共有

第0347話

輝明が言おうとしていた言葉は、まだ口に出される前に遮られた。

病室のドアが勢いよく開き、美香が慌てて入ってきたのだ。

「どうなっているの?」

「何も言わずに、私がニュースで知るなんて。輝明、怪我をしたんでしょう?」

美香は汗をかきながら、少し混乱していた様子だった。

秀美は輝明を見つめて、眉をひそめた。さっき、彼は何を言おうとしていたのだろうか?

「秀美、あなたもよ!輝明が怪我をしたって、どうして一言も教えてくれなかったの?」

美香は、秀美の腕を軽く叩き、彼女の意識を現実に引き戻した。

「お義母さん、ごめんなさい。心配させたくなかったんです」

秀美は申し訳なさそうに言った。

「本当に、大丈夫なの?」美香は、輝明を指さしながらさらに尋ねた。

「大丈夫です。何も心配いりません」秀美は安心させるように頷いた。

「それなら、綿ちゃんのところに行ってくるわ」美香はそう言うと、すぐにその場を立ち去ろうとした。

「おばあちゃん、あなたは誰のおばあちゃんですか?」輝明は不満そうに言った。

美香は彼を一瞥し、「綿ちゃんのおばあちゃんよ!あなたにとっては義理のおばあちゃんよ。この不孝者!」と叱りつけた。

輝明「……」

秀美はクスッと笑い、美香が部屋を出て行く後ろ姿を見つめながら頭を振った。

「それで、さっき何を言おうとしていたの?」秀美が再び輝明に尋ねた。

彼は唇を動かし、一瞬ためらった。秀美にこんなひどい扱いにされてもこの話を言わなかった。輝明は、嬌が自分を救った話をしようか迷ったが、結局黙って首を振り、「何でもない」と答えた。

「何だか秘密めいているわね」秀美はそう言い残して、部屋を出て行った。

「どこに行くのか?」輝明は尋ねた。

「綿ちゃんのところよ!」

輝明は苦笑し、静かに呟いた。「秀美さん、あなたは俺の母なのか、それとも桜井綿の母なのか?」

「ふん!」秀美は答えず、少し誇らしげにその場を去った。

病室には再び静寂が訪れた。

輝明はベッドに寄りかかり、綿と再会した時のことを思い出していた。彼女の赤く血走った目、必死に「助けなんていらない」と言い張る姿。それを思い返すたびに、胸が締めつけられるようだった。

彼女は、こんなにも自分を拒絶しているとは思えなかった。

輝明は目を閉じ、心の中が乱れていた。まるで何千匹もの蟻が彼の心を食
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status