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第0346話

綿はしばらく待っていたが、輝明はそれ以上何も言わなかった。

彼女は微笑みながら尋ねた。「もしかして私のことを心配してるの?」

彼は一瞬動きを止めた。

彼自身、先ほどの自分の口調がどれだけ急いでいたかに気づいていなかった。

彼の表情や声は、まるで彼が本当に綿を心配していたことを物語っていた。

「話をそらすな」彼は苛立ち気味に答え、その質問には正面から答えなかった。

綿は唇をわずかに持ち上げて、「そらしてるのはあなたでしょ」

「綿、自分の命を軽んじるな」彼の目は真剣で、警告するような色が浮かんでいた。

彼女の微笑みは次第に薄れ、ついには消え去り、顔には冷静な表情が戻った。

「私がどうなろうと、もうあなたには関係ない。これから先、私に何かあっても、もう来ないで」綿の声は冷たく響き渡った。

輝明はわずかに眉をひそめた。その言葉はまるで、自分が彼女を助けること自体が無意味だと言わんばかりだった。

綿は彼を一瞥し、何も言わずそのまま病室を出て行った。

外に出ると、ちょうど戻ってきた秀美に出くわした。

「綿ちゃん……」秀美は優しく声をかけた。

「お義母さん、少し気分が悪いから、自分の病室に戻るわね」綿は柔らかく言った。

秀美は何か言いたげだったが、綿はすでに彼女を押しのけるようにして去っていった。

秀美はそれ以上引き止めることはできず、再び輝明の病室へと戻った。

病室に入ると、複雑な表情で輝明を見つめた。「何話してたの?なんだか重い雰囲気じゃない」

輝明はドアの方をじっと見つめ、目が冷たく深い光を帯びていた。

本当に綿のことが分からなくなっていた。

彼女は自分との離婚を決めた時から前に進み続けていたが、自分はその場に留まり、進むどころか後退していたのかもしれない。

輝明は頭を垂れて、深いため息をついた。

手で頭を掻きむしり、何とも言えない感情が胸に込み上げてきた。

綿の言葉が、彼の頭の中で何度も響いていた。

「これで、私たちは完全に清算だ」

「次に何かあっても、もう来ないで。私がどうなろうと、もうあなたには関係ない」

輝明は、まだ綿からこんな冷たく突き放すような言葉を受け入れることができなかった。

あまりにもよそよそしかったから。

「何考えてるの?」秀美は彼の前に歩み寄り、ため息をついた。「ドアの方をじっと見て、誰を見てるの
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