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会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 611 - チャプター 620

756 チャプター

第611話 皆があなたの力になりたい

 社員達が笑いながら食べ始めるのを見て、入江紀美子は笑顔で竹内佳奈に言った。「今会社にいる社員達の名前を全部記録して、来ていない人達は、年明けで全員クビだ」佳奈は一瞬で分かった。社長が皆にご飯を奢ったのはそういう意味だったのか!露間朔也は疲弊した体を引きずりながら紀美子に寄ってきた。「気持ちを落ち着かせず、会社に忠を尽くさない部下を切り捨てるなんて、本当に容赦しないな」紀美子は朔也を睨みながら答えた。「厳しくしないと、足元が固まらないわ」朔也は苦しそうな表情を作って感心した。「流石は鉄腕社長さんだ!そろそろ、次はどうするつもりかを教えてくれるよな?」「その時になれば分かるわ」紀美子は答えた。朔也は歯ぎしりをしながら言った。「なんだ、俺のこと信用ゼロかよ!!この先の計画も教えてくれないなんて!」「教えても無駄よ」紀美子は朔也を押しのけながら言った。「落ち着いて自分の仕事を全うすればいいの」東恒病院にて。あの事件が起きてから、狛村静恵にも沢山の記者達から電話がかかってきた。彼女は辛抱強く、影山さんに言われた通りに回答していた。「やはりここまで人を傷つけない方がいいと思いますわ」静恵は落ち着いて言った。「彼女が一人で会社を立ち上げたのは、全てが自身の努力によるものではなくても、それなりの心血を注いだと思うわ」「狛村さんは、入江社長とあの4人の男達との関係について、どれくらいご存知ですか?」記者は電話で聞いた。「それは言えませんわ。皆女同士ですし、彼女が人に非難されるのを見たくないですから」「狛村さんは本当に優しいお方ですね。相手にあれほど虐められたのに、それ相応の反撃をしないとダメですよ」「入江社長とあの男達とのいかがわしい関係については、もうこれ以上言えませんから、本当に勘弁してください」静恵が泣きながら言った。「皆、彼女の虚偽が見ていられないから暴こうとしているんですよ。狛村さん、私達はあなたの力になりたいです」「感謝しますけど、あれはもう過ぎたことですので……」記者との通話を終えた後。静恵は携帯をベッドサイドテーブルに置いた。彼女は一粒のブドウを口に運びながら、満足した表情で森川次郎の今回の素晴らしい手際に感心した。まさか彼が紀美子
last update最終更新日 : 2024-11-14
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第612話 もう直視できない

「気に入ったか?」急に、後ろのスパイラル階段の方から、森川晋太郎の声が聞こえてきた。彼はゆっくりと階段を降りてきたが、ライトに照らされた黒いスーツが薄く金色を光っており、生まれつきの貴族の気質が威厳を漂っていた。入江ゆみは晋太郎をまっすぐに見つめ、思わず声を低くして言った。「お父さんはまるで、おとぎ話の中の黒馬の王子様みたい!!」隣ではっきりと聞こえた入江佑樹は、驚きながら彼女を見て言った。「黒、黒馬の王子様??」ゆみの目は光り、しっかりと頷いて言った。「うん!だってお父さんは黒いスーツを着てるんだもん!」佑樹は急に脳裏で一つの画面が浮かんだ。顔が晋太郎のもので、首以下が黒い馬の化け物……モンスターだ……!直視できない……!晋太郎は2人の前に来た。彼がまだ口を開いていないうちに田中晴が寄ってきて、恥ずかしがり屋の人妻のような甘えた声で言った。「ああ、疲れたわ、こんなに遠い道を私一人で運転させるなんて!」晋太郎は顔色が変わり、きつい目線で晴を睨みながら、「近づくな!」と命令した。晴は悔しそうに口をへの時に曲げ、文句を言った。「薄情だ!悪役!訴えてやる!」すると晋太郎は冷たい声で言った。「酒蔵にお前が好きなペトリュスを1本取って置いた」「マジで?!取って来る!」晴ははしゃぎながら走っていった。2人の子供達は絶句した……晋太郎は優しい声で子供達に、「君たちの母親の事件が解決されるまで、安心してここに泊まっていい」と言った。ゆみは唇を舐めて、興奮した声で晋太郎に向かって言った。「この酒蔵、まるでお城のようだわ!ゆみをここの主に……痛っ!」話の途中で、佑樹はゆみの額にげんこつを入れた。ゆみは額を抑えながら兄に不満をこぼした。「お兄ちゃんがいつもゆみをイジメる!!」晋太郎は微かに指を動かし、娘の額を揉もうとした。よくも娘に手を出したな!佑樹はからかった。「主人?使用人の間違いじゃない?」そう言って、佑樹は晋太郎に、「パソコンが1台欲しい」と要求した。「分かった」晋太郎は口元に笑みを浮かべ、「ゆみは?」と聞いた。ゆみは口をすぼめて暫く考えてから、「ゆみはきれいなワンピースが着たい!」と答えた。「10着で足りるか?」晋太郎は
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第613話 皆がお金の為だ

