」楠子は言った。「あなたのおかげで、たくさんお金を稼ぎました」紀美子はジュースを差し出す手が止まった。「あなたの言葉は本当にストレートね……」「まあ、そうですね」楠子は淡々と答えた。「座って」紀美子は言った。「はい」楠子が座ると、紀美子はジュースを彼女の前に置いた。「あなたも、新年明けましておめでとう」楠子は頷き、ジュースをゆっくりと飲んだ。もともと会話が得意でない楠子がいることで、雰囲気はぎこちなくなった。紀美子が少し居心地が悪く感じていると、ちょうど朔也が外から入ってきた。楠子を見て、彼は少し驚いた。「小林部長！」楠子は立ち上がり、朔也に挨拶した。「副社長」朔也は丁寧に手を振った。「家の中ではそんな呼び方はやめて。早く座って。冷蔵庫に、子供たちのために買ったケーキがあるから取ってくるよ！」そう言って、朔也はキッチンに向かった。しばらくすると、彼はたくさんの食べ物を抱えて出てきて、楠子の前に置いた。楠子は面食らった。一人ではこんなにお菓子を食べきれない……「小林部長、遠慮しないで、自由に食べて！」朔也は熱心に歓迎していった。楠子は瞬きをするだけで、黙っていた。紀美子は朔也を見て、仕方
会社を辞めてから始まる社長との恋 第671話 別の人の頼んでください
楠子は車を道端に停めた。「静恵、私ができることは全部やったよ」「まだまだ足りないわ！」静恵が怒鳴った。「私は紀美子を完全に陥れさせたいの！あなたがくれた情報など何の役にも立たないわ！」楠子は言った。「他に男を彼女の家に入れてまで、復讐しないといけないの？」「そうだ！」静恵の顔が歪んだ。「そうでもしなければ彼女を倒す方法がないの！」「しかし、あなたの計画はうまくいかないかもしれないよ」楠子は言った。「彼女の家には、全く入る隙がないんだ」静恵は深呼吸をして、自分を落ち着かせようと努力した。「それじゃあ、次は彼女を監視しなさい。8日に仕事に行くんでしょ？」「はい」「毎日彼女について行きなさい。そうすれば、彼女に手を出すチャンスを見つけられるはずだよ！」「わかった」電話を切った後、静恵は携帯電話を強く握りしめ、目には極めて悪意が宿っていた。幸い、海外にいた頃、楠子に一度だけ手を貸してあげたことがあり、その義理で楠子から大きな借りを作った。今、楠子が紀美子の近くにスパイとしている限り、彼女が自分の目の前で苦しんで死ぬのを見る方法を見つけられるだろう。4日後。紀美子は明日会社に戻ってからするべきことを朔也と話し合う準備をしていた。部屋から出てきた途端、紀美子の携帯電話が鳴った。画面を見て、知らない番号からだと気づき、興味を持って電話を取った。「もしもし、どちら様？」紀美子が尋ねた。「入江さん」男の声がした。「病院まで来てくれませんか。野碩がお会いしたいと言っています」「行かない！」紀美子は即座に断った。男は冷たく言った。「入江さん、俺たちが自宅に押しかけてもよろしいのであれば、拒否することもできますが」紀美子は心の中で一瞬固まった。今は子供たちが休みで家にいる。もし彼らが突然家に乱入して自分を連れて行ったなら、子供たちは間違いなく怖がるだろう。紀美子はやむを得ず答えた。「わかった！住所を教えてください、自分で行く！」30分後。紀美子は帝都病院に到着し、野碩が入院している病室の前に立った。警備員は紀美子を見ても邪魔せず、むしろ病室のドアを開けてくれた。紀美子は固く拳を握りしめ、深呼吸をしてから中に入った。病室の中。野碩は窓際の椅子に座り、背中を少しひねらせ、顔色は蠟黄色
会社を辞めてから始まる社長との恋 第672話 全く役に立たない
