第0113話

休憩室。

綿がドアを開けると、ソファに座っている男性の姿が見えた。彼は黒いスーツを着ており、長い脚を組んで優雅に雑誌をめくっていた。

その姿はまるで貴族のようで、動作の一つ一つに気品が漂っていた。

綿はドアを一度ノックし、中に入った。輝明が顔を上げ、綿の冷静な瞳と目が合った。

「何か用？」彼女の平淡で疎遠な口調は、二人の関係がここで終わったことを輝明に再度思い知らせるものだった。

彼女はもう愛さないと言い切り、それがまた潔い。

しかし、輝明は考え続けていた。もしかすると、彼を救ったのは綿ではないかと。

輝明は茶卓を指さした。綿はそこで初めて、茶卓の上に離婚協議書が置かれているのを見た。「綿、私は新しい離婚協議書を作成した。昨夜君が言った通り、財産を半分に分ける」

綿は一瞬驚いた。彼女は腰をかがめて、茶卓の上の離婚協議書を手に取った。

輝明のサインはすでにされており、それはまるで彼女が彼と結婚したその夜、彼がサイン済みの離婚協議書を渡してきた時と同じだった。

ただ、当時とは異なり、今回は彼の態度が少し友好的だった。

「この数年、君は忙しく立ち回り、祖母を世話し、両親の感情をなだめ、私のために家族と争ってきた。私はとても申し訳なく思っている。だから、高杉氏グループの株式の10％を君に分けるつもりだ」彼は唇を引き締め、その目を綿の顔に向けた。

綿は10％の株式を聞いても驚かなかった。ただ、この瞬間、もし彼女が輝明のお金だけを目当てにしていたらよかったのにと思った。

そうすれば、心は痛まなかった。

しかし、彼女が求めていたのは輝明が最も与えられないもの、つまり感情だった。

お金は輝明にとってただの身の回りの物であり、彼が生きている限り、彼は価値を生み出すことができるのだから。

「財産を半分分けると言ったのは冗談よ。輝明、私はお金に困っていない」彼が彼女をお金で補償する必要はない。

「君がお金に困っていないことは知っている」彼はただ心の安らぎを買いたかったのだ。

「以前の離婚協議書を使いましょう」

その離婚協議書は非常にシンプルで、両者の夫婦関係を解除するものだった。

輝明は綿が頑固だということを知っていた。彼女が「要らない」と言ったなら、それは本当に要らないのだ。

今回は、彼女の言う通りにする。

輝明は頷き、離婚協議書を取り戻した