 「それはお母さんは気にしなくていい」入江佑樹は答えた。「でもお母さんは気をつけてね」入江紀美子は背を壁に預けながら言った。「分かってるわ、もし特に用がなければ、もう会社に行かないから」佑樹は暫く黙ってから、「お母さん、僕が言っているのは、あなたが帝都から離れる前のことだ」と言った。紀美子は驚いて、顔から微かに血の気が引くのを感じながら、「佑樹くん、何か知ってるの?」と聞いた。佑樹は唇を動かし、小さな両手でキーボードを暫く叩いてから、「お母さん、これを見て」と言った。紀美子はメッセージを受信した。彼女は佑樹が送ってきた動画を開いた。暫く見ていると、紀美子は急に目を見開いた。「佑樹くん、この動画はどこから手に入れたの?」「念江くんが僕に送ってくれたんだ。ネットユーザーの情報収集の能力は侮れないね。これを反撃の武器に使うといいよ」驚きながら紀美子は頷いた。「分かった、この動画を大事に取っておくわ。もしあの事がまだ暴かれていなければ、一番役に立つタイミングでこれを出すから」佑樹は笑って言った。「お母さん、今回は必ず乗り越えられると信じてるよ」息子に肯定され、紀美子は嬉しかった。「佑樹くん、ちゃんと晴おじさんの言うことを聞くのよ」佑樹はちょっと気まずく笑いながら、手で頭を掻いた。「実は、僕達は今森川晋太郎の所にいる……」紀美子は眉を寄せ、「記者に見られなかった?」と尋ねた。「うん」佑樹はカメラを動かして紀美子に周囲の環境を見せた。「ここのセキュリティはかなり厳しいし、外にも沢山のボディーガードがいる。今のところ誰にも見られていない。ここは市内から車で2時間もかかるところだからね」紀美子は一目でそこが何処かが分かった。この前晋太郎と一緒に酒を取りに行ったノアン ワイナリーだ。彼女はほっとした。「彼がついていれば、お母さんも安心できる。この事件を片付けたら、迎えにいくから」紀美子は言った。「ところで、ゆみちゃんは?」佑樹の顔が少し曇った。「ゆみは今、多分ワンピースの試着で忙しい」紀美子は苦笑いをした。佑樹は顔を引き締め、真面目な顔で口を開いた。「お母さん、必ず乗り切ろうね」紀美子は頷いた。「分かってるわ、安心して」ビ
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第614話 私が払ってあげる