紀美子が彼に尋ねた。「一体、何をしようとしているの？」「簡単だ」野碩は息をつきながら言った。「翔太を戻せば、お前を解放する」「兄が下した決断は私が変えられるものではない。お前が彼を戻そうとして、彼はどう思うだろうか？」紀美子は呆れたように言った。野碩の顔色が曇った。「お前が翔太を戻せないなら、誰も彼を戻すことはできない！お前は、兄が、わしによって獄中に入れられることをただ見ているつもりなのか？紀美子、翔太がこの一歩を踏み出したのはお前のせいだ。お前に責任がある！」「入れればいいわ」紀美子は皮肉交じりに言った。「彼の一生を台無しにし、最後には誰一人としてお前の最期を見届けない結果になるのよ。どうぞ自由に！」野碩は目を細めて紀美子に近づき言った。「わしが台無しにしたと言うのか？滑稽だ！お前が現れなければ、翔太は今でもわしの側にいたのに！お前がいなければ、静恵も残ってわしに孝行を尽くしていたはずだ！お前がいなければ、わしが他人の笑いものになることもなかった。お前がいなければ、何もかも起こらなかった！お前が全ての原因だ！親を呪って殺し、これからは翔太とわしを呪おうというのか！お前は、一体渡辺家をどこまで破滅させるつもりだ！」紀美子の目からは全ての色が消え失せた。「これは全部、お前自身の責任でしょう？お前が父を見下し追い出したから、父と母は亡くなったのではないか？獣のような娘を孫として認めたからこそ、兄は失望して渡辺家を去ったのではないのか？お前はあまりにも傲慢だ！傲慢で自分の間違いを認めることすらできず、全てを私のせいにする。お前には誰にも尊重される資格がない。今日のような境遇に至ったのは当然の報いだ！」野碩は紀美子の言葉に衝撃を受け、足元がふらついた。彼は呆然と紀美子の怒りに満ちた顔を見つめ、一瞬のうちに紗月の顔が浮かんだ。思い出した。紗月が家を出て彼との関係を絶つときも、同じようなことを言っていた。彼が尊敬するに値しないと……野碩の唇が震え、震える手を紀美子に向けて伸ばした。「紗月……」赤い目でつぶやいた。紀美子の瞳が光り、素早く後退した。「私は母親じゃない！」冷たく言った。「私に対して哀れな芝居を演じる必要はないわ！」野碩は思考を引き戻され、再び目が暗くなった。「ふん」
会社を辞めてから始まる社長との恋 第673話 彼を怒らせて死ぬつもりはなかった
「父は輩じゃない」紀美子は深呼吸した。「彼は一生懸命自分の価値を証明しようと努力していたにも関わらず、そのために命を奪われた」「彼の死は当然だ！！」野碩は紀美子を鋭い目で睨んだ。「もし彼が紗月と離婚するのを承諾していたら、紗月はどうして死んだと思う？！」紀美子は言った。「今となっても、自分が間違っていたと思わないの？」「翔太を戻せ！」野碩は興奮して叫んだ。紀美子は再び拒否した。「できない！」「翔太を戻せ！翔太を戻せ！！」野碩の目は血走っていた。「孫を戻せ！渡辺グループには彼が必要なんだ！！渡辺家の百年の歴史を崩すわけにはいかない！！絶対に！！」一気に叫び終えた後、野碩は胸を押さえて激しく咳き込んだ。最後には息が詰まったかのように、目を開いたまま大きく息を吸い込んだ。「演技しないで！」紀美子は憎しみのこもった目で彼を見つめた。「あなたがどんな芝居を演じても、私は兄を説得することなんて絶対にしない！」「助、助けて……」野碩が力なくその言葉を発したとき、紀美子は彼が演技をしているわけではないことに気づいた。彼女は表情を返ると、ベッドサイドのコールボタンを押した。すぐに医師と看護師が駆けつけてきた。彼らは紀美子を追い出し、緊急処置を開始した。紀美子は呆然と閉まった病室のドアを見つめ、頭の中は真っ白になった。全身が震え続けたが、目の前の光景はどこか懐かしかった。