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第0163話

洗面所から他の男が出てきた。その男は綿を見て一瞬立ち止まり、自分が間違って入ったのではないかと疑った。

綿は一度唾を飲み込み、すぐにその場を去ろうとした。

しかし、輝明は綿の腕をつかみ、その深淵のような冷たい目で綿を見つめていた。

綿は眉をひそめ、視線で「離して」と伝えたが、輝明はまったく放す気がないようだった。

その時、20代と思われる男が入ってきて、ふらついた足取りで綿の肩にぶつかり、綿を輝明の胸に押しやった。

輝明の腕が軽く収まり、綿は自然と彼の胸に飛び込んだ。

彼は綿を抱きしめ、その後ろから聞こえた声は、「この女、なんで男のトイレにいるんだ?」と怒鳴りながら歩いてきた。

その男は手を伸ばして綿の肩をつかみ、外に引きずり出そうとした。

輝明の平静な顔に微かな動きが見え、眉をひそめて綿を引き寄せ、その男の手は宙をつかむだけだった。

「間違えました、すみません」輝明はまだ落ち着いた声で言った。

綿は輝明を一瞥し、彼も目を伏せて四目が合った。綿は彼に守られていると感じた。

彼が自分のために他人に謝罪するなんて……それだけで綿の心がときめいた。

少女時代の彼女は、こうして彼を愛するようになったのだ。

「お、お前は彼女の何なんだ?」男は朦朧とした目で輝明を指差し、傲慢な口調で言った。「迷ったって言うのか?この俺が彼女に見られて……損したらどうする?」

その言葉に輝明は嗤笑し、皮肉たっぷりに言った。

「損しただと?」

どんな精神状態でこんな恥知らずなことを言えるんだ?

綿もその男に視線を向け、男のぼうずあたまとビール腹を見た瞬間、人生が味気なく感じた――平凡な男!

「相手にしないで、精神病よ」綿は輝明の腕を反手で引っ掛け、彼を連れて行こうとした。

輝明は眉を上げ、綿の手を見て興味深そうに口元に淡い笑みを浮かべた。

しかし、綿が二歩進んだところでその男に止められた。「誰が精神病だって?」

綿は冷たい目で男を睨みつけた。もちろん、彼のことだ。

「お前が男子トイレに入って、俺を精神病呼ばわりだと?はあ、今すぐ警察に通報して、お前を嫌がらせで訴えてやるぞ?」男は綿の鼻先を指差し、威圧的に言った。

綿はうんざりした表情で「勝手にしろ」と答えた。

「待て!」男は綿の腕を掴み、行こうとする彼女を引き戻した。

「何を威張っているんだ、お前
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