携帯を置いて、入江紀美子は伸びをした。外のきれいな夜景を見て、彼女は思わず笑みを浮かべた。これから、ショーが始まる!2日後。Tycのキャンセルの勢いが段々と落ち着いてきた。一部の顧客はGの名声で商品を購入したので、キャンセルしなかった。顧客への弁償を終わらせた頃、社員達はほぼ全員疲れ果てていた。竹内佳奈が事務所に入って、キャンセルの統計を紀美子に渡した。「社長、やっと落ち着いてきました」「会社のキャッシュフローはどうなってる?」「あと2100万ほど残っています」紀美子は平静に頷き、「まだ予想範囲以内だ」と言った。「社長、本当に回答しなくていいのですか?」佳奈が心配して尋ねた。「記者達がまだ下にいます」「回答しなくていい」紀美子は椅子の背もたれに背を預け、「緊急時こそ、怠ってはいけない」と言った。佳奈は紀美子の話の意味が分からなかった。「社長、あともう一件あります」「何?」「MKもここ数日、これまでない数のキャンセルが発生していて、損失はうちの倍以上です」紀美子は沈黙した。今回の事件の起因は自分だった。知らないうちにまた森川晋太郎に借りができてしまったようだ。彼女は苦笑いをした。「分かった、下がっていいわ」佳奈は紀美子の事務所を出た。ドアが閉まってから、紀美子は携帯を出して渡辺翔太に電話をかけた。すぐ、翔太が電話を出た。そして、彼の焦った声が聞こえてきた。「紀美子?」「うん」「今どうなってる?」翔太は慌てて尋ねた。「君が忙しいだろうから、ずっと電話するか躊躇していたんだ」紀美子は笑みを浮かべながら言った。「私は大丈夫よ、心配しなくていい。ところで、お兄ちゃんの会社も影響を受けたの?」「多少な。でもそこまで大きくなくて、多分晋太郎が受けた影響の方が大きい、あと悟さんも」紀美子は驚いた。「悟さんが?」「彼は職務停止を受けたようだ」「そんな、たとえ私と親しかったとしても、停職なんて重すぎるわ!」と紀美子は眉を寄せながら言った。通りであの事件が起きて以来、塚原悟からの連絡が一切なかったわけだ。彼は自分に心配をかけたくなかったのだろうか?「病院の方にも、悟さんを取材しようとして沢山の記者達が集まってい
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第615話 MKの危機

入江紀美子は言葉が詰った。弁償なんてできるものだろうか?今の彼女は、たとえMKの損失の一部だけを補おうとしても出来ないだろう。「今、その余裕はないわ」「彼に償うことを考えたことはあるのか?」塚原悟はさらに問い詰めた。「……」正直に言うと、そう考えたことはなかった。悟に言われなかったら、その点に気づくこともなかった。二人がお互いに知りすぎたからだろうか?紀美子は黙り込んだ。「こう比較してみると分かるよ。私と晋太郎の、君の心の中での地位」悟は軽く笑いながら言った。「ごめん」今の紀美子に残っているのは申し訳ない気持ちだけだった。「謝罪などいらないさ」悟は気楽な口調で言った。「言っただろ、私は自分がそうしたいからしているだけだと」「今回の事件が落ち着いたら、ご飯を奢るわ」「もうすぐ新年だ」「うん、今年は一緒に大晦日を過ごそう」紀美子は酷く落ち込んだ。「そうしよう」悟は笑って答えた。ノアン ワイナリーにて。晋太郎は子供達と、買ってきたばかりのレゴブロックで遊んでいた。頭脳で言えば、もちろん晋太郎の方が上だ。しかし、手の器用さは子供達に劣っていた。入江ゆみは、未だにまともに一パーツも組めていない晋太郎を見て呆れた。「もう無理しなくていいよ、そのスピード、お兄ちゃんと比べ物にならないわ」ゆみは嘆いた。娘にバカにされるなんて。晋太郎は言葉を失った。彼は持っていたブロックを置いて、「残りは俺がやっておく、お前達はそろそろ寝る時間だ」と言った。「手、切れてるよ」入江佑樹は手を止めて言った。「レゴブロックは軽いから、そんなに力を入れて組まなくても」「組むならしっかりと固めないと、だめだ」晋太郎は手の中のブロックを見つめて言った。たかが子供のおもちゃだと彼はおもっていたが、まさかここまで難しいとは思わなかった。佑樹は伸びをして、晋太郎の携帯画面が灯ったのに気づいた。「携帯が鳴ってるよ」佑樹は晋太郎に注意した。晋太郎が携帯見ると、顔色が曇った。森川貞則からの電話だった。彼は2人の子供に、「先にお風呂に入ってきて」と指示しながら携帯を取った。そして、晋太郎は休憩室を出た。「なんだ?」晋太郎は電話に出た。「
last update最終更新日 : 2024-11-15
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第616話 窮地に付け込む