まるで幸子が亡くなる前の情景が目の前に再現されたかのようだった。自分は何も間違っていない……何も誤っていない……すべては彼の自業自得であり、彼がいなければ何も起こらなかった……紀美子の目が二度光った。彼女は彼を怒らせたまま死なせるつもりはなかった。そう……なかった……我に返った紀美子は震える手で携帯電話を取り出し、翔太に電話をかけた。すぐに翔太につながり、紀美子は嗚咽しながら言った。「兄さん……」翔太は紀美子の声がおかしいことに気づき、焦って言った。「紀美子？どうした？俺は帝都に戻ったばかりだが、どこにいるんだ？」涙が頬を伝い、紀美子は膝を抱えてしゃがみ込んだ。「兄さん、彼に何かあるかもしれない……」翔太：「誰だ？？」「渡辺、渡辺爺です。私は何も間違っていない、ただ事実を述べただけ……」紀美子は恐れに震えて顔
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会社を辞めてから始まる社長との恋 第1087話 本当に面白いな
そう言うと、晴は携帯を取り出して隆一に電話をかけた。事情をはっきり説明すると、隆一は言った。「わかった。明日親父に聞いてみるよ。今は遅いから、もう寝てるだろう。でも、晴、お前のお父さん、本当に面白いな」隆一の言葉からは、「お前の父親、ほんとに最低だな」という気持ちが溢れんばかりだった。「彼がそんな態度なら、これから誰も助けてくれないだろうな」晴は言った。「まあ、君も考えすぎないで。早く寝なよ」電話を切ると、晴は携帯を置いた。彼はそっと、ソファで携帯をいじっている佳世子をちらりと見た。しばらく黙ってから言った。「佳世子、俺を泊めてくれる？」「ここにいたいならいればいいじゃない。私がいない時だって、よく来てたでしょ？」佳世子はゲームに夢中で、晴をちらりとも見なかった。それに対して晴は興奮した。急いで布団を取りに行こうとしたが、二歩歩いて何かに気づき、戻ってきた。「佳世子、俺を泊めてくれるってことは、俺とやり直してくれるってこと？」佳世子は晴が何を言ったのか全く聞いておらず、適当に答えた。「うんうん、そうそう、あなたの言う通りよ」晴は一瞬驚いたが、すぐに佳世子の顔に手を伸ばし、彼女の唇に強くキスをした。佳世子は目を見開き、体を硬直させた。晴は悪戯っぽく笑った。「今日から、俺たちの未来のために計画を立てるよ！」佳世子は我に返り、クッションを晴に投げつけた。「晴！あなた頭おかしいの？！」佳世子は叫んだ。「私には病気があるのよ！触らないで！」晴はクッションを抱きしめて言った。「俺は構わないよ。唾液で感染することはないし。たとえ感染したとしても、俺も喜んで受け入れる。俺たちはもう、苦楽を共にしなきゃいけない仲だろ？」佳世子は彼を睨みつけた。「いつ私がそんなこと言ったの？！」「さっきだよ！」「さっき？！」晴は力強く頷き、無邪気な目で彼女を見た。「俺がここに住むのはそういうことなのか聞いたら、君が『そうそう』って言ったじゃないか」佳世子は頭を抱えた。「あれはゲームをしてて、あなたが何を言ったか聞いてなかったの！」晴は眉を上げた。「それは俺の知ったことじゃない。君が承諾したんだから、もう取り消せないよ」「もういい加減にして！」佳世子
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1086話 恩知らず
