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第0167話

ちょうどその人が振り向き、彼女を見つけた。

二人の目が輝いた。

綿はその人が自分に向かってくるのをはっきりと見た。

「綿、こんなところで会うなんて、偶然だね。一人?」秋年は喜びの調子で、左右を見渡した。

綿は唇を引き締め、少し無力感を覚えた。クラブでも知り合いに会うとは、横浜は本当に狭い。

「玲奈と一緒よ」綿は一方のカウチ席にいる女性を指差した。

秋年がカウチ席を見ると、玲奈は頭を下げてスマホを見ており、その姿は薄っぺらだった。クラブがどんなに混んでいても、彼女は一目で見つけられる存在感があった。

玲奈の気品は確かに特別で、他人には真似できないものだった。

秋年は眉を上げて、ぼそっと言った。「ふむ、俺一人だよ、輝明は来てないよ」 綿は秋年がこんなことを急に言うとは思ってもみなかった。

「知ってるわ、彼は陸川家に行ったから」綿は淡々と答えた。

クラブの騒音が彼女の声をかき消そうとしたが、秋年にははっきりと聞こえた。

「どうして知ってるんだ?」秋年は少し驚いた。

綿は微笑んで、この件についてはすでに吹っ切れているようだった。

彼女はわざと秋年の方に近づき、両手を背中に回し、大きな瞳を輝かせて言った。「だって、その時彼は私を家に送ろうとしてたの。でも嬌に会ったから、一緒に行っちゃったの」

秋年の目には一瞬の無力感が見えた。

輝明の前では、綿と嬌では、嬌が常に彼の第一選択だった。

ただ、綿が急に近づいてくると、秋年は彼女の美貌に驚かされた。

普段は綿と普通の距離を保っていたが、これほど近くに来たのは初めてだった。

綿は本当に美しい。眉目、唇…そして腰のライン、どれをとっても一流だった。

「遊んでくるね。自由にしてて、今夜は私がおごるから」綿は秋年の肩を軽く叩いた。

秋年が何か言う前に、彼女は再びダンスフロアに戻った。

秋年は彼女が数人の男たちと絡み合い、まるで野生のように遊ぶ姿を目の当たりにした。

彼女が自分におごると言ったが、普通は逆ではないのか?秋年は笑みを浮かべ、綿が本当に面白いと思った。

秋年は自分のカウチ席に戻り、スマホを取り出して輝明にメッセージを送った。

秋年:「輝明、お前の前妻、本当に面白いよ。バーで彼女に会ったんだが、なんと俺に酒をおごるってさ!」

秋年:「ただ、少し酔っているみたいだ」

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