森川貞則の目じりは、怒りで痙攣した。森川次郎に副社長の職位を与えたが、MKに彼の言うことを聞く人は1人もいなかった。利益か愛息子の選択を迫られた貞則は、最終的に利益を選んだ。森川家は潰れてはならん!そのようなことは絶対に許さん!翌日の朝、Tyc社にて。竹内佳奈が慌てて事務所に駆け込み、まだ寝ていた入江紀美子に報告した。「社長、大変です!」呼び覚まされた紀美子は目を揉みながら、「どうしたの?」と尋ねた。「あの人達、社長に会えないからって会社のガラスドアに塗料をかけて……酷いことを…」紀美子は驚きながら聞いた。「何を書かれた?」佳奈は言い出せず、口をすぼめて黙った。「教えて」紀美子は腰を曲げて靴を履いた。「社、社長のことを、『誰とでも寝るビッチ』と」佳奈の声が段々と低くなっていった。しかし紀美子はそれをはっきりと聞き取った。紀美子は数秒沈黙してから立ち上がり、「無視していいよ」と告げた。「社長」佳奈は紀美子を見て言った。「これ以上黙っていたら、今度は何をされるか、分かりませんよ」「これくらいの騒ぎで取り乱れてどうするの?相手はうちが理性を失うのを待っているのよ」紀美子は落ち着いた様子で佳奈に言った。彼女の携帯が鳴り出した。杉浦佳世子からの電話だった。紀美子は佳奈に、一旦外に出て落ち着かせてくるようにと指示した。「かしこまりました、社長」佳奈が出ていってから、紀美子は佳世子の電話に出た。まだ口を開いていないうちに、佳世子の声が電話から聞こえてきた。「紀美子、ボディーガードがやつらに石を投げられて怪我したわ!」佳世子は泣きながら言った。「家の玄関も、汚物が混ざった水をかけられて、今家中が酷い匂いよ」紀美子は思わず拳を握りしめながら言った。「落ち着いて話を聞いて」「うん!聞くわ!」「長くてもあと5日間だけ持ち堪えて!この5日間の間、ボディーガードに彼らを調査させ、騒ぎを起こした人達のことを全部記録させて」「わ、分かったわ!名簿を作成するわ!」「ごめんね、ありがとう」「もうこんな時でも、親友として助けてあげるのは当たり前のことよ!」佳世子は涙を拭きながら言い放った。「地獄までもついていってあげるわ」「うん、共に戦
last update最終更新日 : 2024-11-15
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第617話 それが人心

竹内佳奈は不満げにポッドを置いて反論した。「事実ではない!私は、社長がそのような人間ではないと信じている!」「君が信じるかどうかの問題ではない」男性社員は怒って反論した。「信じるから事実になるのか?君のような秘書は、俺達アフターサービス部の大変さが分からない!社長のせいで俺達も『悪徳商人の手先』とまで言われた!なのに俺達は、礼儀正しく答えなければならない。君には分かるわけがない!」佳奈は彼を見つめ、大きな声で指摘した。「それくらいの屈辱も耐えられないのか?社長が毎日どれほどの罵声を浴びているか分かるの?」「知ったこっちゃねえ!俺は耐えられん!」男性社員は適当に髪の毛を整理してから言った。「社長は絶対に何かを隠している、このままだと、会社が潰れるのも時間の問題だろう!」「気に入らないなら出てってよ!」佳奈は本気で怒った。「社長が可哀想だわ。ここ数日、毎日あんた達に良い食事を食わせているのに、本当に恩知らずだわ!」「誰が恩知らずだと?!」「あんたよ!この恩知らずが!」佳奈は怒りを抑えきれず、男性社員の顔に平手打ちをした。「クソ、よくも俺の顔を打ったな?!」男性社員は佳奈に打ち返そうとしたが、他の社員達が慌てて彼を止めた。通りすがりの入江紀美子と露間朔也は、会議室の騒ぎを聞いて、急いで向かった。朔也がドアを押し開くと、中は激しく騒いでいた。彼は社員達を見回し、「昼休みの時間に休まずに喧嘩してどうする?!」と怒鳴った。社員の1人が朔也を見て、慌てて先ほどの状況を説明した。朔也は聞けば聞くほど顔色が曇った。彼は紀美子に、「この人達をどうするか、あなたが決めて!」と言った。紀美子は頷き、会議室に入った。彼女はゆっくりと皆の顔を見回して口を開いた。「私は、皆さんの気持ちがよく分かっている。皆さんから見れば、私はただ逃げ回っているだけ。会社も潰れそうになっているのに。ここでいくら説明しても意味がないので、辞めたい人がいれば、止めはしないわ」「俺は辞める!」男性社員が社員証を地面に叩きつけながら言った。「未来が見えないような会社には、残っても意味がない!」「わ、私も辞めるわ……」「社長、申し訳ありません、私も……」「……」社員達が次々と辞めていくのを
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第618話 彼女について行け!