「あの女って？？」晴の顔がこわばった。「藍子が俺たちを脅した時、誰が俺たちを助けてくれたのか、もう忘れたのか？！」「彼女がそんなことをしたからって、俺が会社全体をかけて手伝うと思うか？」「そんなこと？！」晴は父を見つめながら、次第に父が遠く感じられた。「あなたはどれだけ恩知らずなんだ？」「誰であろうと、俺が会社をかけることはない！」「最後にもう一度聞く。本当に見て見ぬふりをするつもりなのか？」晴は失望したように尋ねた。「ああ！俺は一切関わらない！」晴は唇に冷笑を浮かべた。「あなたを見誤っていたようだな……」そう言うと、晴は別荘を出て行った。30分後。晴は佳世子の家の前に現れた。彼はドアの外に黙って立ったまま、長い間ドアをノックする勇気が出なかった。彼は今、どんな顔をして佳世子に会えばいいのかわからなかった。自分の家が窮地に立たされた時、佳世子は迷わず海外から戻ってきてくれた。それどころか、自分の評判をかけてまで助けてくれたのだ。しかし、自分の父はどうだ？人を利用し終わったら、あっさりと冷たくあしらうような人間だ。晴は苦笑した。しかし、彼が去ろうとした時、突然ドアが開いた。佳世子はゴミ袋を持っており、ドアの前に立っている晴を見て驚いた。「あ、あなた……夜中に黙ってここに立ってどうしたの？！」晴はうつむいたまま、しゃがれた声で言った。「いや、別に。ゴミを捨てに行くなら、俺が行くよ。捨てたら帰るから」佳世子は何かおかしいと気づき、彼をじっと見た。晴の目が赤くなっているのを見て、彼女は少し驚いた。「晴、どうしたの？」「別に」晴は前に出て佳世子のゴミ袋を受け取った。「早く休んで。俺は行くから」「動かないで！」佳世子は彼を呼び止めた。「中に入って話をして！二度と言わせないで。私の性格はわかってるでしょ！」晴はしばらく躊躇したが、佳世子を怒らせたくないので、仕方なく中に入った。佳世子は晴にミネラルウォーターを渡し、そばに座って尋ねた。「要点を絞って話して」晴は申し訳なさそうに、今夜の出来事を佳世子に話した。佳世子は淡々と答えた。「普通だわ」晴は佳世子の冷静な態度に戸惑いを覚えた。以前なら、佳世子はきっと怒っ
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1085話 本当に裏切ってはいない
「うん、ルアーがここに来たということは、肇は本当に裏切ってはいないってことね」佳世子は言った。紀美子は苦笑いを浮かべた。「彼がそんなことをしないことを願うわ」「今かなりの証拠が集まったはずだけど、次はどうするつもり？」佳世子は尋ねた。紀美子はソファに座り込んだ。「正直言って、次に何をすべきかわからないの。帝都で会社は順調に発展しているけど、実際には人脈があまりないの」佳世子は考えてから言った。「私が晴に会ってみる。彼ならきっと何か方法があるわ」夜。佳世子は晴をレストランで食事に誘った。彼女はルアーが持ってきた情報を晴に伝え、その後、悟の地下室の件も話した。晴は驚いた。「ルアーが寝返った？！彼は内通者だったのか？！」「うん、紀美子はすでにいくつか重要な証拠を握っているけど、問題は、彼女が警察に通報しても無駄だと思ってることなの」「確かに」晴は言った。「警察は彼と関係があるだろうし、彼より強い権力を持っていなければ、どうにもならない」佳世子は晴に水を注いだ。「だから今夜あなたを呼び出したの」晴は口に含んだ水を吹き出しそうになった。佳世子は呆れて彼にティッシュを渡し、嫌そうに見つめた。「手伝いたくないなら、はっきり言ってよ」「いやいや……ゴホゴホ……俺に会いたくて食事に誘ったのかと思ったんだよ」佳世子は彼の言葉に顔を赤らめた。「やめてよ！そんなに暇じゃないわ！」晴は興味深そうに彼女を見つめた。「そう？じゃあなんで顔が赤いの？」佳世子はカッとなって彼を睨みつけた。「手伝えるの？はっきり言ってよ！」「親父に聞いてみる。明日返事するよ」「わかった」佳世子は言った。「待ってるわ」佳世子を家まで送った後、晴は別荘に戻った。ドアを開けると、リビングでテレビを見ている父の姿が見えた。晴は鼻を触り、父のそばのソファに座った。「父さん」晴は尋ねた。「一つ聞いてもいい？」「回りくどいことするな。用事があるならはっきり言え」晴の父はテレビから目を離さずに答えた。「警察で権力のある人を知ってる？」それを聞くと、晴の父は眉をひそめて彼を見た。「また外で何かやらかしたのか？？」「俺じゃない」晴は説明した。「晋太
