永名は美穂が感情的になり、取り返しのつかないことをしないか心配し、最終的には彼女を手伝って翔吾を連れてくることに同意した。その後の数日間、何事もなく穏やかな日々が続いた。そして、この間の休養のため、翔吾の体調はついに手術を受けられる状態まで回復した。この知らせを聞いた桃は、すぐに雅彦に連絡を取った。雅彦はホテルでその知らせを受けて、喜びとともに一抹の寂しさを感じた。嬉しかったのは、翔吾の病気がようやく治る見込みが立ち、彼が病院で苦しむこともなくなることだった。だが、寂しかったのは、もう彼ら母子の前に堂々と現れる理由がなくなってしまうことだった。翔吾に約束した通り、これ以上彼らの生活を邪魔せず、彼らの幸せを見守ることに決めていたから。それでも、雅彦はすぐに病院へ駆けつけた。医者が手術のリスクと注意点について説明をした後、雅彦と翔吾を手術室へと連れて行った。雅彦は手術台に横たわる翔吾の手を握りしめ、「怖くないか?」と尋ねた。翔吾は首を横に振り、少し考えた後、雅彦の手を握り返した。その瞬間、雅彦の心にじわりと何かがこみ上げ、彼は視線をそらして医者に向き直った。「準備はできました。始めてください」二人が手術室に入った後、桃は外で待つことになった。「桃、心配しないで。この手術のリスクは低いから、きっと大丈夫だよ」佐和は彼女を励まそうとした。桃は頷いたが、頭では理解していても、手術を受けているのは自分の翔吾だった。彼女は息が詰まるような緊張感に包まれていた。どうか、無事に終わってほしい。桃は手を握りしめ、心の中でそう祈り続けた。佐和は彼女の隣に立ち、肩に手を置きながら、一緒に静かに待っていた。どれくらいの時間が経ったのかわからなかったが、手術室のドアが開き、まず翔吾がストレッチャーで運ばれてきた。桃は急いで駆け寄り、「先生、移植は無事に終わったんですか?」と尋ねた。医者は微笑み、「ご安心ください。全て順調です。あとは拒絶反応が出ないかどうか、それさえクリアすれば、もう心配いりません」と答えた。その言葉を聞いて、桃は張り詰めていた心がほぐれて、安堵の涙がこぼれ落ちた。長かった苦しみが、ようやく終わったのだ。佐和も、彼女が嬉し涙を流す姿を見て心を痛め、桃をそっ
最終更新日 : 2024-10-27 続きを読む