露間朔也の表情は一瞬引き攣った。そして気まずそうに鼻先を揉み、「だってあなたが何も返事しないんだもん」と言った。入江紀美子は笑みを浮かべてジュースを置き、「朔也、服を3セット用意して」と指示した。朔也は少し驚いた。「スタイルは?」「カジュアルウェア2セット、正装1セットで。正装は赤にして、できるだけ鮮やかなものがいい。あとヘアメイク師を1人手配して」「何をするつもり?」紀美子は時間を見ながら答えた。「明日、渡辺グループの100年目セレモニーに出る」「正気か?!100年目セレモニーとかに出る場合じゃないだろ?!奴らに袋叩きにされたらどうする?!」朔也は紀美子を見つめながら問い詰めた。紀美子はただ朔也に笑顔を見せ、何も答えなかった。朔也は急に悟ったかのように、驚いた顔で言った。「あなた、まさか……」「そう」紀美子は朔也の話を中断して言った。「私達、そろそろどん底を抜け出すわよ!」……12月30日。渡辺グループの100年目セレモニー当日。殆どの上流階級の人々が、午後5時までに帝都において最も豪華なホテルに集まるように招待を受けた。ホテルの外、ボディーガード達が2列に並び、沢山の記者達が参加者の写真を撮っていた。しかし残念なことに、参加者は皆マスクを被っていた。ホテルの化粧室。ヘアメイク師は狛村静恵に精細な化粧をしていて、彼女が着ているイブニングドレスはその美しさを一層目立たせていた。渡辺野碩は、満面の笑で化粧室に入ってきた。静恵の美しい姿を見て、濁っていた両目は愛情に満ちた。「うちの静恵ちゃんが今日こんなに美しいとは」野碩の声が聞こえて、静恵は振り返った。「外祖父様、それは褒めすぎですわ」野碩は彼女の手を握り、「静恵ちゃんが美しいのに、褒めちゃいけないのか?」と言った。静恵は恥ずかし気に野碩の肩に寄り添い、「外祖父様、私を見つけ、更にこんなに素敵な生活をくれたことを感謝していますわ」と言った。野碩は気分が良くなり、静恵の手を握りながら言った。「静恵ちゃん、ワシは一番いい物を全部君にあげるから!」時を同じくして。Tyc社にて。紀美子はカジュアルウェアの姿でボディーガードに囲まれて会社を出た。外で待っていた記者達は、彼女が
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第619話 一曲踊りませんか