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1084話 何をしてるの？
家に戻ると、紀美子はすぐに佑樹の部屋に行った。彼女は佑樹に肇にメッセージを送らせ、会う時間を約束させた。しかし、何日待っても肇は現れなかった。一週間後。紀美子がオフィスに着くと、佳世子がドアの前に立ったまま中に入ろうとしていないのを見た。彼女は佳世子の前に歩み寄り、不思議そうに尋ねた。「何をしてるの？」紀美子が目の前に現れたのを見て、佳世子はすぐに姿勢を正した。「紀美子、中にあなたを待っている人がいるわ」紀美子は不思議そうにオフィスを見た。「誰？」佳世子は急いでドアを開けた。「入ってみればわかるわ」紀美子がオフィスに入ると、マスクをした男がソファに座っていた。音を聞くと男は振り返り、青い瞳が紀美子の目に映った。男は急いで立ち上がり、マスクを外して言った。「入江さん、私です」男の顔を見て、紀美子は驚いて言った。「ルアー副社長？」「入江さん、やっと会えました！佳世子さんを見かけなければ、あなたと会うことはできなかったでしょう」紀美子はルアーをソファに座らせ、水を注いだ。「あなた、A国にいるんじゃないの？どうしてここに？」「入江さん、私は肇さんから連絡を受けて帝都に来ました。会社のことについてお話しします。それと、証拠も持ってきました」そう言うと、ルアーはバッグから書類を取り出し、紀美子に手渡した。「この書類は、しっかり保管してください。これは私と肇さんが数ヶ月かけて、技術部の人に統計してもらった会社のファイアウォールが突破された回数です。それと、悟が私に会社の重要な書類を漏らすように頼んできた時の録音もあります」紀美子は驚いて彼を見た。「書類を漏らすってどういうこと？！」ルアーは申し訳なさそうに、A国で起こったすべてのことを話した。それを聞いて、紀美子と佳世子は青ざめた顔で彼を見つめた。ルアーは深く息を吸い込んでから続けた。「入江さん、私が自分の罪をあなたに打ち明けたのは、お願いがあるからです！」紀美子は椅子の肘掛けをきつく握りしめ、目を赤くして尋ねた。「ルアー、あなた、厚かましく私にににをお願いするつもりなの？あなたがいなければ、晋太郎はA国に行かなかった！死ぬこともなかった！」ルアーの目には憤りと悲しみが浮かんでいた。「森川社長に申
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1083話 何か見つかった？
「私一人の努力の結果じゃないわ。朔也も……」朔也の名前を出した途端、紀美子の胸は重く苦しくなった。紀美子の表情を見て、龍介は話題を変えた。「前に悟の家に行くと言ってたけど、何か見つかった？」紀美子は地下室で見た状況を龍介に話した。龍介はしばらく考え込んでから言った。「君が警察に通報しないのは、悟が警察に知り合いがいて、事件がうやむやになるのを恐れているからだろう？」紀美子は頷いた。「そうよ。龍介君、この件には関わらないで。あなたはもう十分助けてくれたわ」龍介は笑った。「わかった。君の考えを尊重するよ」……一週間後。