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第0245話

輝明は静かに「離して」と言った。

「嫌だ」と嬌は目を赤くしながら首を振った。その姿はまさに哀れみを誘うものだった。

綿は、嬌が輝明の腰にしがみついているのを見て、眉をわずかに寄せたが、淡々とした表情で言った。「おばあちゃんの様子を見てきたけど、大丈夫だったわ。私はもう仕事に戻るから」

それだけ言い残して、綿は背を向けた。

「桜井」と、輝明が反射的に彼女を呼び止めた。

綿は振り返り、彼を見つめた。その視線は自然と嬌へと移り、その後再び輝明を見た。「何か話がある?」

輝明は眉を寄せ、視線が交錯した。数秒の沈黙の後、「仕事が終わったら話そう」とだけ言った。

綿は輝明の目を見つめ返した。彼の瞳には言いたいことが山ほど詰まっていて、その中には疑念や不満が滲んでいた。

それをなんとなく察し、綿は目をそらしてから静かに頷き、「わかった」と答えた。

また何かを押し付けられるんだろう、と彼女は内心で苦笑し、無言でため息をついた。

輝明は綿が去っていくのを見送り、その後、嬌に「もう離してくれ」と言った。

彼は嬌が何を考えているのか、手に取るようにわかっていた。

嬌は黙って離し、彼の顔色を伺った。

彼が何も言わなかったことで、自分の行動が許されていると感じ、これからはもっと強気に出られると内心で思った。

「明くん、あたしもおばあさまの様子を見に行く」と嬌は立ち上がり、輝明に続いた。

しかし、彼はシャツの襟を整え、彼女が抱きついていた場所を軽く払い、「やめておけ。おばあちゃんは目を覚ましたばかりで、体調が良くないから」と淡々と言った。

嬌が見舞いに行けば、余計におばあちゃんを苛立たせるだけだ。

「明くん、おばあさまはまだあたしを受け入れてくれないのね」と嬌は頭を垂れ、悲しげに言った。

「時間が解決してくれるさ」と彼は言い、森下に電話をかけ、「陸川さんを家まで送ってくれ」と指示を出した。

電話を切り、嬌はその場に立ち止まった。

輝明が救急室に戻っていくのを見て、彼女の目は次第に暗く沈んでいった。

彼の心に、まだ自分は入り込めていないのだ。

……

病室で、輝明は病床に横たわる美香を見つめ、胸が痛んだ。

美香は顔色が悪く、酸素マスクをつけていて、非常に苦しそうな状態だった。

小林院長が、彼女の命はいつ途絶えてもおかしくないと言った。

輝明は眉を
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