 車の中にて。「事前に大きめの帽子を用意していて良かった。でないと髪の毛までやられていたよ」露間朔也はティッシュで入江紀美子の顔を拭きながら言った。紀美子はティッシュを受け取った。「トレンドでトップになった?」「まだそんなことを気にする余裕があるのかよ?!」朔也は目を大きくして、言った。「そろそろ自分の心配をしたらどうだ?」紀美子は朔也の話を気にせず、携帯を出してトレンドの状況を確認した。自分の動画がトップに上がったのを見て、彼女は笑みを浮かべた。100年目セレモニー?そう順調に行わせるワケがないでしょ?携帯をしまい、紀美子は渡辺翔太にメッセージを送った。「モノは用意できたの?」「安心して、準備万全だ。あとは君が来るのを待つだけ」翔太がすぐに返信してきた。紀美子の目の奥の闇が深くなった。「お兄ちゃん、今回の件で、渡辺野碩がかなりのショックを受けるはずだわ」「彼にもそろそろ、自分がどれほど愚かなことをやらかしたかを分かってもらう時期さ」紀美子は唇をすぼめ、携帯を置いてから窓越しに外を眺めた。今回は必ず成功する!20分後。紀美子はホテルの隣にある、朔也が事前に買収しておいた洋服屋に着いた。僅か10数分後、彼女はイブニングドレスに着替え、化粧まで済ませた。彼女が化粧室から出てくると、朔也の表情は一瞬で引き攣った。元々紀美子は美しかったが、口紅を塗った今、一層凛として見えた。赤いイブニングドレスが、彼女の肌をもっと白く引き立たせた。「G!今後はずっと真っ赤な服にしたらどう?マジでオーラ―が強すぎる!まるで女王様のイメージだ!!」朔也が思わず称賛した。紀美子は朔也に、「マスクは?」と聞いた。朔也は持っていた黒色の半面マスクを手渡した。紀美子はマスクをつけ、朔也の腕を組んだ。「よし、行こう」朔也は頷き、自分もマスクを身につけ、紀美子と一緒に洋服屋を出た。彼女達はボディーガードに声をかけてから、ホテルへ向かった。翔太からもらった招待状があったので、2人は順調にホテルに入れた。マスクをつけていたので、記者達は紀美子のことが分からなかったようだ。しかし、紀美子達がホテルに入った途端、森川晋太郎もマスクをつけて車から降りてきた。その見慣
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第620話 準備しておいて

「お前、正気か?!」森川晋太郎は入江紀美子に怒鳴った。「まだ他の男とダンスするなんて、今がどういう状況か分かっていないのか?!」紀美子は晋太郎に引っ張られて痛んだ腕を揉みながら答えた。「あなたと関係ないわ!」晋太郎の怒りは全く鎮まりそうになかった。「関係ないだと?俺はお前の元上司、お前がこんなに自堕落に甘んじるのを放任することはできない!」自堕落、だと?紀美子の目は充血した。彼からは、自分はそういう風に見えているのか?ここ数日たまりにたまった苦痛が、晋太郎の刺激で一気に爆発した。「今日は狛村静恵の独擅場。彼女に会いに行けばいいじゃない!」紀美子は大きな声で叫んだ。「何で私だけ手放してくれないの?!」そう言って、紀美子はその場を離れようとした。しかし晋太郎が再び彼女の腕を掴んだ。「一体何をしようとしているのか、教えてくれ。まだあの男と踊りたいのか?!よその男と抱き合うのがそんなに好きなのか?あいつが手をどこにおいていたのか、分からなかったのか?!」紀美子は驚いた。自分が男と抱き合うのが好きだと?!ならば、彼が絶えず静恵と接触してきたのは何だっていうの?!紀美子は怨念丸出しの目つきで晋太郎を睨んだ。「あなたとは関係ないわよ!分かってくれた?」紀美子がまた戻ってよその男と踊るのを思うと、晋太郎の怒りは有頂天外になった。彼は思い切り紀美子を懐に引き込み、彼女の首を押えてキスをした。紀美子は驚いて目を大きく見開いた。「むっ……あなた……」晋太郎は全く放すつもりがなく、紀美子の下唇を歯で噛んだ。紀美子は痛みを感じたが、目の前の怒りの炎に燃やされている男を、力ずくでも押しのけられなかった。晋太郎は、相手からの反抗が感じられなくなるまで、そのキスを続けた。彼は紀美子の暗くなった瞳を見つめ、低い声で言った。「お前、一体何をしようとしているのか、教えてくれ。俺がどれほどお前の力になりたいのか、分からないのか?しかし俺には上手くできない。万が一少しでも間違えて君を混乱させるのが怖かった」紀美子は瞬きをした。彼女には分かっていた。今日晋太郎に全部言わないと、復讐どころか、この部屋から出ることすらできないだろう。紀美子は気持ちを整理して、晋太郎の目を
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