佳世子が朝早くに電話をかけてきた。紀美子は携帯を探し、眠そうな表情で電話に出た。「もしもし？」佳世子は電話の向こうで興奮して言った。「紀美子！調べたんだけど、肇のおばあちゃんは確かに監視されてるみたい」紀美子は一気に目が覚めた。「その人はまだ肇のおばあちゃんの家にいるの？」「いるわ」佳世子は言った。「でも、おばあちゃんの世話をしてるみたい」紀美子は眉をひそめた。「じゃあ、私たちは違法監視の証拠を手に入れられないわね」「肇が鍵なのよ！肇が認めてくれれば、この罪を悟に着せることもできるわ」「肇は私に打ち明けたくないみたい」紀美子は頭を抱えた。「どうやって彼に切り出せばいいのかわからないわ」佳世子は考えてから言った。「人を回してしばらく盗み撮りするのはどう？そのうち警察が調べてくれるんじゃない？あの人たちは肇のおばあちゃんと何の関係もないんだから」「悟が他の言い訳を考えていないと思う？単に支えるためにおばあちゃんの世話をする人を探したと言い張れるわ」「じゃあどうすればいいの？私たちがこっそり肇のおばあちゃんを連れ出すはどう？」紀美子はすぐに拒否した。「ダメよ。そうしたら悟は肇に目をつけるわ。佳世子、私はもう誰にも賭けられないの。それに肇は私たちを裏切ってないわ。彼はただ追い詰められてるだけなの」佳世子はイライラして舌打ちした。「紀美子、もう、どうしようもないなら直接警察に行こうよ！警察に悟の家を捜索させよう！骨が見つかれば、世論を煽れば、彼は完全に終わりよ」「佳世子、そんなに簡単じゃないわ」紀美子は言った。「
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1082話 親しみやすい感じ
スタッフは彼らを二階のとある部屋の前に案内した。ドアが開くと、真っ赤なチャイナドレスを着て、ウェーブのかかった髪をした、妖艶な顔立ちの女性が机の前に座っていた。物音を聞いて、その女性は人を魅了するような表情で視線を上げた。紀美子と龍介を見ると、彼女は笑みを浮かばせながら立ち上がった。「吉田社長、入江社長」女性の声は、骨の髄まで染み込んでくるようだった。その妖艶さは、嫌味ではなく、むしろどこか親しみやすい感じがした。龍介も挨拶を返した。「美月さん、ご無沙汰しております」遠藤美月(えんどう みづき)は言った。「吉田社長がお忙しくなければ、私たちはもっと会う機会が多かったでしょうに」龍介は笑い、紀美子に向かって説明した。「紀美子、こちらは遠藤美月さん。都江宴の代理ディレクターだ。今回のビジネスイベントの登録審査を担当している」紀美子は美月を見て手を差し出した。「こんにちは、遠藤さん。お手数をおかけしますが、私の会社の資格を審査していただけますか？」美月は紀美子をゆっくりと見渡した。そして紀美子の手を握った。「入江社長、ご丁寧に。以前から入江社長のお名前は伺っておりましたが、今日はお会いできて光栄です。やはり若くして有能でいらっしゃいますね」紀美子は笑って言った。「お褒めいただきありがとうございます」そう言うと、紀美子は持参した資料を美月に手渡した。美月は手を伸ばして軽く押しのけた。「必要ありません。入江社長の会社は私がよく存じ上げております。直接登録させていただきます。雨子、入江社長にブラックカードを発行して」龍介の眉間に一抹の疑念が浮かんだ。都江宴に初めて来た人はプラチナカードを手に入れるだけでも大変なのに、紀美子はブラックカードを直接手に入れた？ブラックカードは都江宴で最も格上のカードだ。もしかして、都江宴の背後にいる人物が紀美子と知り合いなのか？しかし、龍介はすぐにその疑念を抑えた。しばらく座っていると、スタッフの雨子が戻ってきてブラックカードを紀美子に手渡した。「入江社長、こちらがあなたのブラックカードです。どうぞお受け取りください」紀美子はそれを受け取り、お礼を言った。「入江さん、10月のイベントにはこのブラックカードを持って都江宴にお越し
