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第0326話

須田先生は眉をひそめ、どこか落ち着かない様子だった。

しかし、綿に外へ押し出され、仕方なくその場を離れた。

患者の家族は、須田先生が出てくるなり声を荒げた。「おい、あんたまで出てきたのか?あの医者は誰だよ?本当に大丈夫なのか?

「もし妻に何かあったら、ただじゃ済まさないからな!」

その怒鳴り声は綿の耳にもはっきりと届いた。

そこへ、急ぎ足で小栗主任がやってきた。声が聞こえたため、慌てて状況を尋ねた。「どうしたの?」

「小栗主任!待ってました!」患者の家族は小栗主任の腕を掴み、まるで命綱を見つけたかのように言った。「妻の容態が悪いんです!」

「なんでみんな外にいるんだ?中には誰がいる?」小栗主任は病室に目を向け、中に人影が見えた。それから、須田先生と桑原看護士を見つめた。

「えっと……桜井先生です」桑原看護士が小声で答えた。

「なんですって?」小栗主任の眉がピクリと動いた。綿が一人で処置しているなんて、冗談じゃない。

「患者の症状は?」小栗主任はマスクを装着し、病室のドアに手をかけた瞬間、中からドアが開いた。

そこには綿が立っていた。

「処置は終わりました」綿は淡々と答えた。

小栗主任は一瞬、唖然とした。「終わった?」

須田先生は信じられない様子で急いで中に入り、機器のデータを確認した。

つい先ほどまで命の危機にあった患者のバイタルは、すべて正常に戻っていた。

いったいどうやって?

須田先生は驚き、綿に視線を戻した。彼女は両手をポケットに入れ、静かに周囲を見渡していた。

心停止を起こした患者にアドレナリンを的確に投与し、自分の方法で見事に蘇生させたのだ。

須田先生は言葉を失った。

小栗主任ももう一度患者の状態を確認したが、どこにも問題はなかった。

「お前……」患者の家族は綿を指差し、もう一度病室の中を見た。妻の顔色は回復し、無事に安定していた。

小栗主任はふと笑みを浮かべた。

「無事ならそれでいい」そう言いながら病室を出て、綿に向かって言った。「でも次からは勝手なことをしないように」

この患者は自分の担当だ。

もし何か問題があったら、誰が責任を取るのか分からない。

綿は素直に頷いて、「すみません、小栗主任。焦っちゃって」と軽く笑って謝った。

「でも、よくやったわ」小栗主任は満足げに微笑んだ。

どうやら綿は、ただ者
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