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1081話 立派な父親
紀美子は笑って言った。「龍介君は立派な父親だね」龍介は話題を変えた。「お？だいぶ気分が良くなったようだね」紀美子は唇を噛みしめた。「前はちょっと私が敏感すぎたわ」龍介は言った。「それは君の問題じゃない。ストレスが大きく、耐え難かったからだよ。この話は置いておこう。実は今日、ある情報を手に入れたんだ。10月に帝都で大規模なビジネスイベントがあるらしい。君は参加したいか？」紀美子は一瞬戸惑った。「ビジネスイベント？そんなの聞いたことないわ」龍介は言った。「ああ、このイベントは特別なんだ。参加するには資格が必要で、予約も必要だ。なんたって、全国のビジネス界の大物たちが集まるからね」「主催者は？」「わからない」龍介は言った。「ただ、この人の実力は計り知れない。本人の情報は一切漏らさないらしい」紀美子は残念そうに言った。「Tycは、こんなイベントに参加するには足りないかもね」「調べたけど、ちょうど参加資格を満たしていたよ」龍介は言った。「参加すれば、かなり信頼できる人脈を作れるし、会社の発展にも良い影響があるはずだ」紀美子は頷いた。「わかったわ。どこで予約すればいい？何か持っていくものは？」龍介は言った。「都江宴だ。会社の資格証明書を持っていけばいい。ただ、あそこに入るのは簡単じゃない。明日空いてるか？」「空いてるわ」紀美子は答えた。「ちょうど土曜日で、特に用事はないから」「よし、じゃあ明日迎えに行くよ。連れて行ってあげる。早く休んで、明日また話そう」紀美子たちはそうして電話を切った。都江宴というホテルは知っていたが、帝都にこんなに長く住んでいても、一度も行ったことがなかった。聞くところによると、その場所は金の巣窟と呼ばれており、ある程度の財力や権力を持っている人でも簡単には入れないらしい。予約が取れたとしても、食事をするのには数ヶ月待たなければならない。都江宴で予約をするということは、イベントは都江宴で行われるのだろうか？しかし、貴重な機会だ。会社の発展のためにも、人脈を広げるのは悪くない。翌日。龍介は10時に藤河別荘に到着した。紗子としばらく話をしてから、紀美子を連れて都江宴に向かった。1時間後、二人は川沿いに位置する
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1080話 私を置いて行っちゃう
「お父さんは私をかばってくれたけど、お母さんはお父さんと喧嘩して、結局私のせいで別れてしまった。お母さんが去る前に私に言ったの。私の性格が変わらないなら、将来誰も私を好きにならないって。私はお母さんに変わると約束したけど、お母さんは私を置いて行っちゃった」吉田紗子は声を詰まらせながら言った。「佑樹くん、私もゆみちゃんみたいに自由でいたい。でも、私の性格のせいでみんなが私を置いて行っちゃうんじゃないかって、本当に怖いんだよ……」佑樹は彼女をじっと見つめた。彼は紗子にそんな過去があったなんて思ってもみなかった……佑樹は唇をきつく結んだ。「お母さんが正しいとは限らないよ」紗子は顔の涙を拭った。「わからないけど、私がこうすればお母さんが戻ってくるんじゃないかって思うんだ……」「じゃあ、お母さんは戻ってきたの？」佑樹は反問した。紗子の涙が再び溢れ出た。「ううん……」佑樹は冷たく笑った。「お母さんはただ言い訳をして去っただけだよ。君の性格のせいじゃない！」紗子は呆然とした。この問題について、彼女は一度もそう考えたことがなかった。紀美子は紗子の小さな手を優しく握った。「紗子ちゃん、お母さんがなぜ去ったのかについては私たちには何も言えない。でも、紀美子おばさんは思うの。自分らしくいていいんだよ。必要な礼儀さえあれば、他のことは問題ないわ。あなたはまだ6歳なんだから。自由に生きなさい」「私もゆみちゃんみたいになっていいの？」紗子は嬉しそうに尋ねた。紀美子は笑って頷いた。「なぜダメなの？紗子ちゃんも人間だよ。小さな頭の中には自分の考えがあるんでしょ？」紗子は力強く頷いた。「……うん、私は佑樹くんとゆみちゃん、それに念江くんが羨ましいんだ」佑樹は彼女をちらりと見た。「じゃあ、今日から自分らしく戻ればいいじゃん。他人の顔色を伺う必要なんてないよ。覚えておいて」佑樹の口調が和らいだのを聞いて、紗子は涙ながらに笑った。「うん」子供たちの間の喧嘩を解決した後、紀美子は紗子を連れて階下で食事をした。ちょうど彼女に麺をよそってあげたところで、紀美子の携帯が鳴った。吉田龍介からの電話だとわかると、紀美子は紗子を見て、リビングに行って電話に出た。「もしもし、龍介さん？」「今
会社を辞めてから始まる社長との恋 第1079話 お母さんと少し話せる？
紀美子は直接紗子の部屋には行かず、まず二人の子供たちの部屋に向かった。ドアをノックし、子供たちの返事を聞いてから、中に入った。「佑樹くん、お母さんと少し話せる？」紀美子はパソコンの前に座っている佑樹に近づいて口を開いた。「お母さんは紗子のことについて話したいの？」佑樹は手を止め、母を見上げて尋ねた。「そうよ」佑樹は数秒間黙り、その後椅子から飛び降りてソファに座った。「佑樹くん、お母さんは他人の物を勝手に触るのが良くないことだってわかっている。あなたが怒るのも当然よ。でも、お母さんはあなたがそんなに意地悪な子じゃないと分かっているわ。何か他の問題があったの？」紀美子も彼の隣に座って尋ねた。「あったよ。でも、詳しくは説明しない。ただ、お母さん、一つはっきり言えるのは、僕は紗子が好きじゃないってこと」佑樹は率直に答えた。「理由は？」紀美子が尋ねた。「彼女はどこか嘘っぽい感じがするんだ」「紗子ちゃんが礼儀正しくてしっかりしているから？」佑樹は唇を噛んで何も言わなかった。「佑樹くん」「みんな性格が違うの。もしかしたら彼女にも言いにくい事情があるかもしれない。彼女にゆみちゃんのように素直になれって言っても、それは無理かもしれない。だって、生活環境が違うんだもの。龍介おじさんだって、謙虚で礼儀正しい人でしょ？」「わかってる。けど、どうしても彼女のあの態度が好きになれないんだ」「佑樹くん、偏見を捨てて、紗子ちゃんともう一度ちゃんと向き合ってみたら？本当に、紗子ちゃんは純粋で良い子なのよ」紀美子はため息をついた。「わかったよ、お母さん」佑樹はソファにうずくまり、小さな眉をひそめて答えた。「お母さんを適当にあしらわないで」紀美子は少し厳しい口調で言った。「お母さんはあんたたちが仲良くしてくれることを願っているの」「もしできなかったら？」佑樹はふてくされて言った。「お母さんは僕を責めるの？」紀美子は首を振った。「あなたにもあなたの考えがあるから、お母さんは無理強いしない。ただ、人や物事に対して、頑固になりすぎないでほしいの」「お母さん、僕は佑樹くんは本当は紗子ちゃんのことが嫌いじゃないと思う」紀美子と佑樹の会話を聞いていた念江は言った。紀美子は顔を上げた
